第49話 【ダイナス恐怖の10日間】~8日目午前の部~
「ジェラール陛下とジェラルド殿下、ご気分は如何ですか?」
「気分など良い訳無かろう!」
「早くここから出せ、この平民風情が!?」
「ああ、出してやるよ。これからお前らに相応しい罰を与えなければならないからな・・・」
国王ジェラールと皇太子ジェラルドが連れてこられたのは、ダイナス南西の洞窟。そう、ミリンダを育てた暗殺組織の施設が在った場所だ。
「ここは!?」
「見覚えが有るだろう?始とセレスを暗殺する為に小さい子供の刺客まで作り上げたんだからな。しかも、随分と昔から協力していた様じゃないか?」
ハジメはジェラールに施設址で見つけた証拠の数々を見せた、近衛騎士団の団長にも一部を見せると驚くと同時に怒りを露にしている。
「あなたという御方は・・・・人の命を何とも思っていないのですか!?」
「それだけじゃないぞ。こいつはな定期的に部下を使い街に住む娘を拉致し犯したあげくにその娘が後日孕んでいた事を知ると自分の娘共々無実の罪を着せて殺していたのだからな」
「何ですって!?」
「言い掛かりも程々にせよ、私がそんな下劣な行いをする訳が無かろう!」
この期に及んで尚しらを切るジェラールに憤慨したハジメはジェラールの顔を殴った!
「その言葉、彼女を前にしても言えるのか?」
ハジメが合図すると、影からマリアが姿を現した。ジェラールは幽霊に遭遇した様な顔に変わる。
「お、お前は!?あの時、確かに死んだ筈!」
「ええ、確かにあの時無実の罪を着せられ絞首台の露となりました。ですが、その後私だけアルラウネというモンスターとして生きる事となりハジメと出会いこうしてまら人間に戻る事が出来ました」
「お前のしてきた事はまだ有るよな?10歳まで育てた娘をここの組織に人体実験の実験台として渡しているのだからな」
もう1度合図を送ると今度はラーセッツの背中に隠れる様にしながらクレアも顔を覗かせた。
「彼女もなマミーとしてこの世に残っていた所をアルラウネになったマリアと出会い、こうして一緒に甦る事が出来た。お前は父親でも何でもない、生半可な死に方では許されない下衆野郎だよ」
ジェラールが声を押し殺しながらハジメを睨み付ける、だがもう騎士団の団長からも王として敬う気持ちは完全に失われていた。
「ではハジメ殿、この2人をここで斬首するおつもりなのですか?」
団長が剣を抜きながら問い掛けてきた、だがハジメは首を横に振る。
「さっきも言ったけどこの2人は生半可な死に方で許される訳が無い、この洞窟の中で罪を償ってもらうのさ」
ハジメは裁きの場所に案内する為に洞窟の中を進んでいく、そして施設址に入るとまずある部屋へ案内した。
「中を覗いてみるといい、2人の前に罰を受けた奴が居るから」
ジェラールとジェラルドが中を見て腰を抜かした、そこで見たものとは席に手足を完全に固定され口から泡を吹きながら既に息絶えている王妃の姿だった。
「クレアを薬の実験台にする様に最初に言ったのは王妃だったみたいだな?だから、こいつにはクレアと同じ苦しみを与えた。点滴から1滴1滴毒薬が落ちる所を見せながら己の死が迫ってくる恐怖を思う存分味わってもらったよ」
妻や母の死体を間近で見て2人は無様にも失禁した、自分達も同じ様に殺されると考えたからだ。だがこの2人がそんな楽な死に方で許される筈も無いし許すハジメでも無かった。
「おいおい、お前らがこんな楽な死に方で許されるとでも思っているのか?お前らは大勢の人の命を弄び奪ってきたんだ、それだけの時間は苦痛を味わうべきだと俺は考えるがな?」
そう言うとハジメはフレイムキャノンで王妃の死体を粉々に吹き飛ばした、マミーやゾンビになられても後で処理する人が困るからだ。背後で団長と共に付いてきた騎士の1人が耐え切れなくなったのか胃の中の物を戻していた、苛烈な仕打ちに見えるがそれだけこの王族がしてきた闇の深さを思えば当然の結果だ。
「アーシュラさん、入ってきて良いよ」
ハジメが部屋の外で待っていたアーシュラを呼んだ、入ってきたアーシュラの両手には1匹ずつパープルスライムが握られている。
「両手が塞がっていると、術を掛けられないから俺が持っているね」
「婿殿、本当にやって良いのね?」
アーシュラが困惑気味に聞いてくる、ハジメは頷きながらこう答えた。
「こいつらに楽な死に方は絶対にさせない、マリアやクレアの他にも俺達が把握仕切れていない犠牲者だって大勢居る。この罰し方が罪になると言うのなら、女神システィナとやらは随分と罪人に甘い存在だな」
(そんな訳無いでしょ!)
