第48話 【ダイナス恐怖の10日間】~7日目午後の部~
光が徐々に薄れてくると、光の中心では無事に人間へと戻る事が出来た姉妹が抱きしめ合っていた。
「・・・マリア姉さん」
「クレア!」
無事に甦る事が出来た喜びをお互いに確かめ合う。ここでようやくサリーネが元マミーの女の子とどこで会ったのかを思い出した。
「そうよ、王城。王城の中で1度だけ、あの子と会った事が有りました!」
「それはいつ頃の話だ、サリーネ?」
「去年の新年の祝賀に父と共に登城した際に、大勢の人の中で居心地悪そうにしていたあの子に菓子と飲み物を渡した覚えが有ります」
「その頃は、まだ王城で暮らしていたんだな?」
「ええ、でも王族の方が着る様なお召し物じゃ無かったので、どこかの貴族の娘かと思っておりました」
はて?ハジメは不思議に思った、王城で10年近く育てていたのに何故人体実験などという非道な行いをしたのかと。
「その疑問の答えは、私から説明しましょう」
「アルラウネ、いやマリアの方が良いのか」
「マリアでお願いします、そして先程の疑問の答えですがジェラールはクレアを大切に育てていた訳ではありません。あの男はクレアを最初から他国の王族の子息を暗殺する為に使う秘毒の致死量を調べる為に、他国の使節の前でお披露目をする10歳になるまで育ててから組織に実験台として渡したのです」
ハジメはマリアの回答に疑問を抱いた、それならば悪い言い方では無いが10歳になるのを待たなくても他に同じ年の子を用意出来たのではないか?と。
「その疑問ももっともです、しかし王族は元々毒による暗殺を防止する為に幼少の頃より様々な解毒薬を混ぜた食事を食べてきているので一般人よりも毒の耐性が高い。その為、確実に仕留める為の分量を知る目的でクレアにも同様の食事を与えて育ててきたのです」
国王が拘束されている牢まで行って、すぐにでも殺してやりたい心境にハジメはなった。マリアは怒りに震えているハジメの手を握ると優しく語りかけた。
「私達姉妹の為に本気で怒ってくれて嬉しく思います、ですが王族というものはどこも似た様な物。他の国でも形はどうあれ私達の様な存在は幾らでも居るのです」
「でも・・・・って、あれ!?」
ここでハジメは物凄い重大な事実に気が付いた、さっきからハジメの考えている事がマリアに筒抜けになっているのだ。
「あの・・・もしかして、俺の心読まれてます?」
マリアは微笑みながらあっさりと白状した。
「ええ、予知の力は失ってしまったみたいですが代わりに読心術を会得した様です」
(ええ~!?じゃあ、例えば俺がマリアとあんな事やこんな事をしたいなんて考えるとマリアに全部知られちゃうのかよ!)
チラっと横目で見るとマリアは顔を赤くしていた、バレてる!絶対に今の妄想を読まれてる!すると、背後からセシリアがハジメの頭を叩いていた。
「ハジメ!あなた、何て妄想をするの!?少しは自重しなさい」
「イテテテテ!何で俺が変な妄想してるって分かるんだよセシリア」
「あなたの考えそうな事は大体予想が付きます」
ウンウンと頷くミリンダとサリーネ、ちくしょう今夜は全員寝かせてやらないからな。3人にどんなお仕置きをしてやろうか考えていると、マリアの顔が湯気を出すほど真っ赤になるとそのまま気を失い倒れてしまった。
「姉さん、マリア姉さん!」
慌てて駆け寄るクレア、ハジメは過激な妄想をした事を反省するとマリアを抱きかかえて一旦教会に戻りラーセッツと合流して宿へ向かった。
「ごめんなさい、俺が悪かったです。許してください」
「あなたがあんな破廉恥な妄想を思い描くなんて考えてもいませんでした!」
必死で謝るハジメに対してマリアは顔を背けているが、本気で怒っていない事などセシリア達にはお見通しだった。
「マリアさんも怒ったフリをしてハジメの気を引こうとするのもそこまでにして下さい。ハジメと話す機会は幾らでも差し上げますから、まずは幾つか聞きたい事が有るので答えてくれませんか?」
セシリアは何時までも続きそうな2人の茶番劇を終わらせると、マリアに幾つかの疑問点をぶつけてみた。
「まず1つ目ですがあなたはクレアさんと以前から面識が有ったのですか?」
「面識は無かったわよ。何しろクレアが私の妹だと分かったのは私がアルラウネになり、このダイナスに来て墓地でマミーとなったこの子に出会ってからの話なんだから」
「それは・・・無神経な質問をしたみたいで済みませんでした」
「謝る事は無いわ、知らない事を知っておいた方がハジメに助言だってし易いものね」
自分の心も読まれている!?セシリアはマリアへ軽い気持ちで質問をしていた事を反省した。
「2つ目の質問ですが、マリアさんは国王が父親だと知っていたのですか?」
そういえば、甦る直前に確か平民だったと彼女は言っていた。王城で過ごしていないのならば、何故知る事が出来たのだろう?
