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第30話 【ダイナス恐怖の10日間】~2日目午前の部その1~

「なあ、殿下からは疲弊したところを討てと命ぜられたが疲弊するのかあれ?」


「下手に近付いたら俺達も一緒に喰われるんじゃねえの?」


「騎士団長殿は一体どうされるおつもりなのか?」


馬に騎乗して突撃の指示を待つ騎士達の視線の先には微動だにしない騎士団長の姿が有った。その騎士団長の許に報告が来る。


「お知らせします!城壁の上で待機させておりました弓の狙撃手が極度の緊張の為か失神、教会に送られ治療を受けております」


「失神したのはこれで何人目だ?」


「はっ、3人目です」


「狙撃手の周りにはまた串が落ちていたのか?」


「はい」


団長は自分を落ち着かせようと軽く息を吐きながら、報告に来た兵士に告げた。


「これ以上貴重な弓兵を減らす訳にはいかない、城壁の上に送る際はまた指示を出すのでそれまで待機だ」


兵士が立ち去り少しすると、また空から串が飛んできて被っている兜に当たり始めた。


(冗談じゃないぞ!城壁の上で身を潜めさせた弓兵だけでなく、城壁の内側で待機している我々の居場所まで既に把握している連中の背後をどうやって襲えば良いんだ!?しかも威嚇のつもりか知らないが食べ終わった串をここまで正確に投げられたら攻撃命令を出した瞬間に何をされるか分かったものじゃない)


足元に溜まっていく食べ終えた串を見ながら、団長の脳裏に降伏の2文字が浮かび始めていた・・・。


「始様、串をそこら辺に放り投げるなんてお行儀が悪いですよ」


「おお、悪い悪い。虫が何匹か隠れているからさ、追い払おうとしているだけだ」


「だからって肉串ばかり食べていたら身体に悪いです、今度から野菜串を混ぜて持ってきますからね」


「そうしてくれ、多分あと少しで虫の方が音を上げる筈だからその後は串以外の物も食うよ。念の為に手羽先ゴブリン串をもう5・6本くれ」


始が食べ終えた串を無造作に放り投げると流線型を描きながら城壁を越え、騎士団長の兜に当たった。




ダイナスに来て2日目、ハジメ達は城壁の外に普通では考えられない物を運び出していた。畳1枚ほどの大きさの鉄板と同じ位の大きさの鉄の網、椅子を人数分に日除けのパラソルや仮眠用のテントに炭などである。始とランが前日に崩された城壁で使われていた石を3個ほど持ってきて台にするとそれに鉄板と網を載せて下で炭に火を入れた、傍から見ればバーベキューを始める態勢なのだが普通と違うのはその目と鼻の先にはオークやゴブリン達の集団が迫っているという点だ。


「婿殿~!私にもちゃんと分けて下さいな~!!」


崩れた城壁の側ではアーシュラさんが1人で立っていた、自分で壊したのだからモンスターの集団を倒し終えるまでそこを1人で守る様にとハジメに言われている。しかし守っているのがハジメ達の中の最高戦力なのだから突破出来る者は皆無だろう、防衛そっちのけで誰かの味見でも始めない限り・・・。


「では、これより第1回ダイナス近郊モンスターバーベキュー大会を始めたいと思います。一同、拍手~!!」


パチパチパチパチ・・・・・♪


エールを片手に司会進行を始めるハジメ、王都の危機だという意識は全く無い。その横ではハジメ達の居る場所までモンスターをトレインしてきたランが途中でくすねてきたゴブリンを焼いてもらって腕に齧り付いていた。


「こら、ラン!まだ始まっていないのに1人で先に食い始めるな」


「良いではないか始様、ご要望通り連中をここまで連れてきたのだぞ?これくらい大目に見なければ器の価値を下げてしまうぞ?」


ドゴッ! 


直後にランの後頭部に拳大の石が直撃し、ランはその場で倒れた。石を投げたアーシュラさんはエールを飲み干しながら


「ラン~!婿殿から注意された事は直さないと駄目よ~!でないと、また痛い目を見る事になるからね~!」


見るとテーブルの上に置いてあったエールが1つ足りない、目を離した瞬間にここまで移動して持ち帰ったみたいだ。


「なあ、ハジメ。こちらから運ばなくてもあの人なら腹が減れば自分で勝手に持ちに来るんじゃないのか?」


『早い短い細い、3拍子揃った始ちゃん~♪』


どこからか小さな声がしたと思ったら、急に体育座りをする始。最近、始のこの変な行動をよく見掛ける様になった。見かねたセレスが始に近寄り耳元で何かを囁くと始が振り向いて


