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素直になれない俺と彼女たち  作者: re:まったり
30/57

追跡ともう1人

俺は神社に着いたものの春沢たちを発見することが中々できなかった。

さすがは観光スポットというだけあって、人が多い。

外国人、家族連れ、学生、友達等でできた異常な混雑は発見を遠ざけてしまう。

神社自体も比較的広く、出店なども夏祭りが近いのか、それ目当ての客もいる。


「こりゃ厳しいな。」


俺にとってはかなり深刻な状態だった。

玲奈を発見できないという問題ももちろんあるが、それ以上にこの人混みじゃ例え何かをされても気づくのが難しい。


「とりあえず制服のやつを探すか。」


今の俺には精一杯視界を広げて、玲奈たちを見つけることしかできないのだ。

春沢にも今の具体的な場所をメールで尋ねてはいるものの、返信がない。

ずっとスマホを見ているわけにもいかないだろうし、仕方のないことだとは思うが。


「んと、狭いな、ーーこれは。」


地元でこんなに人が集まるところは滅多にないし、そもそも俺がそのような場所に行くことはないので厳しいものだ。

そして、玲奈たちに直接俺が発見されても行けないため、この人混みに入ってしまったのは本当に失敗だったかもしれない。



止むを得ず、人混みでの捜索を諦めた俺は何とか人混みを掻き分けて神社の外まで出てきた。


「あとは玲奈たちが出てきてくれれば助かるんだが。」


神社には2つの出口がある。

俺のいる北側から出てこなかった場合には見失ってしまうという問題があるが、あの人混みじゃ例え見つけたとしてもすぐに見失ってしまうだろう。


そんな時、俺に聞いたことのある声が聞こえてきたのだった。


「奏多っち?どうしたの、こんなとこで。」


軽い口調に俺のことを妙な呼び方をする奴には1人しか心当たりがない、振り返るとその人物は俺の想像通りの人であった。

北島澪…俺の中学の同級生にして、今はギャルに変貌したバスケ部員である。


「澪…お前こそ何でここに。」


俺が聞き返すと、澪は少し恥ずかしそうに頭を掻き


「いや〜、お恥ずかしながら部のみんなとはぐれちゃってさ〜。1人でこうして悲しく食べ歩きしてたんだ。」


澪の両手には屋台で買ったのであろう、イカ焼きやりんご飴など、まるで祭りにでも来たんじゃないかってくらいの食べ物が携えられている。


「そうか…。俺も今そんなところだ。ーーそういや澪、玲奈たち見なかったか?」


もしかしたら、こいつが意外にも玲奈を見ている可能性がある。


「玲奈っち?ーーん〜、見てないと思うけど。どうしたん?」


「実は玲奈のこと探してたんだが、この人混みだからな…残念ながら見つからなかったんだ。」


「なるほど〜、あ、そう言えば玲奈っちって奏多っちと付き合ってるんだもんね。せっかくなら彼女と一緒に行動したいってわけか。」


澪はウンウンと頷きながら納得の表情をしているが、俺に有益な情報は残念ながら持ち合わせていないようだ。


「じゃあ俺はそろそろ…ーーー」


「じゃあこの美少女ギャル高校生の澪さんが奏多っちのために人肌脱いであげるよ。」


俺のセリフを途中で切った澪だったが、どういうつもりだ。


「いや、澪にそういうのは期待してないから。」


残念ながら、他の男子生徒ならともかくそれ以上の美少女が彼女の俺にとっては澪が人肌脱ごうがまるで興味が湧かない。


「そういう意味じゃないから!!!ーーーもう、奏多っちはすけべだな〜。」


「何だ…なら何をしてくれるんだ。」


もちろんそういう意味ではないことはわかっていたのだが、澪はこういう風にからかうのが中学の頃から面白い奴がった。


「奏多っちはいつもそうやってわかってるくせに、曲解するんだから。まあ面白いからいいんだけどさ。ーーーーそうそう、困ってる奏多っちのために私が一緒に探してあげるよ。中学からの友達だしね。」