「知ったのはね、絞首台に連れて行かれて目隠しをされながら罪状を言い渡された時よ。王の子供だと虚偽を言い広めた罪だと言われた瞬間、母さんと私は父親が誰なのかを悟った。そして『ああ、それで無実の罪を着せて口封じされるのか私』って妙な納得もしたのよ。おかしいでしょ、もうすぐ冤罪で処刑されようとしているのに」
自虐的に笑うマリア、死ぬ際の苦痛や絶望を思い出していてもおかしくない筈なのにそれをクレアに決して見せない様に振舞っている。そうする事でクレアが自分の死ぬ瞬間を思い出さない様にしていた。
「3つ目の質問、あなたのお母様は国王ジェラールにどこで抱かれたのですか?」
マリアの身体が一瞬震えた、この様子を見る限りジェラールは王城ではなく・・・。
「母さんは食堂のお手伝いからの帰り道に見ず知らずの男達の手によって拉致され、1件の廃屋の中で待ち構えていた男に夜通し犯された末、私を身篭ったのです」
ジェラールの考えが大体読めてきた。妃達の手前、娼婦を呼び出す事が出来なかったジェラールは定期的に部下にでも命じて平民の女性を拉致させて犯してきたのだろう。だが、ある時昔犯した女に子供が生まれている事を知ったジェラールは王位継承権を持つ事を知られては困るので無実の罪を着せて口封じを図った・・・そんな所だろうな。これだけでもジェラールの奴を生半可な殺し方で済ます訳にはいかなくなった。
「でも・・・これからどうしますか?マリアさんは父親不明にしておけば平民として暮らせるので問題無いですが、クレアさんの場合ですとサリーネさんの様に王城で会った事が有る人も居る筈ですから隠し通せるか分かりませんが?」
ミリンダの言う事ももっともだ、今後国王と皇太子やその一族が悉く断罪されるならこの国の王族で残るのはクレア1人になってしまうからだ。しかしここで予想外の人間が助け舟を出してきた、ラーセッツである。
「あの、それなら僕がこのまま城に残って彼女を守りましょうか?」
「ラーセッツ、あなた本気で言っているの?あなたは次期魔王候補筆頭なのよ」
「次期とは言っても代替わりするのは当分先だし、こんな小さな女の子を権謀術数渦巻く王城で1人にするのは可哀想だよ。魔王軍が戻ったら、彼女が成人するまで爺を摂政にして何とか持ち堪えさせてみせるからさ」
「あなたがそう言うのなら・・・」
こらこらアーシュラさん、他にも良い方法が有る筈だからもっと良く考えようよ!
「それに、いざとなったらハジメ義兄さんが次期魔王になれば良いよ。母さんの片腕を炭にしちゃった事を言えば誰も文句は言わないよ」
(勝手に魔王にされそうになっている俺が1番文句を言いたいわ!!)
言葉に出さないツッコミを頭の中で言っているハジメを見て、マリアがクスクスと笑っている。
「そうだ!アーシュラさん、ちょっと相談したい事が有るんだ」
「何かしら婿殿?」
ラーセッツがクレアに挨拶しているのを見ながら、ハジメはアーシュラと相談を始めた。それは悪業の数々を重ねてきた国王と皇太子に与える相応の報いに関する物だった。