頭の中に随分と懐かしい女の声が響いた、どうやら始や俺も何気に監視されていたみたいだな。
(よう、システィナ。人違いで呼んだ奴まで見張っているなんて、そっちは随分と暇してるみたいだな?)
(暇な訳無いわ、ただ折角能力を与えてやったのにあっさりと死なれては寝覚めが悪いからよ)
(寝覚めが悪い・・・か。だが、もう少しで勇者が必要とされなくなるぞ。魔族と条約を結べばお互いに協力関係になれるのだからな)
(それはアーシュラという存在が居る間だけよ、彼女が居なくなればきっと魔族は条約を破棄してくる。その時が来ればまた勇者を召喚する事になるでしょうね)
アーシュラさんが異常な存在だという事は既にシスティナも承知している訳ね、そうだとするとシスティナは人違いしたフリを演じて俺と始の2人がかりでアーシュラさんと戦わせようとでもしたのだろうか?
(まあ、アーシュラさんが居なくなる頃には俺達も居ないだろうからその後の事はこの世界の人間が決めていけば良い。未来永劫争いの無い世界なんて有る筈が無いからな)
(分かっているじゃない、ならもう1人の佐藤 始にも伝えておいて『魔王や魔族と停戦するのであれば勇者としての役目はそこでお終い、残りの人生をシスティーナで好きに生きれば良い。暇が出来たら様子を間近で見させて貰うわね』って。あと、そこの2人にどんな裁きを与えるのもあなたの好きにして良いからね)
(おい、システィナ!いずれお前は地上に降りてくるつもりなのか!?)
しかしシスティナの返事は返ってくる事は無かった、そしてこの時になってハジメはようやくセシリアから声を掛けられている事に気が付いた。
「ハジメ、急にどうされたのですか?天井なんかをじっと見つめて・・・」
「ああ、ちょっとシスティナとお話していたのさ」
「女神システィナと!?」
「システィナから言われたよ『残りの人生をシスティーナで好きに生きれば良い』って。『この2人ににどんな裁きを与えるのもあなたの好きにして良い』ともね」
ハジメの言葉を聞いたアーシュラも心配事が無くなった様で普段の表情に戻った。
「それなら私も遠慮する必要は無いって事ね、じゃあ早速始めるわね」
「お願いします」
アーシュラがジェラールとジェラルドに手を翳すと2人は白いオーラに包まれた。
「「これは!?」」
「2人には私お手製の常時回復の術をほぼ全力で掛けてあげたわ、例え空腹でも餓死もしなければ水中でも窒息もしない優れものを・・・」
アーシュラが言い終わると同時にハジメは手に持っていたパープルスライムをジェラールとジェラルドに投げつけた。スライムは目の前に居る生きた餌を丸ごと取り込むと消化し始めた。
「「ぎゃああああああああああああ!!」」
部屋の中にジェラールとジェラルドの叫び声が木霊する、だが溶かされた部分が見る見る内に回復されると2人は驚愕した。
「楽な死に方は絶対にさせないと言ったよな?舌を噛み切ったとしても瞬時に回復するからやるだけ無駄だぞ。俺達は去るから、2人で仲良く術が切れるまで過ごすと良いさ」
「待ってくれ、待ってくれ!」
「許してくれ、頼むこの通りだ!!」
2人の懇願を無視してハジメ達は施設の外に出た、そして他の者達を外に出すとハジメは右手を洞窟の天井に向けた。
「フレイムキャノン」
洞窟の天井を崩しながらハジメも洞窟から出た。ジェラールとジェラルドも将来的にもしかしたら人に非ざる者と化す可能性も有るので外に出て来れない様に洞窟を埋めているのだ。洞窟の入り口まで戻ると最後にアーシュラさんに岩を溶岩になるまで熱して貰い穴を完全に塞いだ。
「そういえばアーシュラさん、ほぼ全力で術を掛けたって言ってたけどどれ位で切れるのかな?」
ハジメの問い掛けにアーシュラは今まで見た事も無い冷徹な笑みを浮かべると事も無げに呟いた。
「最低でも半世紀は切れないわよ、もしかしたら2~3世紀位続くかもね」
ハジメ達は思わず背筋に鳥肌が立ったが、アーシュラもまたそれだけの怒りをずっと秘めていた事が分かったので畏怖の感情も徐々に薄れていった。そして最後に組織の犠牲となった子供達の冥福を祈り花を添えるとダイナスに戻るのだった。




