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第33話 【ダイナス恐怖の10日間】~2日目午後の部その2~

「ふむ、オークとやらの身がこれほどの美味であったとは知らなかった。若い頃、亡き爺から戦時中の食料不足に備えてゴブリンとコボルトを喰わされた記憶は有ったがな。他にも喰えるモンスターは居たのだな」


「そうですね、あなた。でもこの事を公にするとモンスターを食べて生活しようと考え出す者が現れるかもしれません、間違ってスライムなどを食べてしまえば内臓が溶けて死んでしまいます」


(すいません、最初の頃そのスライムだけを喰って生活してたのがここに居ます・・・)


「父様母様!何でそんなに和んでいられるのですか!?」


オークの刺身を食べて感嘆している両親を見て、サリーネは声を荒げていた。何故なら現在立て篭もっている塔の周りを皇太子ジェラルドが北門の守備兵を召集して包囲しているからだ。


当然の事ながら城壁を守っている近衛騎士団にも声が掛かった、しかし


「断る、私の真の主は国でありアーシュラ様なのだとはっきりと理解した。アーシュラ様の身辺に危害を加えようとするならば、まず我らが相手になろう!」


っと、即答で拒否した上に反旗を翻した。一体どんな事をすればあそこまで皇太子に反抗出来る様にさせられるのかアーシュラさんを問い質したい心境になった。実際は怖くて聞けないけどね・・・




「ええい!たかだか10人程度で立て篭もっている塔1つ何故陥とせない?これでは良い笑い者ではないか!」


塔の外では簡単な事も分からないアホ皇太子が部下に罵声を浴びせた、その塔を王城から剥ぎ取ってここまで運んだ人物が居る事をすっかり忘れている。そもそもその方に城壁まで壊されているのに何故念頭に置く事が出来ないのか逆に聞いてみたくなった。


「しかし、こんな偶然も有るのだね。我が家の特殊な力を知らずに皇太子が迫ってきたのがキッカケでサリーネにも良い縁が結ばれそうだ」


「ええ、きっとそうですよ。これもシスティナのお導きに違いないわ!」


「お導きな訳無いでしょ!だって、この男はいきなり私の唇を奪ったのよ!?」


「でも、お前が力を解除していないのに直接触れたのだろ?ならば、この御方はシスティナと何らかの関係を持たれているのだ。そうでなければお前が無意識に好意を抱いて解除してしまったか・・・・どちらにせよシスティナイトの血を次代に受け継がせる事が出来るのだ、こんな嬉しい出来事は無いぞ」


「私はちっとも嬉しくなんか無いわよ!」


娘に良い結婚相手が見つかったかの様な事を言い出す伯爵夫妻と俺を指出しながらキレているサリーネ、ん?もしかして良い結婚相手って俺の事か!?


「君、名前を何というのかな?」


「ああ、はい。ハジメ・サトウと言います」


「それじゃあハジメ君と呼ばせてもらうよ。うちのは表面上は明るく元気に振舞うのだが、見ての通り本性は抑えの効かないじゃじゃ馬娘でね。苦労をかけると思うが今後ともよろしく頼むよ」


何故か知らないが娘のサリーネと交際しろと言ってきている、会った早々からこの展開は流石に処理が追い付かないです自分の方の。




「ところで先程から俺が彼女に触れたのが凄い事みたいに言っているのですが、何か有るのですか?」


「はい、勇者の血を引く一族。その強大な力は徐々に薄れてきているとはいえ尚も健在です、あの男はその力を単純に自分の物にしたいだけなのです」


ここでセレスが会話に入ってきた。


「おお、セレスティーナ殿ご無事でしたか!あなたを救ってくださったのがハジメ君なのですか?」


「いいえ、私を助けだしてくださったのはこちらの方です」


セレスは手を始の方に向けた。


「堅苦しい挨拶は苦手だから、短く名乗らせてもらうが俺の名は佐藤 始。システィナに召喚された今代の勇者だ」


「サトウ・ハジメ? では、こちらのハジメ君は?」


「ああ、実は俺の本当の名前も佐藤 始っていうんだ。全く同じ名前だったからシスティナは最初にまず俺を人違いで召喚しちゃったんだよ」


「同じ名前だったから人違いで召喚されたですと!?」


伯爵様も流石に驚くわな、神様がまさか間違って他人をうっかり召喚していたなんて知ったら・・・。


パンパン! 会話の流れを止める様に手を叩く音が響いた。


「はいはい、小難しい話は一旦そこまで。とりあえずご飯を済ませてから話を再開して頂戴。婿殿の計画だとこの後、皇太子をこの塔に縛り付けて城に投げ返すつもりなんでしょ?」


