第5話 怪物喰い(モンスターイーター)
「……ハジメさん、これに気が付いたのは何時ぐらいですか?」
「村を出る前だったから半月近く前かな? それまでは特に確認しようとはしなかったから」
「それに何ですか、この【形状変化】・【再生】・【局所硬化】は無論ですが最後の【体液媚薬化】は!? あなたは女の天敵になりたいの!?」
「いや、別になりたい訳じゃ……。 色んなスライムを興味本位で食べてたら覚えていただけで」
「あなたはこれを悪用してはいませんよね? もしも、しているのならこの場で捕縛させて頂きますよ?」
げっ!?
ミシェル達と出会う前の件は悪用には流石に該当しないよな?
「あの……人命救助の際にちょっと発情させちゃった女性が居るのですか、これは悪用になっちゃいますか?」
「……詳しく状況を説明しなさい」
始がその時の状況を説明すると、ミリンダはすぐに女性職員を現地に派遣した。
被害届が提出されれば、始を捕縛しなければならなくなる。
そうなる前に、穏便に事態を収拾したい考えだった。
「報告にあった場所まで行ったのですが途中でそれらしき女性とすれ違う事も無く現地でも女性の姿は見えませんでした。 一応モンドールの村にも派遣していますので、そちらに向かったとしても馬の足ならばすぐに追いつけるでしょう」
「分かったわ、ありがとう。 ハジメさんの冒険者登録は、そのモンドールに派遣した者からの報告次第と致します。 人命救助の為だったとはいえ、婦女暴行に該当しかねない行いです。 しばらくの間、監視下に置かせて頂きますので、こういった行為は絶対にしないように良いですね!?」
「……はい」
この日はこれで終了し宿に帰らせてくれた。
宿に着いた始はミシェルと親父さんにだけ、監視下に置かれた事と自分の能力について軽く説明した。
2人は一応納得してくれたが……。
「妹(娘)のアンナには絶対に近寄るな!」
っときつく念押しされる羽目になった。
4日後、モンドールに派遣した職員が帰還したと言うので始はギルドに顔を出した。
「ハジメさん、職員からの報告によると件の女性はモンドールには来ていない事が分かりました。 しかし、モンドールやこのルピナスに来ていないのであればその女性は一体どこに向かっていたのでしょうか? 念の為再度職員を現地に派遣してみましたが、モンスターや賊に襲われた形跡が見受けられないので女性が自身の足でその場を離れたのは明白なのです」
(俺に聞かれても正直言って困る、互いに自己紹介した訳でも女性の名前を聞いた訳でも無いのだから)
「女性本人の意思を確認する事が出来ないので、とりあえずハジメさんの冒険者登録に関しては仮登録という形を取らせて頂きます。 仮登録と言ってもモンスターを倒した際の報酬は同じですし、商人の護衛などの依頼を受ける事も私が承認すれば可能です。 ただし被害届が出された時点で登録は抹消され、すぐに憲兵が捕縛に向かいますので覚悟しておいてくださいね」
「まあ、そこは自分の自業自得だから諦める事にするよ。 ところでさ前回来た際に、サブ職業の怪物喰い(モンスターイーター)に驚いていたけど結構珍しい職業なのか?」
始の問いにミリンダ呆れながら答える。
「珍しいなんてもんじゃないわ、レア中のレアよ。 モンスターを食べる事でその能力を自らの物に出来る者のみに現れる職で、私も実際に見たのはこれが初めてよ」
「モンスターを食べようとする奴は居ないんだ?」
「居る訳無いでしょ! 精々、皮とかを剥いで使う位よ。 寄生虫や毒の塊を食べる物好きなんて、あなた位よ」
散々な言われようだが、怪物喰いを得たキッカケは恐らく……。
「システィナから与えられた【丈夫な胃袋】が原因か」
「十中八九間違い無いわね。 あなたはモンスターを喰えば喰うほど、どんどん強くなる。 そして私でもあなたを制御出来なくなる時がいずれ訪れる、その時は登録先をルピナスから本部の在るダイナスに移させて貰うわね」
「ダイナス?」
