甘さと結果
「それで、こんなとこに呼び出して何の用なの?」
春沢は早速と言うか、早く用件を言えと催促してくる。
まあ俺もそのつもりだったし、さっさと話てしまおう。
「一応確認なんだが、ここに来てることは誰にも言ってないんだよな?」
「新城がそうしろって言ってきたんじゃない。抜け出すの結構大変だったのよ。」
「悪い、他の人に聞かれると面倒なことになるから、これしか方法がなかったんだ。」
メールで春沢を呼び出したのだが、玲奈に聞かれてしまったのでは何も意味がない。
「手伝ってほしいことがあるんだ、それで呼び出させてもらった。まず、来てくれてありがとう。」
「礼なんかいらないわよ。新城と私は友達なんだし、いつも話聞いてもらってるのは私の方なんだから。」
「そう言ってもらえると助かる。」
春沢はかなりわがままな女の子だ。
それは去年から知っていたが、困っている友達を見捨てるような子ではない。
俺と春沢の中にどこまでの絆があるのかはわからないが、今ここで彼女と協力することができれば玲奈を守るために大きな戦力になることは間違いない。
「実はーーーー」
「ーーと言う訳なんだ。だから、春沢に助けてもらいたい。俺だけじゃ玲奈を守るのは正直かなり難しいと思うから。」
俺は春沢に海星から教えてもらったこと、そして教師や他の生徒にはできるだけ話すことなく何とかしたいと言う旨を伝えた。
その間、春沢は俺の話を遮ることなく真剣に聞いてくれた。
時間にしては10分ほどだろうか、それでも集中力を絶やさずに聞いてくれたのは嬉しかった。
それだけ春沢も玲奈のことを大事に思ってくれていると言う証拠でもあったから。
「それで、私は何をすればいいの?」
春沢は俺に尋ねてくる。
今までのは単に玲奈の身に危険が迫っていると言う話であり、春沢に具体的に何をして欲しいかを指示したものではない。
「春沢には玲奈と同じ班で、気になったことがあれば俺に教えて欲しいんだ。それっぽいやつを見つけても、自分で捕まえようとなんかしないでくれ。春沢に危険が及ぶ可能性もあるから。」
春沢はあくまで監視者、俺の行き届かない目をカバーしてもらうことが目的だ。
玲奈は女子だし、俺だけじゃどうしても見切れない部分がある。
それに玲奈と俺が行動を共にするようなことになれば、恐らくもう1人の班員である本橋香織がいい顔をしないだろう。
玲奈の安全を守ることは大事ではあるが、来るか来ないかわからない驚異のために玲奈の修学旅行をつまらないものにするわけにはいかない。
どちらも達することができなければ俺にとって成功とは言えないだろう。
「それくらいなら、私にもできると思うけど…本当に大丈夫なの?」
春沢にとっても心配だろう。
玲奈が狙われているのは海星の話から事実であるのは間違い無いんだろうけど、春沢にとってはいつ襲ってくるかわからない男に追われていると考えたら、不安なことに変わりない。
「確かに、俺の考えには足らないところが多いのはわかってる。けど、俺にできることはこれくらいしかない、春沢に危険が及ばないようには絶対するから安心してくれ。」
それだけは最低限しなくてはならない義務だ。
こうして巻き込んでしまっているのは俺の身勝手。
だからこそ、春沢の無事は絶対に確保しなくてはならない。
「それは別に大丈夫だけど、私はそんなに怖く無いし。」
「え?」
「だって、新城が守ってくれるんでしょ。それに私は自由時間の間、遼の班と一緒に行動するし。けど、新城は大丈夫なの?」
滝谷の班と行動が一緒になるのか…滝谷の班には確か運動部の生徒もいたはずなので、多少安心か。
玲奈に何かするつもりでも滝谷がいることは相手への牽制になることだろう。
「俺は大丈夫だ。ーーーそもそも俺が狙われてるわけじゃ無いしな、だからこそ俺が警戒してなきゃ行けない。」
そう、知っているのは今のところ海星、俺、そして春沢の3人だけだ。
そして、その中で自由に動けるのは俺だけだろう。
海星も動けはするだろうが、明日からは俺に協力をしてくれることはないと思う。
「そう…なら信じるけど、気をつけなさいよ。私は玲奈のことはもちろん大事だけど、新城も同じくらい大事に思ってるんだから。」