「うん、1度死ぬ思いをしないと反省しなさそうだからね。もしくは塔に縛り付けずに今居る部屋を密閉した後に閉じ込めてワサビ汁のプールを作り出しその中で一晩中泳がせるとかね」


「あの、ところでハジメ君を婿殿と呼ぶこちらのお嬢さんは?」


「私?私の名はアーシュラよ、始の前の先代勇者で今は魔王の妻として暮らしているわ」


「へえ、先代の勇者様ですか!それに今はその若さで魔王とご結婚されていると・・・・魔王、魔王の妻ですと!?」


「そうよ、でも一応私もシスティナとは面識が有るからこうしてあなたにも触れられる。それに今は人族と魔族で停戦交渉中で私がパパの代理で来ているのよ」


驚いてばかりの伯爵だったが停戦という言葉を聞いて表情は一変した。


「停戦ですと?我々はその様なお話を王から全く聞かされておりません」


「それはそうよ、だってあの王様達は手柄を自分達の物にしようとして私達の暗殺まで企んでいたのだから・・」


何度か話が逸れてしまったが会話が止まったのを合図にようやく全員での食事を再開した、会話に全く入っていなかったランとミリンダはセシリアにこオーク肉を使ったステーキを頼み2人だけガツガツと食べていた。


「大トロの刺身も美味かったが、極厚の大トロを焼いたステーキもまた格別じゃのうミリンダ!」


「ええ、素晴らしいです!ハジメ様が手に入れたワサビ醤油も良く合います」


「セシリア、表面だけ焼いてくれれば良いぞ。ハジメ様が言うておったミディアムレアとかいう奴で頼む!」


「はいはい分かりました、ミリンダさんも同じので良いですよね?」


「お願いします、やはりセシリアさんの作られる料理はとても美味しいです。何か秘訣は有るのですか?」


セシリアは顎に人差し指を当てて少しだけ考えていたが、やがて微笑みながらその秘訣を皆の前で口にした。


「ハジメの口から『美味しい』と毎日聞かせて貰いたい、それだけですね♪」


昼間から惚気られてしまい、皆の視線が集中したのでハジメは顔を赤くしながら食事をする羽目になった。しかし、サリーネだけはハジメと目が合うと頬を赤くしながら顔を横に向けていた。




勇者の血の力・・・セレスが何故あの時会話に混ざってきたのか理由も分からないまま食事を終えたハジメ達が休憩していると塔の外が急に騒がしくなってきた。


「何やら外が騒がしいが、何か動きでも有ったのか?」


始が部屋の窓から外を覗き込んで呆気に取られていた。


「何だ、あれは?」


「何か有ったのか始?」


「見れば分かる、多分開いた口が塞がらない部類だ」


「?」


ハジメが言われるまま窓の外を覗いてみると


「もう男でも構わん!お前、今すぐ私の相手をしろ」


「ひいっ!お助け~!!」


皇太子のジェラルドが若い男の兵士の尻を追い掛け回していた・・・。


「おい、とうとうアイツ頭おかしくなったのか?男を追い掛け始めてるぞ」


ハジメの報告を聞いてセレスや伯爵達が交互に覗き込み唖然とした。


「多分ああなってしまった原因はハジメ、あなたですよ」


食器類の後片付けを終えたセシリアが戻りながら話し掛けてきた、どうやら皇太子の変化の理由に心当たりが有るようだ。


「理由が俺って奴には何もしていないぞ?」


「してますよ、さっきハジメはサリーネさんを助け出す際に何を使いましたか?」


「何って、口一杯に溜めたワサビ汁だけど」


「あなたの唾液は何の効果が付いていましたっけ?」


『あっ!?』


ハジメだけでなくランも初めて出会った時の事を思い出したのか顔を真っ赤にした。


「媚薬入りのワサビ汁・・・刺激が治まれば、後に残るのは発情効果だけです。自分で蒔いた種ですから責任持ってあの方のお相手でもしたらどうですか?」


「あの・・・もしかして怒っていらっしゃいますか?」


「いいえ、全然。これから結婚しようという愛しいフィアンセの前で若い娘の唇を奪う真似をする非常識な婚約者の事で一々怒っていたら堪りませんから」


やはり怒ってる、今までずっと黙っていただけだったのか!? ランが初めて家を訪れてきた時も嫉妬して2人で愛し合っていたとか平気で話し出すし、内面はかなり嫉妬深い性格なのかもしれない。


セシリアの冷たい視線に耐えながら尚も様子を伺っているとジェラルドは事もあろうに都の住人に手を出そうとし始めた。その後、教会周辺に住む女性達が塔の中に逃げ込んで来たので追い掛けてきたジェラルドをハジメが蜘蛛縛りで取り押さえて騒ぎは何とか治まったのだった・・・。

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