第64話 黒い奴
「オークはこんなに美味かったのか!」
「ゴブリンも中々だな」
「だろ?殺してそのままにしておくなんて勿体無いよ、今度からは倒したらきちんと食べる事。これで少なくなっていたって言う食料の問題はクリアで良いんだよな?」
「「ああ、問題無い!」」
ハジメが話していたのはキングブラウンスライム討伐の為に駐屯していた魔族の皆さんだ。アーシュラさんの案内で到着した時備蓄の食料が残りわずかとなっていた、そこでハジメはすぐに手に入る食料としてゴブリンやオークを食べる事を推奨したのだ。
最初は嫌がっていた魔族の皆さんもセシリアが差し出したオークの刺身やゴブリンの唐揚げを食べるとその評価は一変し周辺のオークを我先に倒し始める。その後魔王カルーラから訓示を受ける事となったが、魔王不在の間持ち堪えさせていた功労やハジメが止めに入った為アーシュラさんのお叱りを受ける事は無かった。
魔族の皆さんが落ち着いた所で現状の確認をすると、カルーラさんが危惧していた通りの状況になり始めていた。魔王一家がシスティーナに行ってしまった事で士気が低下してしまい、その間に倒したキングブラウンスライムの数よりも増殖した方が多いそうで幸い包囲までは突破されなかったので一般人には被害は出ていないらしい。
「実は問題が他にも発生しておりまして・・・」
現場を任されていた代理指揮官が言葉を濁した。
「食料が少なくなって疲労も出始めた我々を狙ってオークの集団が襲ってきまして、無論オーク如きにやられる我らでは無いのですが問題はオークの死体を喰わずに放置してしまいそれに惹き寄せられる様に別のモンスターが現れてしまったのです」
「そんなに厄介な相手なのか?」
ハジメが問い質すと少しだけ悩んでいたが指揮官がようやく口を開いてくれた。
「モンスター自体は大した強さでは無いのですが数が多くて・・・。あと女性の魔族が取り乱してしまうので混乱状態に陥りそうにもなりました」
(数が多くて、女性が特に嫌がる存在・・・まさかね)
「そのモンスターの名前を良かったら教えてくれないか?」
大体の予想が付いたがハジメも正直に言えばこの存在が苦手だ、むしろ好きだなどと言う奴は変な目できっと見られるだろう。
そんなハジメの期待を裏切らない答えを指揮官は答えてくれた。
「モンスターの名はブラックバグズ、黒くてしかも素早く動き回る嫌な奴です」
「い、嫌ぁあああああ!!無理無理無理無理無理無理無理無理無理、試食なんて絶対に無理です!」
怪物料理人のセシリアが珍しく取り乱す、目の前にGの姿をしたモンスターを突き付けられたらそうなるわな。
「ブラックバグズってただの◯キブリじゃないですか!?そんな物喰える訳無いでしょ!」
セシリアの拒否反応は尋常じゃない、ハジメも一応念の為に調べてみた。
ブラックバグズ=ゴキブリとは似て非なる物、しかし見た目はどう見てもG。喰っても喰わなくても何かに負ける・・・。生命力と繁殖力はG並もしくはそれ以上。
(これ、セシリアに教えたらどうなるんだ?怪物料理人のプライドがボロボロになるのでは無いだろうか?)
ハジメは調べた結果を教えるのを止めた、怪物料理人である以前にセシリアはハジメにとって大切な恋人であり近日中に妻となる女性だ。その彼女のプライドを傷つける真似をしたくはなかった。
「試しに俺が食べてみるよ、もしかしたら凄い能力が手に入るかもしれないしね」
「ごめんなさいハジメ、どうしてもあの黒いのだけは苦手で」
「いや、謝らなくて良いよ。駄目なものを我慢して食べてもきっと美味しく感じられないしね。とりあえず口直しに何か作っておいてもらえないか?」
「分かりましたハジメ、美味しい刺身の盛り合わせを作っておきますね」
セシリアがオークを切り分け始めるのを見ながらハジメは覚悟を決めた、念の為ブラックバグズを火で炙ってから焼けたものを口に入れる・・・。
サクッ! 軽い食感と共にバグズの汁が口の中に広がる、しかし見た目に反してその味はハジメの良く知っている物だった。
(これは・・・中濃ソースかタルタルソースが欲しくなるな)
焼いたブラックバグズの味は何とカキフライだったのである。試しに焼かずに生のまま食べてみると今度は生カキとなり体液は何故かポン酢。実物と同じで運が悪ければ当たるかもしれないので焼く方がベストかもしれないとハジメは思った。
「ハジメさん、大丈夫ですか?」
サリーネが心配そうに聞いてきた、食っても問題は無いが女性がゴ○ブリを食べる姿を正直見たいとは思えない。しかし、ここでハジメは日頃のお返しとばかりにアーシュラさんの眼前にバグズを差し出してみた。
「アーシュラさん、これカキフライの味がするよ。生で食えば生カキだし、懐かしい味だと思うけど食べる?」
だがアーシュラの反応は全く無い、いやそれどころか瞬きすらしなくなってしまった。
「お~い、アーシュラさん何か考え事?」
軽く肩を叩いてみるとアーシュラはそのまま後ろに倒れ後頭部を打つがそれでも反応が無い、もしかして・・・。
「ねえ、カルーラさん。アーシュラさんってブラックバグズと遭遇したのは初めて?」
「そうかもしれん、何しろアーシュラの奴はとても綺麗好きで厨房や水回りを特に清潔にしていたな」
カルーラさんの言葉でハジメは確信した、自由奔放で弱点など存在しないと思われていたアーシュラさんだが実はゴ○ブリが大の苦手だったらしい・・・。




