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僕は、なんとなく彼女が行きたい場所に心当たりがあった。……ずっと考えていた。あの歌の意味。この山の麓には昔、ダム湖に沈んだ村があるのだけれど、それよりもずっと昔から続いていた風習で、近年にはすっかり忘れさられている、ある悪しき伝統があった。
ーー乳母捨て山。
この山の頂上まで登ると丁度良い広場がある。ーーそこには、申し訳程度に古びた鳥居があり、境内の中に古びた神社がある。息を切らしながら石段を駆け上がると、すっかり日も落ちてしまっているのに、そこには幾つもの提灯の灯りがともされていた。丁度、鳥居の前に僕は息をつきながらとまり、ゆっくりと、彼女を背から降ろす。
ーーああ、そうだったんだ。彼女は、まるで羽根のように軽かった。
ぼろぼろ泣いてしまっている彼女は、僕に何度も頭を下げて鳥居の先に消えて行った。