「あぁ、それは助かるんだが…。」


確かにそれは助かるが、俺は今玲奈をただ見つければいいというわけじゃない…こっちは発見されずに怪しい人物を探す必要がある。

しかし、澪に協力してもらうには今何が起きようとしているのかを春沢みたいに説明する必要がある。

春沢だけでなく澪まで巻き込むのは…。


「やっぱ、俺1人で大丈夫だ。澪は気にせず楽しんでくれ、班の人も心配するだろうしな。」


中学の頃から俺の友人でいてくれる数少ない人物だ。

昔とは随分とイメージが変わって、ギャルになってしまったがそれでも俺とこうして話してくれているのは澪が俺のことを少なくとも友人だと思ってくれているから。

関係ないのに今回の件に巻き込むわけにはいかない。


「ん〜、やっぱ変じゃん。奏多っち私になんか隠してるっしょ?」


澪は俺のことをじっと見つめてくる。

その顔は話し始めた時よりも明らかに不機嫌だ。


「何を隠してるって?」


「何かはなんかなの!!いつもなら私の心配なんかしないっしょ。」


「心配しないとは失礼な…お前のことは人並みに気にかけているさ。」


「嘘じゃんか。私のことそんな風に気遣わないじゃん。そういう奏多っちだから面白いのに、今の奏多っちはちっとも面白くないし。」


何を隠しているんだ、さっさと言えという隠れた、いや隠す気もない真意が伝わってくる。


「澪こそ俺が隠しているんだから、素直に引き下がれ。」


「いやだし、奏多っちがそういう顔してる時は大抵良くないこと起こるんだから。」


こいつは…無駄に付き合いが長い分、玲奈ほどでなくても考えが伝わってしまう。

俺は隠していることが顔に出過ぎなのか…ポーカーフェイスができていると思っていたんだけどな。


「悪いが、言えない。お前が食い下がっても言う気はないぞ。」


「じゃあ私も奏多っちが言うまで下がんないし。ばか。」


頬を膨らませるんじゃない。

澪ってこんなに頑固な奴だったか?

