うすぐらい洞穴
うすぐらい洞穴の中、じっとたたずむ茶色いかたまり。
木彫りの置物ではありません。
怖がりのクマが怖がって、その頭を大きな手で隠すようにして、じっとしているのです。
クマなんだから、つよいんだから、怖いものなんてないでしょう。
よく、そんな風に言われるようですが、ちがうのです。
クマが怖いのは、まわりのものではないのです。
「あー! またねてる。
ねえ、そとはいいお天気よ?
でかけましょ、遊びましょ!」
うずくまるクマのまわりを、ちょこちょこ、くるくる。
いたずら好きの、ちいさなリスが走り回ります。
「そとは怖いんだよ。
ちいさなものだらけじゃないか。
いつ引き裂いてしまうか、うっかり踏みつぶしてしまうか、わかったもんじゃないんだよ」
のっそりと顔を上げて。
どこかうらめしそうに、クマは、うめくように言いました。
「だいじょぶよ。
あたしはよく気がつくんだから。
あんたが引っ掻いちゃう前に、毛をぎゅーっとひっぱるわ。
あんたが踏みつぶしちゃう前に、がぶりと噛みついてやるわ。
ほら、安心でしょ?」
そう言って、リスは、いたずらっぽくわらうのです。
その顔を見たら、怖がりのクマも、少しは怖くなくなって。
リスをそっと持ち上げて、いつものように、その肩にのせ。
洞穴の出口のある明るいほうへ、のっそりのっそり、歩いていきました。