第35話 【ダイナス恐怖の10日間】~3日目午前の部その2~
「皇太子ジェラルドの王籍を剥奪し、王家の人間としてではなくただの平民として犯した罪を償わせる」
急にジェラールが息子を王族から外し、国の法の下で贖罪させると言い出した。
「また一連の事件の責任を取り、私も王を退き一族を連れ地方に移り住もうと思う。尚、王位継承権はコルティナイト家に移譲し国の存続と民に無用な混乱を与えない様にしたい」
(息子に全ての責任を押し付けて自分達は地方に逃げて存命を図るつもりか、モンスターの襲撃の時は自分の首と引き替えにしてでも民を守ろうとした癖に喉元を過ぎれば保身に走る訳ね。結局、この王も息子と同じ穴の狢だ)
この2日間だけでなく、これまでにハジメ達が関わっていない分も含めこの親子の所為で多くの人間が道具として扱われ命を奪われてきた。生半可な死に方で許される物では無いがより長い時間恐怖と絶望を味わわせ犯してきた罪に相応しい罰を与えるにはどうすれば良いか?ハジメは思案し始めた。
「コルティナイト公爵家に王位を継承させるつもりは有りません」
セレスが王の考えを真っ向から否定した。
「確かに私の家は初代勇者と王家の血を繋ぐ由緒有る血統かもしれませんが、現王家の血を一滴でも継承権に残しておけば地方に移り住んだ者達が我らこそが王位を継承するに相応しいときっと名乗り出るでしょう。禍根を断つ為にもその様な愚策を聞き入れる訳には参りません」
「ミリンダ」
セレスの考えに同調する様にハジメもミリンダにある指示を出す。
「国王や皇太子が平気で無法を犯してきたんだ、その一族だって何かしらの横暴を働いてきている筈だ。徹底的に洗い出して膿を取り払おう、膿を取り出す過程で患者が仮に死んだとしてもそれは仕方の無い事だ」
ジェラールはギョッとした、一族で抵抗する者が居れば始末しても構わないと暗に言われたからだ。
「それから国王、息子に全ての罪を押し付けて逃げようと考えても無駄だよ。グエンバルム達の暗殺や魔族との停戦の功績を自分達の物にしようと俺達と本部の冒険者を衝突させた罪は自ら償うべきものだ」
ハジメの指示に合わせてアーシュラさんは部屋の外で待たせていた近衛騎士団の団長を招きいれる。
「団長さん、この2人を牢獄に連れて行きなさい。婿殿は相応の罰を与えるつもりでいるから、舌を噛み切って自殺されたりしない様に普段は猿轡でもしておいた方が良さそうよ」
「はっ!承知しました」
国王と皇太子が牢獄に投獄されるのと同時に王妃並びに王の血縁者全員が王城内の1ヶ所に集められると近衛騎士団の監視下に置かれた。その際に抵抗した者は容赦無く切り伏せられ多くの者が後日辺境の地に流刑となる。
「セシリア」
ハジメはセシリアを呼ぶと、まず深く頭を下げた。
「セシリアには出会った頃の事を思い出させてしまうかもしれないけどさ、この国を早く正常に戻す為に女性達から切り崩していこうと思う」
「『女の天敵』のハジメなら容易いでしょう、でもサリーネさんに知られては悪い印象をより強くしてしまうのではないですか?」
「今から証拠集めをのんびりと始めていたら次の会議の日を迎えてしまう、そうなる前にある程度は片付けておきたいんだ」
(『女の天敵』?)
サリーネはセシリアの口から出てきた『女の天敵』の意味を最初理解出来なかった。それに気付くのは数時間後、唇を奪われた際に微かに付着したハジメの唾液の効果が現れてからだった。
「昼時まで少し時間が有るから、昨日行く筈だった商業ギルドの本部に行ってみよう」
「そういえば、最初に立てた予定ですと皆で乗れる馬車を買って帰る計画でしたね」
システィナイト伯爵夫妻とサリーネを一旦家に帰しハジメ達は商業ギルドの本部を訪れた、たった2日でこの非常識な面々の顔と名前は既に伝わっており本部の入り口で門前払いを受ける事は無かった。
「よくお越し下さいました、商業ギルドの代表代行をしておりますセシウスと申します。本日はどの様なご用件でしょうか?」
「はい、ルピナスの支部で勤めておりますアグナードさんから紹介状を受け取ってます。本部で手渡せば良い馬車を扱っている店を教えて貰える筈だと・・・」
「そうですか、その様な事を言っておりましたか」
嘆息気味に返事をするセシウスにハジメは違和感を覚えた、するとセシウスはフロアに居る職員達に聞こえる声で話し出した。
「お~い!仕事を俺達に押し付けて行方をくらませた馬鹿野郎はどうやらルピナスに居るみたいだぞ」
「何、本当か!?」
「ああ、紹介状と称した詫び状に彼らに馬車を融通する様にって代表命令まで添えてあるわ」
「詫び入れに来る度胸が無いから代役立てて、その謝礼として馬車をプレゼントとは随分と奮発したものだ。請求はあいつ宛にして一品物のとんでもない奴を渡してやろうぜ!」
そうだそうだ!と職員達が妙に張り切り出した。
「あの~?もしかしてアグナードさんって・・・」
「はい、ご想像通り商業ギルドの代表をされております。非常に優秀なのですが、時々仕事を放り投げて行方をくらませるのですよ。立ち寄った先の支部は匿う代わりに難件を処理して貰えるので本部には報告を決してあげない、私達の手にこの書状が届いた時点でルピナスを既に後にされているでしょう」
隣を見るとミリンダが驚きの表情を浮かべていた、あのミリンダの目さえ欺く情報操作能力。考えるだけでぞっとした。
「それで良い馬車の店を教えて頂けるのですね?」
「教えるというよりも、私共商業ギルド本部の名に賭けて最高の1台を作らせて頂きます」
「作る?今、作るって言いました!?」
「ええ、代表は書状の中で『近い内に小さな国が独立して誕生するだろう、その功労者が乗る馬車を作るのは君達だ』と書かれていました。1週間以内に完成させますので出来次第、宿に連絡を入れさせて頂きます」
「ああ、そういう事。確かにそれならその小国の繁栄は約束された様な物ね」
アーシュラさんが何かに気付いたらしく1人で納得していた。
「アーシュラさん、アグナードさんの書状で何が分かったの?」
「彼、物凄く頭の回転が早いのは間違いないわよ。どうやら私達がダイナスで何を仕出かすか凡その予想を立てた上でこの書状を書いたみたいだから」
「モンスターの襲撃やシスティナイト伯爵の幽閉までは流石に予想出来なかったみたいですね、しかしそれ以外の事柄に関しては大体的中しています」
そこまで予知出来るのであれば、ミリンダの探索が入る範囲も予測可能なのかもしれない。ハジメは舌を巻くしかなかった。
「それと・・・紹介状の中にこの1枚のメモが挟まれておりました」
セシウスはメモをハジメに手渡す。
「何て書いてあるんだ、ハジメ?」
始がメモを覗くと、すぐに険しい表情に変わった。
「なるほどな、今度は人間相手に王都を防衛する事になる訳か。おいセレス!縁切り状を手渡しに行く手間が省けそうだぞ」
メモには以下の様な事が書かれていた。
【王達が拘束された事はすぐに上下問わず貴族の間で広まるだろう、コルティナイトはそれを好機と判断し娘を利用して国を丸ごと手に入れようと挙兵する。それを当たりが止めている間にハズレは内側に巣食うネズミの駆除と番の引き離しを図れ】
次回より『女の天敵』本格始動です。