もうこうなったら逃げ出すしかないか…すでに結構な時間が経ってしまっている。

玲奈たちもこの神社を離れた可能性が十分にあるし、ここで足止めを食っているわけにはいかない。


俺が、そうして足を神社の外に向けようとした時


「ビリリリリリ!!!」


俺のポケットに入っているスマホが着信音を鳴らしてきた。


「誰だ、…ーーー春沢!?」


驚いて声を出してしまったが、何か不吉な予感を感じ取って、俺はすぐに電話に出る。


「どうした、はるさーーー」


「新城!やばい、玲奈とはぐれた!!」


「なっ!!」


声が一瞬動揺を伝えてしまったが、春沢に聞かなきゃならないことがある。


「今どこだ、それと玲奈とはぐれた場所を教えてくれ。」


動揺しているのは俺以上に春沢だろう。

俺まで動揺しては行けない。


「うん、今私たちは駅前にいる…玲奈とは神社から駅までのどこかではぐれたんだと思う。新城、ごめん…。」


「大丈夫だ、あとは俺が何とかする。春沢たちは駅の方に玲奈が来たら教えてくれ。」


「わかった。」


春沢の声は悲しげだった、それだけじゃない…恐らく自責の念を感じているだろう。

だが、そもそも大事にしようとしなかった俺が春沢1人に任せてしまったのが悪い。


「ねえ。奏多っち、流石に教えてくれるんだよね。玲奈っちに何があったのか。」


もうここまで来たら隠すことはできないな。


「手短に話す。悪いが、澪ーーさっきまでと言ってることが変わってしまうが、玲奈を探すのを手伝ってくれ。」








「おけ、じゃあ私はここで玲奈っちが来るか見てる。」


「ああ、頼む。見つけたら俺に連絡をくれ。」


俺はそう言って駆け出した。

神社から春沢のいる駅の方に近いのは逆の出口だ。

そうなるとそっち側に玲奈がいる可能性が高い。

しかし、それはあくまで推測に過ぎない。

もしかしたら、神社で忘れ物をしたとかでまだ残っているかもしれないし、神社から駅までの道を歩いている可能性もある。


最悪なのはもう、海星の言っていた人物に何かをされてしまった場合だ。


俺は頭に浮かぶ、最悪なイメージを振り払いながら走り続けた。




「ふぅ、何とか着いたけど…。」


玲奈はいないか…南の出口までは着いたものの、玲奈の姿はない。

しかし、ここから駅までの間を考えても、人がこんなにいるんじゃ玲奈を連れ去るなんて簡単なことじゃないはず。

これだけの人が全員監視カメラのようなものだ。

発見されずに玲奈に連れ去ったりするのは簡単なことじゃない。


「待てよ…何かがおかしい。」


今もまだ春沢から連絡がないと言うことは玲奈がただはぐれたと言う可能性は限りなく低い。

玲奈が何かしらの連絡を春沢にしているはずだ。

それがないと言うことは明らかに玲奈は連絡が取れないような状況にいると言うこと。


「駅からここまではおおよそ10分くらいか。」


神社と駅は一本道だ、そう簡単に道を間違えることはない。


「考えられるのは…」


地図を見て…道をそれた場合最も大きな可能性である場所を


「見つけた!」


俺は地図を鞄に急いで詰め込んでまたさっきよりも早くダッシュをしたのだった。









「ここか…。」


この神社には南側に駅があるが、南出口を出てすぐ道を逸れると小さな森林のような場所がある。

公には森林浴を手軽にすることができると言うエリアだが、今では入場料なども廃止されて公園のような使われ方をしている。

スペースとしてはまあまあ広いが、人があまりいないのは、木が結構な本数生えてしまっているためピクニックなどに向かないだろう。

もう少し時期が遅ければ虫を捕まえたりする子供で賑わうこともあるかもしれない。


「えっと…」


とりあえず周囲を見渡す。

制服を着た人は…いないな。


「玲奈どこにいる…。」


俺は夏も近づいて、視界をかなり阻害してしまうほどに成長した、木々を避けながら道を進んでいく。









「も、もう逃げられないぞ。お前みたいな女はここでくたばるんだ。」


私の目の前にはナイフを持った男性がいる。

何とか逃げてきたはいいけど、人通りが少ない場所は彼()望んでいたところらしい。


「私に何か恨みがあるの。」


彼のことは知らない…そもそも修学旅行地に知り合いはいない。


「当たり前だろ!!!お前の、お前のせいで、僕がどんな惨めな思いをしたか。」


「私は君のことを知らない。残念だけど、人違いとかではないのかな?」


「そんなわけあるかっ!!!蘭堂玲奈、お前は許せない。」


どうやら私のことに間違い無いらしい。

そう考えると私は彼と知り合いということになるけど…ここまでの恨みを買った覚えはない。


「本当に忘れてるのか。お前、僕がこ、告白したのに断った挙句、すぐにあんなダサい男と付き合ったくせに。」


そうか…この人は私に告白した人なんだ。

()()()覚えていないわけだ。


「申し訳ないけど、告白をお断りしたのは私には好きな人がいたから。あなたのことは覚えていないし、好きな人以外と付き合ったりはしないの。」


そう、私の中で男性として認識されるのは奏多だけ。

それ以外の人に魅力を感じたことはないし、この先感じることもない。