「本当かい、セレス?」


「ええ本当よ始、だから気にする必要は無いわ」


セレスの言葉で始が無事復活しバーベキュー大会が再開された。ハジメから見ても近頃のセレスは本当に始の扱い方が上手くなっている、サブ職業で【勇者のマインドコントローラー】が付いていたのはその影響だろう。反対に気がかりなのは始の方だ、サブ職業で【夜の三重苦に悩まされる者】が付いていたのは何が原因なのかさっぱり分からなかった。




ハジメは振り返ると即席の調理場でオークの味を確認しているセシリアに話しかけた。


「セシリア~!そっちの方はどう?オークの味は分かった?」


「ええ、でもちょっと困った事が起きましたハジメ」


「オークだから豚肉の味かと思っていたんだけど、別の味がするの?」


「はい、試しにこれを食べてみてください。胴体部分の肉です」


渡されたのはオーク肉の生の切り身だった。


「ええっ!?生で食えるのオークの肉?」


「はい、表面を軽く焼いて食べるのも美味しかったのですがやはり生が1番でした」


ハジメは恐る恐る食べると口の中に慣れ親しんだ味が広がった。


「これはマグロだ。海の魚の味だね、マグロは刺身や鉄火丼にして食べると美味いよ」


「鉄火丼ですか、後で作り方を教えて下さい!それと胴体部分はハジメの言うマグロだったのですが、残りの部位は予想通り豚肉でした」


残りの部位?


「残りの部位ってどこが残っているのかな?」


「頭・両腕・両足ですね。頭は身の部分が少ないので、腕と足から肉が取れます」


「頭部はどこかに穴を掘ってまとめて埋めておけば良いから、腕と足の肉を使って肉串を作ろう。セシリアの絶品の味付けに期待してるよ」


「もうハジメったら!味付けといってもシンプルに塩コショウだけの方がエールにも合うし調理も楽なので大量に作れますよ」


「それならランに1度王都に戻らせて串を大量に買ってこさせるよ」




こうして始まったバーベキュー大会、しかし始まってみると思わぬ誤算が生じていた。誤算その1としてハジメはオークを食べて【貧血防止】・【人並み外れた食欲】の2つの能力を手に入れた。だが【人並み外れた食欲】によって満腹中枢が壊れたのかどれだけ食べても満腹感を得られる事が無くなってしまった。


誤算その2はマグロ(オーク胴体部分)の味にランとミリンダがハマってしまった事である。内陸にあるダイナスやルピナスには生の魚が届く事はほとんど無い、その為初めて食べた刺身の味に感激してバーベキューの主役となる筈だった肉に手を伸ばさなくなったのだ。


オークってさ、ほらお腹周りブヨブヨして脂肪をたっぷり蓄えてそうに見えるでしょ?そしてその予想通りでオークの胴体部分で赤身・中トロ・大トロの占める割合は3:4:3で7割がトロ(脂肪)だった。取れたて新鮮の生の中トロ・大トロの味はハジメと始の舌を唸らせセレスも舌鼓を打つ。


そして追加の食材調達役を名乗り出ると2人は「中トロ、大トロ~♪ついでに手羽先~♪」と鼻歌交じりに集団の中に切り込み食べやすい大きさにゴブリンとオークをカットするとその場で始の用意したマジックバッグに詰め込む。マジックバッグとは始が召喚された際にシスティナから渡されたアイテムで大量保存可能な上に入れた瞬間の状態で保存されるのでマグロ(オーク胴体部分)の様に新鮮さが1番の食材の保存には正にうってつけだった。




どちらかというと手羽先・マグロの刺身食べ放題と化してきたハジメ達の前に巨大な斧を持つ1匹のモンスターが現れた、灼熱の肌を持ち3m近い牛顔の巨人ミノタウロスである。


「ブモ~!!」


斧を振り上げながら突進してくる新たな食材にハジメは試食好きの怪物料理人に声を掛けた。


「お~い、セシリア~!メインディッシュのミノタウロスが来たから試食よろしく~!」


「は~い、今行きま~す♪」


笑顔で現れたセシリアを一目見た瞬間、ミノタウロスの動きが急に止まった。ニコニコした顔でセシリアは更に近付くと舌なめずりしながらミノタウロスに対しこう言った。


「食材は新鮮さが大事なの、しっかり血抜きが終わるまで動いちゃ駄目よ」


目の前に現れた女が死神なのだとミノタウロスは瞬時に悟った。怪物料理人モンスターコックの職業特性、それは食材と認識されたモンスターはまな板の上の鯉のごとく身動きが取れなくなるというものだった・・・。

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