第42話 【ダイナス恐怖の10日間】~5日目夜の部~
アルラウネとの約束を果たす為にハジメはダイナスの墓地にやってきた、マミー達もうろついているが口からワサビ臭を放つと途端に距離を置こうとするので襲われる心配も無かった。
『約束通り、1人で来てくれたのね』
「ああ約束は守った、だから教えて欲しいんだ君が俺に近付いてきた理由を。そして俺に話したい事と頼みたい事も全部」
現れたアルラウネが周囲を見回しながら言うので、ハジメも誠実に答える。彼女はハジメ達に危害を加える事は無かったが、セレスの父親の命は混乱を利用して奪った。彼女には彼女なりの人を襲う基準か何かが有るのだろう、それも知りたかった。
『それじゃあまず最初にあなたに近づいた理由から話させてもらうわ。そういえば、あなたは私について知っている事は無い?』
「そうだな、アルラウネと言えば記憶が曖昧だけど正しい世話をしていれば未来の事とかを教えてくれる様な気がしたんだけど」
『それで大体有っているわ、私達アルラウネは面倒な世話をさせてしまうけれどもその家は未来を知る事で富を得て裕福になる。けれども最近ではその世話の伝承も途絶え、持つだけで富を齎すなんて都合の良い思い込みをされる様になった。その結果、どうなると思う?』
「多分、乱獲されて数が激減する」
そう、俺の居た世界で何度も見てきた光景だ。牙や皮が高く売れるからという理由で乱獲され絶滅した動物達、アルラウネもまたそんな連中の欲を満たす道具にされかけたのだろう・・・。
『その通りよ、愚かな連中は私達を手に入れた瞬間から富を求める。そして1度得た富では満足せずに更に多くの富を生み出す予知をさせようとするの、世話もされずにただ予知のみを求められた仲間達は皆干からびて死んでしまったわ』
「それが俺に近づいた事とどう関係するんだ?」
『話を最後まで聞いて頂戴。欲深い連中に抜かれて良い様に利用され続ける事にいい加減ウンザリした私達は、あるモンスターの知恵を借りて場所を移動出来る様になったのよ』
「それってもしかしてドリアードか?」
『ご名答、彼女のお陰で私達は自由に住む場所を選べる様になった。だけど街中を歩くと目立つから結局墓地等の人が滅多に訪れない場所に住み着くしか無かったのだけどね』
アルラウネが自嘲気味に微笑む、言葉には出していないが彼女達を見つけようとする連中は何度も墓地に押し掛けて来た筈だ。その度に別の村や町の墓地に安住を求め移動を繰り返してきたのだろう。
『そうそう、私があなたに近付いた理由だけど色々な村や町の墓地を巡る内に私は私自身の未来をある程度予知出来る様になった。その予知であなたに接触する事でこの逃げ回る生活から解放される未来が有る事に気付けたの』
(俺と接触する事でこれまでの人の目を避ける生活から解放されるってどういう事だ?)
ハジメにはアルラウネの言っている事が良く分からなかった。
『今は分からなくても良いの、だって私の予知の中にはあなたに喰われる未来だって含まれているのだから・・・怪物喰いさん』
つまりこうして俺と直接会っているのも半分は命がけなのだと、アルラウネは暗に言っていた。彼女を喰らう事でもしかしたら予知能力を手に入れられるのかもしれない、そんな誘惑に囚われそうになる。
「俺に近付いた理由は分かった、それで俺に話しておきたい事と頼みたい事って一体何だ?」
『あなたも随分とせっかちなのね?』
「仕方ないだろ、何故か分からないけど明日の早朝に決闘する事になったから少しでも寝ておきたいんだ」
『私が話しておきたかったのはその事についてよ、明日絶対に勝ちたいのであれば私やドリアードを見習いなさい。そうすれば、かの魔王の子息にも勝利する事が出来るわ』
アルラウネやドリアードを見習う?一体どういう事だ?
『考えるのは宿に帰ってからする事ね、それから私からの頼み事なんだけどこの娘を救ってあげて欲しいの』
彼女が手招きすると墓地の影から10歳位の女の子が出てきた、こんな夜遅くに1人で出歩くなんて危ないなと思ってよく見てみると女の子は既に死んでいてマミーと化していた。
『私からの頼み事は彼女を甦らせてあげて欲しいの』
「甦らせろって簡単に言うけど、俺にそんな力は無いぞ!」
『それは知ってる、だから私では最奥まで辿り着けない場所が在るからそこで彼女の生をこの世に戻す秘宝を手に入れてきて欲しいのよ』
「そんな秘宝が有るのか!?それに何でこの子を救おうとするんだ?」
『この子の本来の寿命はもっと先、あなたの大切な人の1人が居た場所で薬の実験台にされたのが原因で命を落としこの墓地に捨てられ後悔の念からマミーとなりこの世に縛られてしまった・・・』
大切な人の1人が居た場所?もしかしてミリンダが居たっていう組織の事か!?
「教えてくれ、その組織の場所はどこに在るんだ!?俺はその組織を徹底的に壊したいんだ!」
『その場所はこのダイナスの南西5kmほどの谷に在る洞窟よ、組織はそこを根城にしている。そして・・・秘宝もまた洞窟の奥で眠っているわ』
「組織の場所と秘宝の在りか、そこまで把握した上で俺に近付いたんだな?」
『そうよ、私はこの子と自分自身の未来を変えてみたいの。それともあなたは、この子にマミーのまま永遠の苦痛を与え続けるつもりなの?』
『・・・お願い、たすけて』
突然、マミーの女の子が口を開いた。喋れないと思っていたのにまだ自我が残っているとでもいうのか!?
『お願い、私をママに会わせて。そうしてくれたら好きにしていいから』
「ママと会えなくなってから、どれくらい経ったか分かるかい?」
『分からない、私が死んだのも何時か分からないし』
『この子が墓地に投げ捨てられたのがおよそ1年前、1年を過ぎてしまうとこの子の肉体と魂は元に戻る機会を失ってしまうの。だから明日の決闘を出来るだけ早く終えさせたいから助言する事に決めた、私が言いたい事は分かるでしょ?』
「ああ、明日の決闘を終えたら急いでその組織が根城にしている洞窟に向かい秘宝を手に入れる事。他に何か言っておくべき事は有るか?」
アルラウネは少しだけ瞑想状態に入ると、ハジメに新たな助言を与えた。
『洞窟の最奥に何か人の身体を捨てたおぞましい者の気配を感じた、もしかしたら組織の人間が秘宝を見つけてしまったのかもしれない。どんな攻撃を仕掛けてくるか分からないし、下手に攻撃して秘宝を壊してしまうとその時点でこの子の未来が閉じてしまうから十分気を付けなさい』
「分かった、秘法を手に入れたらすぐにここに持ってくる」
用件が済んだので立ち去ろうとするハジメにアルラウネが再度忠告した。
『良いこと?明日の決闘で絶対に勝ちたければ私とドリアードを見習う事、そうしないとあなたは命を落とすかもしれない』
アルラウネの瞳にはハジメの枝分かれした複数の未来の姿が映し出されているのだろう、ハジメは宿に戻ると明朝の決闘に備え早目の休息を取る事にした。




