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第9話 スパイダーの味は予想外

(昔、読んだ小説の中で気配を察知する奴有ったけどコレってそれよりも凄くないか!?)


ハジメが驚嘆しているのは先程食べたホワイトスネークから得た【熱感知】である、今のハジメの目に映る景色はサーモグラフィーの画像を重ねて見ている感じに近いので茂みの中で隠れている手羽先ゴブリンの姿も丸見えだ。折角待ち伏せしていたのに、手羽先ゴブリンはハジメの胃袋に収まる結果となった。




お昼を過ぎた頃、ハジメはセシリアから渡された包みを開いてサンドイッチを食べ始めた。入っていたのはローストビーフを挟んだ物・ピクルスを挟んだシンプルな物・キュウリとトマトにレタスを挟んだ物の計3種類でどれも素材の良さを最大限に活かされた物だった。


「これからも毎日こんな美味しい食事が続くのかな?」


舌鼓を打っていたハジメはふと大事な事に気が付いた、セシリアに毎月どれだけの給金を支払うか全く話をしていなかったのである。


(これだけ美味しい物を作ってくれるのに、安く済ませようとしたら最初にセシリアを雇っていた連中と同類になってしまう。俺はお金の出し惜しみなんてしないぞ!)


あれこれ悩んだあげく、ハジメはセシリアの給金を1日金貨1枚と決めた。家で食べる食費と住む部屋の貸し料をもちろん無料にした上である。


ちなみにこの世界のお金は銅貨・銀貨・金貨・白金貨の4種類が有り、銅貨10枚で銀貨1枚・銀貨10枚で金貨1枚・金貨10枚で白金貨1枚の価値が有る。銅貨1枚が大体100円位なので、銀貨=1000円・金貨=1万円・白金貨=10万円となる。


後日、毎日の食費と部屋の貸し料で給金を差し引きチャラにするのが一般的な相場だとミシェル達から聞かされたがハジメは当初自分が決めた通り、月末にセシリアに金貨30枚を手渡した。しかしセシリアはその内の金貨15枚を家族に送り5枚を自分の衣類や下着の購入費用に充てると残りの10枚でハジメに飲ませる為の良いお酒を秘かに買って地下の倉庫で眠らせたのだった。




昼食を終え一休みしてから、再びスパイダーを探し始めるとようやく探していたスパイダーを見つける事が出来た。身体全体が紫色で毒々しい、パープルタランチュラと呼ばれるスパイダー系のモンスターである。


(紫色のスライムはブルーベリー味だったけど、出来れば蟹であって欲しい!?)


【丈夫な胃袋】と自分の運を信じてハジメはパープルタランチュラを発火で焼き一応の殺菌処理を済ませると口に入れた。


サクサクサク・・・・・ゴックン。歯応えはスナック菓子に近い、しかも味が・・・・。


(う○い棒のめんたい味だ)


こうなると他のスパイダー系の味が知りたくなってくる。ハジメは時間が経つのを忘れて蜘蛛を探して喰いまくった!



シルバースパイダー=チーズ味


イエロータランチュラ=コーンポタージュ味


レッドスパイダー=たこ焼き味


グリーンスパイダー=やさいサラダ味


ブルースパイダー=黒糖味


ダークタランチュラ=チョコレート味



「全部、う○い棒じゃねえか!?」


森の中でハジメの叫びが虚しく響き渡った。正直言って喰いすぎで口の中もパサパサする、森の中も少しずつ暗くなってきたのでハジメは家に帰る事にした。




蜘蛛を食べるのに熱中していた所為で家に着くと日がすっかり落ちていた。玄関を入ると、そこでは既にセシリアが待っていてくれた。


「ただいま、遅くなってごめん」


「お帰りなさい、お怪我はありませんでしたか?」


「大丈夫、怪我1つ無いよ。それに少し位の怪我ならすぐに再生するし問題無いって」


「問題無い訳無いじゃないですか!?」


セシリアが急に叫んだ。


「少しの油断が致命傷になる事だって有るんですよ、あのギルド長の様に大勢の人間の命を一瞬で奪える人だって居るんです。自分は絶対に大丈夫だなんて思わないでください」


涙を堪えながら身体を震わせるセシリア、いつの間にか慢心していたのだとハジメは反省した。


「君の言う通りだよ、俺はこれまでにモンスターから得た能力で少し調子に乗っていたみたいだ。俺はまだ冒険者になったばかりの新米で実力だって無いに等しい事をすっかり忘れていた、有難う助かったよ」


