第76話 騒動を鎮める奇策
「キノコの方が美味しいに決まっていますよね、ハジメ?」
「いくら怪物料理人を謳っていてもタケノコの良さも分からないなんて、庶民と貴族では本当の美味が何か分からないのですわ」
セシリアとサリーネが、激しくにらみ合っている。
ハジメから注意されたにも関わらず、2人は着いて試食した早々からどちらが美味いかでケンカを始めてしまった……。
少し離れた場所ではランとミリンダも言い合いをしており、それをハジメはマリアと2人で呆然と眺めている。
「マリアは、この不毛な争いに参加しないんだな?」
「えっ!? いえ、その……」
モジモジしているマリア、様子が少し変なのでハジメがさらに問い詰めると
「キノコやタケノコを見ると、あなたのを思い出してしまって……」
両手で顔を隠しながら、その場から駆け出すマリア。
それを聞いた妻達の口論が、別方向にずれていく。
「なんだ、セシリア姉さまは単に男が好きなだけだったみたいですね」
「何よ! そう言うサリーネさんだって、ハジメのが伸びるところでも想像していたのではないですか!?」
「なっ!? そんなハレンチな事、想像する訳無いじゃないですか!」
おいっ! 何故そこで、俺のムスコが出てくるんだ?
っていうか、そもそも自由に形状を変えられるのだから想像するまでも無いだろうに……。
「おい、もういい加減にしろ! たかがキノコやタケノコの味で喧嘩をするなんて、みっともないぞ」
『たかが……ですって?』
セシリア・ラン・ミリンダ・サリーネの視線が、ハジメに向けられた。
喰う事に関して自重しない4人に、たかがという言葉は禁句だった。
ハジメは、地雷原に自ら飛び込んだことを悟った。
「ハジメ様。 妻達が大切な話し合いをしているのに、それをいい加減に扱うとは夫として正しい姿では無いと思うが?」
「そうは言うがな。 食い物の話から俺のムスコに話が変われば、言いたくなるのは当然じゃないのか?」
「あっ!?」
セシリアとサリーネは話していた会話の内容に気付くと同時に、魔族の兵士達の前で大声をあげていた事実を知るとマリアの後を追いかける様に逃げ出していった。
「さてとこちらは何とかなりそうだが、1番の問題はあっちか」
ハジメの視線の先には焦土と化して燃え広がる大地の姿があった……。
「あなた、そろそろ諦めてバンブーベビーの方が美味しいと認めなさい」
「いいや、退かぬ! マッシュルームこそが、至高だ」
妻に左腕を折られたにも関わらず、カルーラは気丈に返答した。
「バンブーベビーは美味とさえ言えば、もう片方の腕だけで許してあげますわよ」
「たとえ勝ち目が無かろうとも、媚びるような真似はせぬ。 見くびるな!」
涼しい顔のアーシュラに対して、満身創痍のカルーラ。
実力差は明白、しかしカルーラの中には決して退けない理由があった。
「ここで退けば、城で勝利の知らせを待ちわびている部下達にあわせる顔が無いではないか! マッシュルームに至高の美味の栄誉を与えるまで、省みることは無い」
喰われるバンブーベビーやマッシュルームの側からすれば、栄誉は要らないから絶滅寸前まで乱獲しないでくださいと言うのではなかろうか?
城の中と外でにらみ合いを続けていたアーシュラとカルーラは、ハジメ達が到着する直前に大将同士の一騎打ちで決着を付ける事で合意した。
元はどちらのモンスターが美味いかという、ささいなキッカケだったのかもしれないが軍を2分する事態にまで発展してしまい退くに退けなくなっていた。
被害を最小限にする為には、このような形を取るしかなかった……。
(なあ、アーシュラ。 そろそろ、どこかで落とし所を決めないか?)
(これだけやっておけば本気で喧嘩していたと皆も納得してくれる筈ですけど、何か良い案はありますか?)
実はとっくの昔に夫婦喧嘩を終えていた2人だが、何とか兵士達が納得する落とし所を作ろうと夫婦喧嘩が続いているように見せかけていたのだ。
(そういえばミシェルが仲直り出来たと言っていたモンスターを、偶然見つけ食べたという事にでもするか?)
(それではインパクトが弱すぎますわ。 誰も文句を言えない、私達夫婦らしい方法でないと……)
夫婦らしい方法。
その言葉を聞いた瞬間、カルーラは脱兎の如く逃げ出したがアーシュラに先回りされ取り押さえられる。
「そうよ、最初からこうしておけば良かったのね」
「何1人で勝手に納得しているのだ! 嫌な予感がしたから、思わず逃げてしまったが一体何をするつもりだ?」
両手を押さえつけられながら問いかけるカルーラに、アーシュラはニコニコしながら恐ろしい言葉を告げた。
「この際だから、3人目を作りましょう。 あなた♪」
魂が抜け落ちそうになっているカルーラの隙を見逃さず、アーシュラは近くにあった洞窟の奥深くまで引きずり込んだ。
「いやいやいやいや……! これは流石に強引すぎるだろ!」
「だから良いんじゃない? 誰もが呆れて、争うのもバカらしく思わせる事さえ出来れば」
たしかに夫婦喧嘩をしていた筈の2人が、いつの間にか子作りしていたと知れば戦う気も失せるに違いない。
「だが3人目がもし出来たら、ラーセッツの奴に何て説明するつもりなんだ?」
「あら? 逆に凄く喜ぶと思うわよ。 これでダイナスの姫と結婚して、婿入りしても何の問題無いって」
そういえば、そうだった。
跡取りの筈のラーセッツの奴は事もあろうに元ジェラ王国、今のフリーダム連合王国の姫君であるクレア王女に惚れてしまいダイナスに居座っていたのだった。
「魔界の将来がどうなるか心配だな……」
不安そうな顔を浮かべるカルーラの胸に顔を埋めながら、アーシュラはその不安を取り除く言葉をかけた。
「大丈夫きっと近い将来婿殿が女神システィナを倒し魔界とシスティーナ、2つの世界を自由に行き来出来るようになる。 もしかしたら4つの国と自治領が1つに統一されて、全員が笑顔で暮らせるようになっているかもしれないわよ」
その未来が訪れたのなら、それは誰にとっても幸せに違いない。
カルーラはアーシュラを抱き寄せると、着ていた服を静かに脱がしていく。
そしてまだ見ぬ3人目の子の将来に思いを馳せながら、2人は誰も居る筈の無い洞窟の中で肌を重ねた。
………。
(ど、どうする? 隙を見て逃げる?)
(馬鹿、見つかったらそれこそ命が無いぞ!)
(でもお兄ちゃん、何時までもこうしている訳にもいかないよ?)
偶然にも洞窟の奥でコケに擬態する練習をしていたミシェル達4人は、元の姿に戻る事も洞窟から出る事も出来なくなり途方にくれていた……。