春沢は真っ直ぐ見つめてそう言う。
その目からは嘘偽りのない言葉であるのが伝わってくる。
「ああ、任せてくれ。俺が絶対に玲奈も春沢も守ってみせるよ。」
俺のやるべきことが決まった。
今まで玲奈は危険なことを何度もして、俺のことを危機から救ってくれた。
今度は俺がそれを返す番だ。
俺が玲奈のことを守る…それは付き合うと決めたあの時から俺の責務であり、そうすべきであると考えたことなのだから。
2日目は団体行動は殆どなく、自由時間で朝食を終えてから夕食まで過ごすことになる。
班毎に行動することになってはいるが、実際にはそうなっていないことも多い。
特に仲が友達が多い班ではそれなりに班同士がくっついてしまうことも多くて、かなりの人数で移動している人たちもいた。
そして俺たちはと言うと
「で、海星どこ行ったんだ?」
俺は隣にいる拓哉に聞く。
俺たちは朝食を食ったはいいものの、その後見事に海星は姿を消してしまい立ち尽くす羽目になった。
「知らねえよ、あいつ飯食ったらすぐどっか行きやがった。」
「海星らしいと言えば、らしいか。修学旅行に来てまでそうするとは思わなかったが。」
あいつは本当に集団行動というものを知らんのか。
一応、教師も見回っているので制服の生徒が1人で行動していると声を掛けられることも十分にあり得ることなのだが、海星に鍵って言えば教師に見つかって、叱られるってイメージが湧かないな。
もし、怒られたとしても全く聞かなそうだ。
そして班員である俺たちも怒られることだろう。
「なあ、奏多は今日どうすんだよ?」
拓哉と俺は一応どこら辺を回るとか、案を出して考えたものの実際にその通りに行動するとは考えていなかった。
というのも教師にどのように1日を過ごすのか、計画表を出す必要があったので、そのために提出はしたのだがあくまで提出用のものだ。
学校側が納得するように寺や文化会館をメインにしていた。
「そうだな…俺も1人で行動したい予定があるんだが、拓哉はどうする?」
「マジ?」
正直こればかりは頼み込むしかない。
春沢から時々、どこにいるかを連絡してもらうことになっているので拓哉と一緒に行動することはできない。
本当なら拓哉のお守りを海星に任せるつもりだったが、それはできそうにないので頼み込むしか選択肢はないのだ。
「ったく、奏多もしかたねえやつだな。」
「ん?」
「お前もナンパしに行くんだろ?まあ、そりゃ言うのが恥ずかしいのはわかるけどよ。」
俺に内緒話するように顔を寄せて俺に言ってくる。
こいつは何言ってんだ。
だが、これに乗るしか話を上手く乗り切る方法は今はないのか…。
「あぁ、そうなんだ…悪いな。」
「やっぱそうだったか!!!ーーーまあ、俺らみたいなのが揃って声掛けても付き合ってくれる女の子少ないだろうし、ソロでやった方がまだ成功率高いよな〜。」
俺はナンパする気なんか微塵もないんだが、拓哉は随分とナンパすることを計画的に決めてきたらしい。
「じゃあ、あとでどっちが上手く行ったか勝負しようぜ。」
「ああ、…そうだな。」
というか、こいつは俺と玲奈が付き合っているのを忘れているのだろうか…。
まあ、きっとそうなんだろうな。
「じゃあ、またあとでな!!!」
そう言って拓哉は走っていってしまった。
結果オーライではあったが、俺は何かを失った気がする。
「さて、じゃあまずは玲奈たちのいる方へ行かなくてはな。」
自由時間が最も長いのは今日だ。
それを考えると仕掛けてくるのは今日の確率が最も高い。
「えっと、春沢から連絡は…。」
スマホを確認すると春沢からメールがきていた。
有名な観光スポットの神社に向かっているらしい。
確か縁結びで人気があり、外国人も多く訪れるという話を聞いたことがある。
今のところ、変な人は見つからない…ということらしい。
「まあ、そう簡単に尻尾を出さないだろうな。」
意外と慎重なのか…ネットに書き込みをしてしまうという部分は確かに安直だったかもしれないがそこまで直情的なタイプならそもそも1日目を我慢するのも厳しいだろう。
我慢比べをするしかないな、俺とそいつとどっちが先に根をあげるのか。
俺は、最寄駅に向かうため足を走らせたのだった。




