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ちょう
ちょう
提灯が~
持っていき~
持っていき~
お山は暗いで ばあさんが~
睨んでおるで~ 持っていき~
33号千田御津キル線。僕は、車窓から外を見つめて見事な直線道路の脇を縁取るように広がる稜恋湖を見つめた。この湖には毎年渡り鳥がやって来る。バスがガタンと少し揺れ、アナウンスが流れた。ここから先は道が少し細く、カーブが多くなる。あまり人が通わなくなった深山。例深山は、この先にある。この山の麓には、ダム建設の為に廃村となり湖の底に沈んだ浜美枝村があった。山へ進むにつれて、霧が少しずつ出てきているようで、この度、この心霊ツアーに参加した人々が口々にざわつき始めた。わくわくしている人もいるようだった。……僕は、霊なんて興味はなくて……子供の頃に出会った妖怪に、会いに来たのだけれど。
「真也、外ばかり見ていると酔うぞ。目、閉じとけよ」
横でもう半分寝てるんじゃ、という声で僕に言ったのは、クラスメイトの佐波委。この廃村の出身者で、当然彼も霊には興味がない。黒いキャップのツバを深く手前に引いて目元まで殆ど隠したまま完全に寝る体制だ。