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素直になれない俺と彼女たち  作者: re:まったり
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蘭堂紫との話し合い

俺は一目散に玲奈の家…つまり蘭堂宅にむけて走っていた。


「クッ、ハァ、ハァ、ーーー」


呼吸が乱れて息が切れる。

こんなに全力で走ったのは中学の頃の部活以来かもしれない。


「はぁ、はあ…流石に運動不足過ぎたか。」


何とか息を切らせながらも目的地に到着できた。

俺にとって行き慣れた場所で行くのを躊躇ってた場所。

昨日、あんなことを言っておいて虫がいいのはわかってる。

それでも俺の今の気持ちを玲奈に伝えなければ、そうすることが今の俺にできる唯一のことだから。



そして、息を整えた後インターホンを押そうとしたとき不意に声を掛けられた。


「あら、久しぶりじゃない。奏多くん。少し背伸びたんじゃないかしら。」


振り返るとそこには玲奈にとても似た女性が立っていた。

もちろん玲奈と見分けがつかないと言うことはないが、少なくとも今年で40歳になるとは思えないほど若さのある女性。


「紫さん…、、お久しぶりです。」


俺は目の前の女性、蘭堂紫…つまり玲奈の母親に挨拶をする。

最後に会ったのは2年ほど前になるのか。


「あらあら、もっとフランクでいいのに〜。玲奈ちゃんに会いにきたの?」


「あ、はい。玲奈は家にいますかね。」


玲奈の親とは思えないほどに穏やかで、のんびりとした口調。

けれど、彼女が玲奈の母親であることは間違いない。

それは容姿が似ているなんて外見的特徴などではなく…


「玲奈ちゃんならまだ帰ってきてないんじゃないかしら。ウチに上がって待ってたらいいんじゃないかしら。そのうち帰ってくるでしょうし。」


「ありがとうございます、お言葉に甘えさせてもらいます。」


この人は何故だかとても苦手なのだ。

一見玲奈よりも穏やかに見えるが、その裏で何を考えているのかわからない怖さがある。

玲奈自身「お母さんがこの世で一番怖い。」と言うほどだ。





「すぐにお茶入れるから待っててね。あ、コーヒーの方が良いかしら?」


紫さんはリビングに俺を連れると、買い物したのであろう荷物を置いてすぐに聞いてくる。


「えと、じゃあコーヒーでお願いします。」


「わかったわ。そこに掛けて待っててね。」


俺は礼をしてからソファに腰を掛ける。

この家は昔とあまり変わっていない。

玲奈と幼い頃よく遊んだ記憶が今でも簡単に呼び起こせるくらいに。



「はい、どうぞ。」


カップを手渡してくれたので、受け取る。


「ありがとうございます。」


俺はすするようにして一口飲んで、紫さんに尋ねる。


「紫さんは俺のこと今でも知ってたんですか。」


「そりゃ玲奈ちゃん、健人くんからもよく話は聞くものね〜。特に健人くんは最近奏多ちゃんと遊べないって残念そうにしていたから。」


「そうですね。健人は部活にも入ってますし。」


健人はサッカー部に所属したらしい。

あのルックスでスポーツのセンスも玲奈と同様優れているため、全くの初心者で入部したらしいがメキメキと力をつけているらしい。


「じゃあ今度は私から質問ね、奏多ちゃんは〜ーーーー何で玲奈ちゃんにわざわざ会いにきたのかしら。」


空気が一瞬重くなった気がした。

それはもちろん、実際にそんなことが起きているわけではないが何か紫さんの雰囲気が変化したのは間違いない。


「えっと、少し話がしたくて。」


「それだけ?」


追求をやめない紫さん。

俺の動揺など簡単に見透かして、こちらを誘導する。

それでも俺は必死に抵抗を試みる。


「それだけって…どう言うことですか?」


「んー、そうね〜。何か玲奈ちゃんに言うんじゃないかって。」


紫さんは考え込んでからそう言う。


「まあ、話をしにきたので…言うことはありますが。」


「それはそうなんでしょうけど、私が言いたいことわかるわよね?」


笑顔で問い詰めてくるのがこんなにも恐怖になるとは。

最初から今までこの人はずっと美しい笑顔を保ったままだ。

俺はそれが何よりも不気味に感じて、すくんでしまう。


「…よく、わかんないですけど…俺は玲奈に言いたいことがあったから来たんです。」


俺は玲奈に…そう伝えるために来た。

紫さんが何を考えているのかはわからない。

けど、俺のやるべきことは最初から変わっちゃいない。


「なので、紫さんが何を言ってるのかはわからないですけど…それ以外には何もありません。」


俺は真っ直ぐ紫さんにそう告げる。

高嶺が俺に対して真っ直ぐぶつかってくれたように。

俺も今度は頑張る番だ。


「そう…色々考えてきたのね。前々から奏多ちゃんは警戒してたのよ。玲奈ちゃんのことを見る目は他の男の子たちとは違うけれど…根本的な部分で似ている。それに玲奈ちゃんにかなり信頼されているみたいだから。」


紫さんは俺に悩ましいと言った感じで頬に手を当て悩んでいる素振りを見せる。


「それは…どう言う意味ですか?」


俺は尋ねる。

俺のことを警戒していた…恐らく俺の想像通りなら


「それはもちろん、奏多ちゃんが玲奈ちゃんのことを好きだと気づいちゃうかもって警戒してたのよ。」


何も隠さずにそう言ってくる。

俺が紫さんを苦手とする理由が今わかった気がする。

玲奈のように頭が良いからでも、得体の知れない雰囲気でも、とんでもない美人だからでもない。

この人が最初から俺のことを()()()()()()()だ。


「俺が玲奈のことを好きだと何か問題でも…あるんですか?」


ここで引くわけにはいかない。

この人とここまで話すことになったんだ…ここまできたら正面から全て話をつける。


「それは勿論あるわよ〜。玲奈ちゃんが奏多ちゃんから告白されたら間違いなく、それを受けるじゃない。ーーーそれじゃあ私がここまで奏多ちゃんに玲奈ちゃんの側にいてもらった意味が無いの。」


