俺の日常3
俺の日常3
放課後...いつものその時間は部活に向かう人や友達と教室で話す人やすぐに帰る人、それぞれ違うがそういった行動を起こすだろう。
しかし、今日はそうではなかった。
理由は明確今朝の玲奈に好きな人がいるという発言以降男子はソワソワし、女子も誰のことか気になって仕方ないらしい。
玲奈は誰かを明言していないため、誰のことを言っているのか既に学校全体に広がってしまったこの盛大なスクープに釘付けとなっている。
「まさか、蘭堂さんの好きな人って...俺。」
「そんなわけあるか、けど俺かもしれねぇ。」
男子の希望的観測や
「でも、きっと年上のカッコイイ人じゃない?玲奈って大人びてるし。」
「えー、でも年下の子にお世話してあげるってイメージもあるよ。」
女子の止まらない妄想といった内容が耳を澄まさなくても勝手に入ってくるくらいそこら中から聞こえてくる。
件の玲奈は教室から気づいたら姿を消していた。
(もう帰ったのか、俺もそろそろ帰るか。)
鞄を持ち喧騒の止まない教室を後にした。
昇降口でロッカーを開け、靴を取ろうとするとその上に何かピンク色の封筒らしきものが置いてある。
(まさか…そんなわけないよな。)
ほとんど重さなどないその封筒を手にした時、緊張なのか手が震え汗が吹き出すような感覚だった。
自分の中で期待と現実ではないのではないのではないのかと疑う2つの気持ちが生まれる。
そもそも誰からかもわからないし、この時代ラブレターと言う古式な手段で告白されることってあるのかと自分で自分を落ち着かせるように言い聞かせできるだけ挙動不審にならないように鞄に封筒を素早く入れて靴を履く。
昇降口で開けると流石に目立つだろうし、人の少なそうなところに移動するか。
何とか平常心を保ち、すっかり落ち着きの無くなってしまった全身を制御するのもやっとだった。
(ここまで来れば大丈夫か…。)
あれだけ玲奈の好きな人いる宣言で騒がしかった校舎から離れ、今は使われていない旧校舎の裏側まで来ると人の気配も声もまるで無くなった。
俺は大きな息を吐き、体から力を抜きその場にへたり込んでしまった。
フラれたことはあっても告白なんかされたことないし、ラブレターをもらったことだって勿論ない。
リア充になりたいと叫んでいた、拓哉に冷静に返していた自分が恥ずかしくなるようなくらい体が熱い。
高校2年生まで恋愛を経験して来なかった代償がここに来て自分にここまで影響を与えてくるとは。
玲奈という幼なじみのおかげで女性には慣れてはいても、それが今まで経験したこともないことまで対応してくれるわけではない。
何なら直接告白されるよりも誰なのか、中身は…と気になる気持ちを抑えられず平静を保てない。
(まずは中身を確認しないとな…まだ誰からかも、そもそも告白じゃない可能性だってあるんだし。)
俺は鞄の中に仕舞い込んだ、封筒を取り出して、震える指で封を開ける。
中には一枚の紙が入っているのが見えた。
(や、やっぱラブレターなのか…。)
その紙を封筒から引き抜こうとした時、足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。
「…」
そこからの俺の動きの速さは生涯で最も速いんじゃないかってくらいで、すぐに封筒を鞄に仕舞い込んで脱兎の如く校舎の影に隠れた。
息を潜めて隠れていると、やはり聞き間違いなどでは無く足音2つが近くにきた。
幸い、あそこから今俺のいる所は見えそうにない。
とは言え、やっとラブレターの中身を確認することができそうだったのにそれを阻止されてしまうとは。
今ここで封筒を見れないこともないんだろうけど変に物音立てて、いることがバレても面倒だし立ち去ってしまったらいよいよ家に帰るまで確認するタイミングを失いそうだ。
(早く立ち去ってくれないかな…。)
そう、心の中で祈ることしかできなかった。
「ここまで来てもらってごめんね。単刀直入に言います、好きです。僕と付き合ってください。」
その声は身を潜めていた俺にもしっかり聞こえてきた。
(告白だったのか!!ーーーそれならここにいるのは申し訳ないな。)
他の人にラブレターを見られたくなくてここまで来たのに、その俺が他の人の告白を盗み聞いてしまうのは何か違う気がする。
しかし、その後聞こえてきた声によって俺はその場から動けなくなった。
「ごめんなさい。竹下先輩のお気持ちには答えられません。」
その声は俺にとって最も聴き親しんだ声であり、聴き間違えるはずもない声。
俺は物音をできるだけ立てないように、2人の姿を視界に捉える。
女子生徒は蘭堂玲奈。
男子生徒は噂のサッカー部主将の竹下先輩。
玲奈の告白自体は珍しいことではないのだけれど、今の状況や今朝の発言のせいで目が離せなくなっていた。
私はキッパリと告白を断った。
香織が確か話していた竹下先輩。
授業が終わって、今朝の発言について追及されないように教室を足早に立ち去ったけど声をかけられた。
旧校舎の方に向かったから多分そうだろうなと思ったけどやっぱり告白だった。
「理由は好きな人がいるからかな?」
竹下先輩は躊躇いがちに聞いてくる。
「はい、私は好きな人がいるので。その人以外とは付き合う気にはなれません。」
私の気持ちは決まってる、ずっと前から。
「それが誰なのか聞いても良い?」
「すみません、私の片思いですし、それはその人の迷惑になると思うので。」
言えない。
一度その過ちを犯して、数え切れないほど後悔し続けたのだから。
「そうか。時間を取れせてごめん。真剣に答えてくれてありがとう。」
竹下先輩は私に頭を下げて、去っていった。
こうして告白を断ることも言い方は悪いかもしれないけど慣れてしまった。
気持ちを伝えてもらえること自体が嫌なんていうほど自惚れてはいないけど、本当に欲しい人からその言葉が聞けたらどれだけ嬉しいのだろうと想像するだけで胸が裂けそうになる。
あと帰る前にすることはこれを盗み聞きしていた悪い男の子にお仕置きするくらいかな。
「ねえ、もう先輩いなくなったよ。ーーー出てきたら?奏多。」