第83話 変わっていく世界
ゴルトスと共に帰ってきたハジメを、セシリア達は笑顔で出迎えた。
1年以上の時間を掛けて行われた今回の作戦、この間にペインは無事にハジメの子を産んで子育てに励んでいる。
その子供は女の子で、ヒカリと名付けられた。
この世界の新たな光となって欲しいという、ペインの願いが込められている。
久しぶりに愛しい娘を抱き上げていると、アーシュラさんが歩み寄ってきた。
「お疲れ様、あの女はどんな醜い顔をしながら死んでいったの?」
アーシュラさんは、システィナの最期が気になるらしい。
「悔しそうっていうか、半分ヤケ気味な感じの顔で旅立って行ったよ。 異世界に」
「旅立った? 異世界に?」
アーシュラさんの身に怒気が集まり始めた。
妹を手にかけ他にも多くの人の運命を弄んだ女神には、死が最も相応しいと彼女は考えていたのであろう。
ここでゴルトスが間に入って、愚かな女神に与えられた罰について説明し始めた。
「アーシュラよ、最初は私もハジメは彼女を殺すだろうと考えていた。 だがハジメの奴は、あいつに死んだ方がマシと思えるような罰を与えてしまったのだ」
「死んだ方がマシ? そんな罰なんて、ある筈ないじゃない!」
激昂するアーシュラさんを宥める為、ハジメはその罰を彼女にそっと教える。
「システィナに与えた罰ってのは……ゴニョゴニョ」
罰の内容を聞いたアーシュラさんは、背中を向けると小刻みに震え始めた。
そして徐々に震えが大きくなると、周囲の人が驚くような声で笑い始める。
「ぷっ、あははは……! 力を使おうとすれば、頭に金ダライが落ちたてきり顔面にパイが飛んでくる!? たしかにプライドが高いあの女には、死んだ方がマシな罰よ。 それなら永く生き続けてくれないと、割が合わないわ」
しまいには腹を抱えて笑い出したアーシュラさん、ハジメ達は彼女の気が済むまで傍で見守っていた。
「ふ~笑った笑った! そうよね、あいつが死んだところで亡くなられた方が、復活する訳じゃない。 たとえ死んでも、恨みはいつまでも残り続ける。 婿殿の選択は間違いじゃないと思うわ、ありがとう」
アーシュラさんは、どこか晴れ晴れとした表情でこの結末を受け入れる。
すると、これまで静かに見守っていたペインが会話に入ってきた。
なにやら良からぬ悪巧みを思いついた、そんな感じの顔である。
「ねえ、ハジメさん。 さっき話していた陽と陰って方とは、いつでも会えるの?」
「会おうと思えば会えるけど、基本的に普通じゃ考えられないような面白い企みとかじゃないと、姿を見せてくれないと思うぞ」
それを聞いたペインはニンマリと笑みを浮かべて、姉の許に駆け寄った。
「姉さん! ヒカリがもう少し大きくなったら、その陽と陰って人に頼んであの女が居る世界へ様子を見に行ってみない? きっと私達の姿を見れば、面白いように力を使って笑わせてくれる筈よ」
それを聞いたアーシュラさんの目が、これ以上ないほど怪しく光る。
「菊江、それ良い、良いわ! 折角だからあなたと婿殿の子供も見せびらかす、ってのもどうかしら?」
(おいおい、何を勝手にうちの娘を異世界に連れ出す計画を立てる?)
姉妹で話が勝手に進んでいく、見かねたハジメはカルーラに応援を頼んだ。
「ちょっとカルーラさん。 このままだとあの2人はうちのヒカリを連れて、異世界へ行こうとしちゃいますよ!? 一緒に止めましょう」
「無理だな」
カルーラさんは即答した。
「システィナが居なくなった今、あいつを止められる奴がこの世界に居るか? 精々暴走しそうになった時に、声を掛けるのがやっとだな」
『今がその暴走しそうになった時じゃないんですか!?』
ハジメ達が心の中でツッコミを入れる中、カルーラさんは全く動揺していない。
彼にとっては、まだこの程度は暴走の内に入らないのだろうか?
アーシュラ&ペイン姉妹の悪巧みは、夜遅くまで続いたのである……。
システィナが居なくなった後、少しだけ世界に変化があった。
人を襲っていた一部のモンスターが、急に大人しくなったり姿を消したのである。 姿を消したモンスターの中には、エティンも含まれていた。
どうやら彼女は効率良く信仰心を集める為に、わざわざモンスターを生み出して人を襲わせ、それを救う事でより強い信仰心を植え付けていたようである。
エティンの源となったのが何であったかは、もう分からない。
だがミシェル達と同様に彼女に弄ばれていた人が居た事は、十分に考えられる。
この世界に対する恨みを忘れて、安らかに眠る事を願うばかりだ。
そしてもう1つ変わった事といえば、魔界から移住してきた魔族と結ばれ子を作る方が出てきたという事だ。
ビッグゲートを建設している間、多くの魔族が2つの世界を行き来していた。
作業している魔族と交流していく中で、いつのまにか意気投合していたのだ。
当初は外見の差異から多少衝突は起きたものの、たとえ外見が違っても人の中身は変わらない。
魔族も人族も同じ人間なのだと理解が広まると、やがて相手に恋愛感情を抱くようになったという訳だ。
その動きを加速させたのが魔王の跡継ぎであるラーセッツと、フリーダム連合王国のクレア王女の婚約である。
若い2人の新たな門出に、人々は祝福を贈り大いに喜んだ。
しかしその一方で、頭を抱えている面々が……。
「ラーセッツ、あなたはどうしてそう短絡的に物事を決めるの」
「ごめんなさい、母上」
何事にも短絡的なラーセッツが、クレアの成人を待たずに婚約を発表してしまったのである。
結婚式の日をクレアの成人の日に合わせると、その為の準備に取り掛かった。
ラーセッツの監視と万が一また暴走した時に備え、ハジメやセシリア達も手伝う事となったのは言うまでもない。
準備を開始してから数年の月日が経ち、クレアの成人の儀とラーセッツとの結婚式が行われる日を迎えた……。