凄く冷え切った言葉だった。

娘の幼なじみに向ける言葉がここまで感情を感じさせない…いやこんな感情がマイナス方向に振り切れたものなんて。


「俺が玲奈の側にいる事が今までは紫さんにとってはメリットだったと?」


「ええ。だって奏多ちゃんは玲奈ちゃんのことが好きでも告白できないもの。それに玲奈ちゃんも自分から決して奏多ちゃんに告白はしない。」


紫さんは俺らが恋人関係になることを阻止したかったのか…いやそもそも玲奈に恋人ができるのが問題だったのか。


「玲奈ちゃんは昔からすごい才能があったわ。それをほとんど活かす機会はなかった。何故なら奏多ちゃんと離れ離れになるのが嫌だったから。」


ああ、そうだ。

わざわざ俺と同じ中高を選んだのは紛れもなく玲奈の意志。

自分の才能を押し殺してでも側にいてくれることを選んだ。


「私は最初、そんな意味のないことをやめさせようとも思ったわ。けど、玲奈ちゃんは私の娘。ーーー私が何を言っても奏多ちゃんと離れようとなんて思わない。」


「そうですね。」


否定はしない。

紫さんであろうが、誰であろうが玲奈の強い意志を曲げることはきっとできない。

たとえ俺であっても。


「だから、逆に奏多ちゃんに側にいてもらおうと思ったの。」


紫さんは手に持っていたカップを置き、菓子を1つ摘む。


「俺を側に…。」


「玲奈ちゃんは自分からその才能を使うことはないし、私も今はそれを強制するつもりは無いの。ーーーでも、才能を活かすことのできないほど勿体ない恋人を作らせるつもりもないのよ。」


俺はその言葉に過去の記憶が蘇る。

中学の頃、、、俺が経験した挫折。

玲奈のことを追うことを諦めた、辛い日々。

追うことも辛ければ、諦めても今まで解消されることのなかった痛み。


「俺では玲奈に不十分ってことですか?」


「それは奏多ちゃんが一番よくわかってるんじゃないかしら。」


俺には何もない…玲奈に勝る部分なんて1つも。


「確かにそうかもしれません、俺もついさっきまでそう思ってた。ーーーけど、それは紫さんに言われるべきことじゃない。」


「…」


俺は言葉を続ける。


「俺が玲奈にふさわしいか…それは玲奈にしかわからないんです。他人の評価なんかどうだって良い、俺の一番大事な人は玲奈ですから。」


俺は自分の中で整理し切れていない言葉を次々と体のうちから出していく。

本心ではあったけど、今まで言えなかったこと。

それがようやく形を成していく。


「ふーん、言うようになったみたいね。中学の頃はもっと扱いやすそうな普通の男の子だったのに。」


「俺も、少しだけ変わりました。けど…きっと根本は変わってません。今だって俺は玲奈と釣り合ってる自信はない。それでも玲奈の信じてくれた俺のことを信じてみたいんです。」


「そう、誰かが奏多ちゃんに入れ知恵したみたいだけど…やっぱり玲奈ちゃんのことが好きなのね?」


「はい。俺は玲奈のことが好きです。」


正直めちゃくちゃ恥ずかしい。

幼なじみの親に娘のことが好きだって言うのなんて生涯で何度も経験することじゃない。

けど今の俺はテンションがおかしくなっている無敵状態だ。

誰に何を言われてもこの気持ちだけは変わらない。


「まあ、それでも良いかもしれないわね。当初の目的とは反してしまうけれど、最終的に私の望んだ通りになれば良いんだから。」


紫さんはまだきっと諦めたわけじゃないんだろう。

ここで俺を説得することが無駄だと判断しただけで、この先で軌道修正が可能だと考えている。

それにそもそも俺が玲奈に告白したところで成功するかは微妙だ。

今までならきっと成功していたのかもしれない。

けど、自分から離れようと言ってしまった今となっては玲奈が俺のことを許してくれるかもわからない。


「紫さんは俺のことが嫌いですか?」


会話がひと段落したところで俺は紫さんに尋ねる。


「そうね〜…」


紫さんは少しだけ逡巡した後


「今は少しだけ気に入ったかもしれないわね、昔の玲奈ちゃんの才能に打ちひしがれていた頃よりは。」


「そうですか…ありがとうございます。」


「何で感謝するの?嫌いじゃないとは言ってないのに。」


「いえ、俺の中では紫さんは俺のこと大嫌いだと思ってましたから。」


「相変わらず自己評価が低いのね、まあそれも良いところかもしれないわね。」


紫さんはそう言って笑った。

今までの張り付いた笑顔とは違い、俺のことがおかしくて仕方がないと言った感じで。

その時、ガチャと鍵が解錠される音と、ギィと扉の開く音が聞こえた。


「ただいま。ーーーえ、奏多?」


玲奈は俺を見てとても驚いていた。

そしてそんな世界の誰よりも好きな幼なじみを前にして俺は覚悟を決めた。


「玲奈、話があるんだ。少しだけ付き合ってくれないか?」


ここからが本番だ…俺のできること、伝えるべきことを全て言葉にできるように。

そう強く決意を固めた。


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