彼がどんな気持ちで告白してくれたのかはわからないけど、その告白に対して不誠実に断ったことはない。


「う、うるさい。じゃあ何であんな奴なんだよ。僕よりあんなやつのどこがいいんだ。お前なら男なんて選びたい放題だろ、あんな奴が好きなわけないじゃないか。」


この人は私が嘘を吐いていると思っているのだろうか…まあそうかもしれない。

香織のように口に出して私が奏多と付き合っていることを否定した人は少ないけれど、心の中でそう思っていることが少なくないことは私にもわかる。


「あなたに奏多の何がわかるの?」


「うっ。」


私は自分でも恐ろしく感じるほど冷たい声を出していると思う。

こんな声や感情を完全に怒りに任せた表情は滅多に出ることはない。

ここは母親譲りなのかもしれない…私の激情の性格というものは。


「あなたは奏多のことを何も知らない…なのに私の好きな人を否定しているの。許さないのは私の方。」


ここまで怒りを覚えてしまって、吐き出すことも厭わないのは…もう目の前にいる人物に対して何の感情も思わないからだろうか。

最初刃物を向けられて追いかけられた時は少し怖かったのかもしれない。

他にも人がいたし、巻き込んでしまったら面倒な問題が増えるから。

けれど今はもう何も感じない。

ただただ嫌悪の感情だけが溜まっていく。


「こ、怖くないのか…刺されたらただじゃ済まないんだぞ!!」


そう言って刃物を震えた手で大きく振る。

当然と言っては何だが彼は私に本当に怪我をさせるのを怖がっている。

まだ完全に犯罪に手を染める覚悟もなければ、刃物をしまうこともできない。


そう、怖いのだ…こんなことをしてしまったという事実があるから引き下がれない。


「怖くないよ。あなたが何をしようと私には何もできはしないから。」


「ふざけるなあ!」


大きく叫んだが、そんな迫力もない…よく見れば手だけではなく全身が震えている。

足はまれたての小鹿のように今にも倒れてしまいそうなくらいだし、声もどんどん震えが大きくなってきている。

それを大きな声で何とか誤魔化そうとしているのかも知れない…私ではなく自分のことを。


「もう、行ってもいいかな。心配しなくても君のことを誰かに言ったりはしないよ。友達が待っているし、面倒は私も困るから。」


私は話を切り上げようとする。

私と彼の妥協点…私にも非がないとは言い切れないから。

告白をされることをいつからか奏多でないことを残念に感じて、1人1人に真摯に向き合っていたとは自分でも思えない。

だから、このような事態になったのは私のせいでもある。

奏多のことを悪く言ったのは許せないけど、この先関わる事はないだろう。


「玲奈っ!!」


その時、私の最も愛する人の声が聞こえたのだ。

聞き間違えるはずのない、何よりも大事な人の声が。










「玲奈っ!」


目の前にいる人物は何者だろうか…制服ではないから同級生ではないのか。

いや、着替えたという可能性もある。

それよりも…


「大丈夫か、玲奈。」


俺は玲奈に駆け寄って、男との間に入る。


「奏多、どうして。」


玲奈は少し動揺しているようだ。

まあ、無事で良かったが流石に怖かったのだろう。


「悪い、春沢からはぐれたって聞いて、いてもたってもいられなくて。」


俺の息が絶え絶えだ。

頭の中を冷静にしなくては。


「お、お前はっ!!」


目の前の男は俺を強く睨みつけてくる。

男の手にはナイフが握られている、相手も冷静とは言えないな。


「悪いけど、ここまでだ。玲奈には手は出させない。」


両手を大きく広げて背の後ろに玲奈を隠すようにする。


「お、お前みたいな奴が…何でなんだよ!!!俺とそんなに違うのかよ、ただ幼なじみってだけだろ、俺だって蘭堂のことが好きだったんだ。お前みたいな平凡な奴が何でそこにいるんだよ。」


彼の瞳からは涙が垂れている。

気持ちは分からないとは言えない。

俺が玲奈に釣り合っているか…それは俺自身のコンプレックスでもあったから。


「お前の言いたい事はわかる。確かに俺は玲奈に比べたら平凡でどこにでもいるような男かも知れない。」


「ならどうして!!」


「でも、俺は玲奈のことが好きなんだ、誰よりも。悪いけどそれだけはお前にも、他の誰にも負ける事は決してない。」


俺ははっきり言い切る。

それだけは揺るがない、誰にも負けない事だから。


「そ、そんなの。」


そんなの、自分だって…と思うだろうな。

気持ちを比べるのは難しい、他の人には見えないものだろうし…比べることができたとしても納得ができるものでもないだろう。


「俺はお前の気持ちが少しはわかるよ。何回も俺じゃ釣り合わないって思い知ったから。けど、俺はそんな風に自分を卑下しても玲奈が喜ぶ事はないってわかったんだよ。」


玲奈は俺のことをずっと好きだと思ってくれていた。

俺だってそうだったけど、他人の評価がいつも気になって、その気持ちから目を背けていた。


「だから、これからの俺たちを見ていてくれ。俺は誰よりも玲奈を愛してみせる。それでも信じられない時は何度でもこうして話すから。ーーーだからそんな刃物しまってくれ。お前がそこまで悪い奴じゃないのは俺にもわかるから。」