「この国の王都よ。 今はルピナス周辺でしか冒険者としての活動が出来ないけど、本部に登録されれば国内で自由に行動出来る様になるわ。 その代わり、悪い事をすれば国中の冒険者達の討伐対象となって狩られる側に立つ事になる。 あなたもそうならない様に十分気を付けてね、なにしろ『女の天敵』なのだから……」
ミリンダの説明を一通り聞き終えた始は仮登録の手続きを済ませ、ルピナス管内の冒険者として登録された。
「はい、これが冒険者としてのあなたの身分証よ。 そして今日からあなたは佐藤 始では無く、ハジメ・サトウとして生活する事になる。 仮登録だからランクGからスタートになるけど、すぐに本登録と同じFにランクアップするわ。 モンスターを倒した際の報酬は自動的にその身分証に振り込まれるから、これからはその身分証が財布の代わりだから絶対に無くさない事。 とりあえずこれで終了だけど、何か聞きたい事は有る?」
ハジメはミリンダに、これからの活動で必要になりそうな物について聞いてみる事にした。
「俺はモンスターを食べればその能力を手に入れられるってのは分かったんだけど、例えば火とか操る奴を喰えば俺も多少は火を使える様になるのか?」
「多分そうなる筈です、私も怪物喰いと出会うのは初めてなので断言出来ませんが」
「それじゃあさ、このルピナス近郊で火を操るモンスターが居たら教えてくれないかな?」
「はぁ!?」
呆れるミリンダから話を聞いてみると、そのモンスターはルピナスの各家庭で使われている事が分かった。
火鼠……マッチサイズの火を起こしてカーテン等を燃やすイタズラ者だが、ルピナスでは種火代わりとして飼われている。
宿に戻ったハジメはミシェルの親父さんに頼んで、ファイアラットを1匹分けてもらった。
「おいハジメ、そいつを一体どうするんだ?」
「実は……こうしちゃいます」
そう言うと、親父さんの前でハジメは貰ったばかりのファイアラットを丸呑みしてしまった!
「お、おい! 何してやがる、腹を壊しちまうぞ!?」
「大丈夫、大丈夫」
しばらくしてから能力を確認してみると、2つの能力が追加されていた。
【発火能力】・【耐火能力】
「よし、成功だ」
ハジメは右手を前に出して、能力を試してみる事にした。
「発火」
すると1mほどの火柱が発生してしまったので、慌ててハジメは火を消した。
「うわっ!? こりゃマズい!!」
「おい! 俺の宿を火事にするつもりか!?」
その後30分近く怒られたハジメはこの効果に驚きながらも、今後の生活で非常に役立つ物を手に入れた事を喜んだ。
(これで自由に火を使える様になったから、モンスターをその場で焼いて食べる事が出来る。 食のレパートリーが広がるぞ)
モンスターを食べて食費を浮かせようと考えている時点で既におかしいのだが、ハジメは真剣だ。
ルピナスの町を出たハジメが獲物を探していると、【視界強化】のお陰か200mほど先の林の中に居るゴブリンをすぐに見つける事が出来た。
「スライム以外を食べるのは初めてになるけど、ゴブリンは一体どんな味するんだろう?」
ハジメは気付かれない様に近付くと、得たばかりの【発火能力】でゴブリンの丸焼きを作り始めた。
「ギャギャッ!?」
いきなり全身が火ダルマとなったゴブリンは地面を転がるが、火は消える事が無い。
そしてゴブリンが死んだ事を確認したハジメは、表面がこんがりと焼けるまでしっかり火を通した。
「では早速、いただきま~す」
ゴブリンの腕に齧り付くハジメ、初めて食べるゴブリンの味はそんなに悪くなかった。
「味的に鶏に近いな、腕や足は手羽先に近いかも……」
ハジメの頭の中で、ゴブリン=鶏肉のイメージが定着した。
頭の部分を除いて大半を食べ終えたハジメが能力を確認すると、1つの能力が追加されていた。
【素早さ向上】
それから半月も経たない内にルピナス周辺のゴブリンの生息数が激減し、駆け出し冒険者の練習相手が中々見つからなくなってしまう。
ハジメがギルドに呼び出されて、ミリンダのお説教を受けたのは言うまでも無い……。




