和解と前進
そのあとはつつがなく1日を終えたと言っていいだろう。
至っていつもと変化が無かったと言える。
昨日から玲奈の告白現場を見てしまったり、ストーカーからラブレターを頂いたり、高嶺と初めて話したり、一年近く話して無かった春沢と話したり非日常のような感覚だっただけに助かった。
あのまま更に厄介ごとが増えた日には俺は心労で倒れてしまいそうだ。
ラブレターの件に関しては現状何も解決していないが、玲奈に過剰に関わることがなければ向こうもバラす気はないのだろう。
そうだとするなら外聞を気にせずストーカーはとっくに俺に何らかのアクションを掛けてくるだろうし、手紙の言葉通りに近いうちにまた何かしてくるのなら、その時にまた考えるしかないと思ってしまったのだ。
まあこう思えるようになったのは春沢が気まずさを取っ払って話しかけてくれたからかもしれない。
そして高嶺という自分に少しだけ近い少女を目にしたことでどこか安心したのも大きいだろう。
「で、何でこうなった。」
俺はその翌日、春沢に呼び出され食堂に行ったらそこには春沢の彼氏である滝谷遼と俺の幼なじみであり完璧超人蘭堂玲奈がいた。
まず1つは、早すぎる。
昨日の今日ですぐ彼氏紹介されるのは、心の準備ができてない。
そもそも、滝谷とは話したことすらないのに。
そしてもう1つはなぜ玲奈もいる。
玲奈は今回の件には全く関係ないだろうに、自然とその場に馴染んでいた。
「新城君だね、昨日優から話は聞いたよ。俺は2年2組の滝本遼。優から聞いた限りだとだいぶ振り回されているようだけど、大丈夫かい?気まずいかもしれないけどよろしくな。」
「あぁ、こちらこそ。新城奏多だ、何を聞いたのかは大体想像がつく。」
恐らくこの雰囲気だと俺がフラれたことを含め全て話したな。
滝谷としても俺相手に話しづらいだろうに、すごく気遣ってくれるのがわかる好青年だ。
春沢のようなタイプにはこれくらい器の大きい奴じゃないとダメなのかもしれんな。
「無理に優が呼び出したのならごめんな、奏多も知ってるのかもしれないけど随分自分勝手な性格なんだ。」
「そうだな。滝谷も苦労してんだな…お疲れ様。」
滝谷は自然と距離を積めるのが上手い。
俺みたいなコミュ障でも何とか会話できると思い込んでしまうくらいだ。
頭も顔も良くてコミュ力も高いとか超人かよ。
あ、超人なら横の席にもいたわ。
「こんにちは、新城くん。久しぶり。」
「ああ、久しぶり。」
玲奈は外だとちゃんと距離感を気にして話してくれる。
こうして学校で他の人の前で話すのは本当に久しぶりだ。
「えっと、何で蘭堂さんはここに?」
俺は当然の疑問を玲奈に聞くと、答えたのは玲奈ではなく春沢だった。
「私が呼んだわ。ーーー玲奈と新城は幼なじみだと聞いたし、話しやすいかと思って。」
「ええぇ。」
確かに玲奈は気まずくない相手だけど、外だと気を遣って逆に話しづらいんだけど。
「どう、遼と仲良くなれそう?」
相変わらずテンポが独特すぎる。
まだ少ししか話してないのにそんなすぐに答えを求めるな。
「無理しなくていいよ、奏多。ーーー俺が逆の立場ならかなりきついと思うし。」
「いや、滝谷とは仲良くしたいと思ってるんだが。さすがに結論出すの早すぎるかなと。」
「そうか、俺もぜひ仲良くしたいな。ーーー急がないからゆっくり考えてくれるとありがたいな、適度なペースで話していこう。」
本当にいい奴なんだろうな…春沢のことがなければ絶対に頼んででも友達になりたいと思っただろうな。
「遼、あんまりゆっくりさせないの。また一年かかっちゃうかもしれないじゃない。」
春沢から滝谷へ苦情が入る。
「優…無茶いうなよ。焦らせてもいい結果にならないと思う。」
わがままお嬢の頼みをしっかり断れるのはすごいな…俺ならあっさり諦めそうなところだ。
「奏多、もし迷惑じゃなければ優の相手をしてくれると助かる。多分1年も話してないから話し足りないんだと思う。」
「で、でもいいのか?…俺はフラれたとは言え春沢に告白したことあるんだぞ。」
俺は滝谷に確認しておく。
いくら春沢がわがままでも、彼らは恋人同士だ。
俺がもう一度春沢を恋愛対象として見ることはないと思うが滝谷からしたら、いい気持ちはしないだろう。