確かにこいつは玲奈のことを傷つけようとして、こんなところまで追ってきたんだろう。

でも、こいつが本当に刃物を振るうつもりがないのは一眼で見てわかった。

それは彼が昔の俺のように、自分では届かないとわかっていても…こんなことをして引き下がれないとわかってもまだ玲奈のことを好きだと思っているのが目から流れる雫から伝わってくるから。


「何で、お前…わかったみたいな言い方して。ーー俺のこと見るんだよ。」


「お前のことは知らない、でも玲奈のことが好きな気持ちはわかるから。」


「くっ…。」


彼の腕はだらんと垂れ下がり、ナイフは地面に落ちた。

俺も広げた両手を下げる。


「お前が、お前がもっとクソみたいな奴なら…躊躇わなかったのにぃ、くっ、うぅぅ。」


彼は泣き崩れてしまった。

元々暴力を振るうようなタイプの人間ではない、刃を捨てたことで張り詰めた気持ちが溢れたんだろう。


俺は後ろに向き直り


「ごめん、玲奈。勝手に許す約束しちまって。」


玲奈に確認をとってはいなかった。

彼に襲われかけたのは玲奈だ…俺はもう彼を責める気はないが、玲奈にとっては恐怖の対象かも知れない。


「ううん、奏多がしっかり守ってくれたから、大丈夫だよ。ありがとうね。」


そう言って抱きしめられる。

玲奈の体はとても暖かい…俺の体にもその熱が伝わってきそうだ。

やっと安心できる…彼が泣き崩れたように俺も安心したことで全身の力が抜けそうだ…。


「…ったく、使えねえな。」


俺は反射的に振り向く。

足音が聞こえたのは声の直前。

最初から感じていた違和感…その正体がようやくわかった。


「玲奈ッ!!逃げろぉ!!」


俺は玲奈を後ろに思い切り押す。


「えっ!」


玲奈の声が微かに聞いたが、そんな余裕もないくらい焦りを感じていた。

目の前に先ほどの男よりも背も高く図体のデカい男。


「うっ…ぐっ。はぁ。」


俺の脇腹には先ほどのナイフが刺さっていたのだった。


「っち、離せ。」


このナイフを離すわけにはいかない。

俺はナイフを自分の体に押し付ける。


「離すかよ。ーーーうっ、そうかお前だったのか。」


最初から疑問だった…最初の男は確かに玲奈に振られたことを悲しんではいたが、自分から暴力で訴えることなんかするタイプじゃない。

そう、誰かが()()()()でもしない限りは…。

行き当たりばったりの作戦にしては玲奈を逸れさせ、森に誘導したり玲奈の行動をしっかり調査していた。

明らかに彼の性格と違う作戦内容。


「竹下先輩だったっけか…あんた。」


意識が遠のく気がする。

出血のせいか。


「あ?俺のこと知ってんのか。」


サッカー部のエースでキャプテン。

あの手紙を貰った日に告白していた男。

嫌でも忘れられるもんかよ。


「なかなか力つええじゃねえか。お前、そんなに力あるようには見えねえけどな。」


「今は帰宅部でも、元バスケ部なんでね。」


その時高速で俺たちの間合いに玲奈が入り込む。


「はぁっ!!」


玲奈は蹴りを竹下先輩に入れる。

回転蹴りは見事に顔面にクリーンヒットした。


「ぐはっあ!!」


竹下先輩は地面に転がった。


「奏多!!」


俺も地面に倒れ込んでしまう。

もう、力が入らない…


「ねえ、しっかりして。奏多!!ーーだめ、いなくなっちゃ。ダメだよ。かなたぁ。」


玲奈の泣く声が聞こえる。

また玲奈を泣かせてしまったのか、俺は…いつまで経っても学習しないな、俺って奴は。


「奏多っち〜。」


遠くから澪の声も聞こえる。

来てくれたのか、これなら玲奈も安心だな。


本当にやばいな…もうげんか、…い。


俺は意識を手放した。


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