「いえ、私の方こそ出すぎた事言ってすいませんでした」


「いや、これからも俺が間違った方向に進もうとしていたら諌めてくれると嬉しい」


「はい、かしこまりました。では、夕食も少し冷めてしまったと思うので温め直しますね」


「それなら俺も手伝うよ、力仕事なら任せてくれ」


2人はキッチンに向かうと仲良く食事の支度を始めるのだった。




夕食を済ませたハジメは風呂に入る前に今日の食事(狩り)でモンスターから入手した能力を再確認してみる事にした。



【熱感知】・【嗅覚向上】・【粘糸生成】・【鋸糸生成】・【糸渡り】・【導火糸】・【麻痺糸生成】・【蜘蛛縛り】・【捕縛網】



上記の計9つで、モンスターの種類別に様々な能力を持っているのが分かる。だがスパイダーから得た能力の中身が良く分からない。


(特に【蜘蛛縛り】って一体どんな能力なんだ!?)


丁度その時に、食器を片付け終えたセシリアがやってきた。


「片付けが終わりました、ハジメ様どうかされたのですか?」


「ああ、何でもない。今日得た能力で【蜘蛛縛り】ってのがよく分からなくて中身が気になっていたんだ」


すると、ハジメの言葉に反応したのか突然両手の指先から計10本の糸が出るとセシリアの首から下半身までをぐるぐる巻きにしてしまった!


「ちょ、ハジメ様。これは一体どういうイタズラですか!?」


「ごめん、言葉に出してしまった所為で能力が発動してしまったみたいだ。すぐに外すから!」


手で糸を引きちぎろうとしたが上手く切れない、仕方なくハジメは糸を巻き上げる事にした。


「糸を引っ張るから少しだけ我慢してね」


糸を引っ張るとセシリアは駒の様にくるくると回りだす。


「あ~れ~!!」


「良いではないか、良いではないか」


「良い訳無いです、早く何とかしてください!?」


「・・・・ごめんなさい」


(セシリアが『あ~れ~!!』なんて言うから、思わず悪代官にでもなった気持ちになっちゃったよ。とりあえずこの【蜘蛛縛り】は一旦封印だな)


しかし数年後ミリンダよりも遥かに強くなったハジメはミリンダの寝込みを襲い、この【蜘蛛縛り】を使ってこれまでの仕返しを行う事となる。




セシリアからお説教されすっかり落ち込んだハジメは風呂に浸かりながら天井を見上げていた。


「うっかり発動させてしまった自分が全て悪いのだけど、セシリアを大分怒らせちゃったな・・・。明日には機嫌を直してくれていると良いんだけど」


そんな独り言を言っていると、風呂のガラス戸に人影が映った。しかし今この家に住んでいるのは自分ともう1人しか居ない、だとすると・・・・


カチャッ ガラス戸が開くとセシリアがバスタオル1枚を羽織った状態で中に入ってきた。


「ハジメ様、先程は私の方も少し言い過ぎました。ですからお詫びとしてお背中を流させてください」


「せ、背中って、お・・・俺の!?」


「はい」


風呂場に添えつけられた椅子にハジメが座ると、セシリアはヘチマから作ったスポンジに石鹸を付けてゆっくりと背中を洗い始めた。


「痛かったら遠慮なく言ってくださいね、ハジメ様」


「あ、ああ」


しかし、ハジメは痛みを感じる暇も無かった。首筋で感じるセシリアの息遣いに興奮してそれどころではなかったのである。背中に残った石鹸をお湯で流すと、ハジメの両肩に手を置いてセシリアは耳元で囁いた。


「はい、これでお終いです」


バスタオル越しだが、セシリアの胸の感触が背中に伝わってくる。必死に我慢していると、セシリアはハジメを甘い声で誘惑した。


「どうしましたか?もしかして、別の場所も綺麗にして欲しいのですか?」


ハジメはベルンウッドがセシリアに普段どんな事を要求していたのか身をもって理解した。そうすると急速に興奮は冷め普段の冷静さを取り戻した。


「セシリア、俺はベルンウッドと同じ様な事をしたくて身元保証人を引き受けた訳じゃないし自由にした訳じゃない。俺は悪事を暴く為とはいえ君に対して酷い事をしてしまったから、その償いをしたかっただけなんだ。だから、これからはもうこんな真似はしないでくれ。自分の身体を売る様な事をする必要は無いんだ」


「・・・・失礼しました!」


セシリアは泣きそうな顔で頭を下げると、風呂場から出て行った。1人残された風呂場の中には石鹸の他にそれとは違う良い香りが混ざり合い、ハジメの心を悩ませるのだった。

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