これから2人と友好的な関係を築いていくには無視して話を進めることはできない。
「それは構わないよ。俺はしっかり優のことが好きだし、優のことを信頼してる。ーーーそれに奏多が優を傷つけるような悪い男には見えないから。」
はっきりとした言葉に俺は逆に言葉を失ってしまった。
彼女を信頼するという言葉にこれほどの重みと自信があるのは滝谷の強さなのかもしれない。
俺だったらきっとこんな風には返せない。
「うん、それは信頼していいと思う。新城くんは長年幼馴染をやってる私が良い人だって保証する。」
玲奈も続いてくれる。
とても心強いし、彼女よりも信頼に足る人物はこの学年にはまずいないだろう。
「というか、聞くなら私に聞きなさいよ。話すのは私と新城なんだから。」
春沢…もうここまで言われたらゴネるのは俺のただのエゴになっちまうな。
「分かった、春沢とは逃げずにしっかり話すよ。3人ともわざわざ集まってくれてありがとな。」
俺はゆっくりだけど、しっかり言葉を告げることができた。
玲奈や滝谷には本当に感謝しないとな。
俺はもし、説得されたのが春沢1人だったらきっと断ってた。
気まずいのもあるけど、春沢に俺がしてしまったことは春沢を本当に侮辱する行為だったから。
これからは逃げずに向き合おう…春沢にも、そして玲奈にも。
「そっか…優じゃ無かったんだ。」
私は食堂で昼食を摂った後に3人と別れ1人でトイレに行き、一息付いた。
私が奏多に擦り寄るストーカーとして真っ先に疑ったのは優だった。
優は元々奏多と接点はあったし、このタイミングで奏多に接近するのはタイミングが良すぎた。
優のことは良い友人だと思っているけれど、奏多のことに関しては任せられない。
一見穏やかで大和撫子という言葉が似合うけれど、とてもわがままで遠慮がない。
去年奏多が告白してフラれたのはもちろん知っていたし、成功しないように私が裏から色々手を回した。
奏多が求めていたのも恋人としての春沢優ではなく、あくまで蘭堂玲奈の代用品であり好きだと勘違いしているのも分かっていた。
奏多は少なからず私に好意を抱いてくれている。
決して手が届かない、届いてはいけないと思っているだけで。
奏多がそれを望むのなら私も奏多と恋人という関係になれなくても良いとは思っている。
離れずに一緒にいるための形式に拘る必要は無いのだから。
そして優を疑った私は今日で見極めようと考えた。
けれど、結果としては優の可能性は限りなく低くなったと思う。
理由はまず、私と奏多を同じ場所に集めたこと。
彼女にとってもリスキーな選択だった上に彼氏である滝谷遼も連れてきていた。
そして滝谷はそこまで愚かな人間では無いということは以前から知っていたし、騙されている感じは全くしなかった。
優が女狐だとするなら彼氏を作るメリットはかけらも存在し無い、行動が制限されるし校内でそこそこ有名なのに不用意に健人に接触したことにも疑問がある。
一番大きい理由は奏多を奪う上で私を遠ざけることは必須であると考えているだろうし、自分から学校内で私と奏多が接触する口実は作ら無いだろう。
こうしてまた幼馴染として仲良くなったなんて話が広まれば、私は今度こそ奏多と学校内でも離れずに守り切る。
こう言った観点から優はおおよそ女狐では無いと判断できた。
もちろん、私を騙し切るほどの演技力がある可能性もないとは言い切れ無いから今後も警戒対象ではあるけれど。
優に関しては私の友人だし、クラスが同じだから行動を監視しやすい…むしろ女狐であったなら簡単に捕捉できてありがたいくらいだ。
私は目の前の鏡に映る自分の姿を眺める。
自分のことをみんなは完璧で欠陥など何も無いと思い込んでいる。
でも私は一度だってそう思ってたことはない。
中学の頃私がもっと上手く立ち回っていれば、奏多が虐められることは無かっただろう。
それによって私が奏多に摂って恋愛対象外になることもなかった。
優のことを勘違いして好きになることもなかった。
全ては過去の私の失敗が招いたこと、、、でもそれはあくまで過去の話だ。
今の女狐の問題は絶対に解決しなくてはなら無い。
人のことをこそこそストーカーのように嗅ぎ回っているような女に奏多は渡せ無い。
奏多を傷つけることなく解決してみせる。




