第22話 妖精王の襲来
ハジメは【生殺し(対女性自動発動)】・【弱点予測(対女性自動発動)】を会得した。
ランは【奉仕の極意】・【名器の持ち主】を会得した。
アーシェラによる3日間にも及ぶ特訓(味見)によってハジメとランはモンスターを喰った訳でも無いのに複数の能力を手に入れた、しかし他人に見せる訳にいかない物ばかりだ。
「婿殿は中々面白い能力をお持ちね、私が我を忘れそうになるのなんて本当に久しぶりよ」
ウットリとした顔で話すアーシュラ、16才の外見とはとても思えない妖艶さにハジメの鼓動も少し早くなる。
「ハジメ様、お母様から離れてください。あなた様には私とセシリアがいるのですから」
ランが嫉妬してハジメとアーシュラを引き離そうとした、しかしアーシュラはそんなランを軽くあしらう。
「心配しなくても奪ったりしないから安心しなさい、時々貸してくれるだけで良いから」
「ハジメ様は絶対渡しません!」
隣で騒がしい親子を他所にハジメは残された物の後始末に追われている、アーシュラの味見は時が止まっているセシリアやミリンダ達の真後ろのスペースを使い会議室の中で堂々と行われた。
アーシュラ曰く、『ギルドのベッドを使い物にならなくしたら、私達が真っ先に疑われるでしょ?それなら、ここでやっちゃって後の始末は女性2人と3日間楽しい時を過ごした誰かさんがやれば済む話よ』とハジメに床に広がっている諸々の掃除を命じたのだった。
「あと体感で1時間もしない内に時間が再び動き始めるわよ、ほら急いだ急いだ!」
急かされながらも何とか片付けを終えると、3人は時間が止まった時の場所に戻った。そしてアーシュラが徐に指を鳴らすと周囲の時が再び動き出す。
「あの、アーシュラ様。ハジメの手に触れて何か分かるのですか?」
何も知らないセシリアがアーシュラにハジメの手を触れる理由を聞いてきた」
「実は私は触れた相手の特性を多少感じ取る事が出来るのよ、あなたの彼氏はこれからどんどん女の扱いが上手くなっていくわよ。ランと2人でしっかり見張らないと気付いたら誰かの据え膳を食べているかもしれないわよ」
(据え膳どころか逆に喰われた気がするのですが・・・)
ハジメは反論を言いたかったのだが、言ってしまうとセシリアにバレてしまうので言い出せない。ランの方も同様でセシリアに白状する事が出来なかった。
バタンッ!
「大変ですミリンダ様!ルピナスの南側より大量のモンスターが押し寄せてきているとの報告が入りました」
「何ですって!?」
ギルド職員が会議室のドアをノックする事さえ忘れて血相を変えながら入ってきた。
「モンスターはピクシーを中心とした妖精達でその中央には王冠を被り赤い礼装を着込んだ人型モンスターが居るとの事です」
「そやつは妖精王オーベロンかもしれないわね、余程の事が起きない限り配下の妖精を率いて町を襲ったりしないのだが誰か原因を作った者でも居る?」
アーシュラの説明を聞いて、ミリンダの首がゆっくりとハジメの方を向いた。
「ハジメさん、アーシュラ様のご説明だと今回の襲撃の原因はどうやらあなたみたいですから・・・責任、取ってくれますよね?」
「・・・はい」
ハジメはセシリアとランを連れて会議室を出ると責任を取りに町の外へ向かった、残されたアーシュラはミリンダや始達からその原因を聞いてみる事にする。
「婿殿はオーベロンを怒らせる様な事を何か仕出かしたのか?」
「実は・・・彼は妖精女王のティターニアを喰ってしまったのです」
「ティターニアを喰った?」
ドラゴンを喰ったアーシュラでも流石に人型モンスターを喰う度胸は無かったのだが娘の婿は平気で食べたらしい、なるほど妻を喰われたのならば怒り狂って町を襲おうとする理由も納得出来る。
「しかしオーベロン自らが出てきたとなると率いている妖精の数もかなり多い筈だけど、あの3人だけで本当に良いのかしら?」
「ああ、良いんじゃねえかな?」
始が頭をボリボリと掻きながらアーシュラにその理由を言った。
「最近のあいつは俺よりも人外に迫ってきているからな、当たり勇者の俺よりもハズレ勇者のハジメの方が能力的には異常かもしれないな」
「ほう、ではそなたが今代の勇者なの?」
「そういう事になるな、佐藤 始だ。お手柔らかに頼むぜ先代」
ハジメと違った立ち居振る舞いを見たアーシュラの中でまた悪い癖が出始めた、そう今度は始の味見をしたくなったのだ。
「ねえ、始殿。婿殿と同じくあなたの特性を少しだけ知りたいのだけど、試しに私の手の上にあなたの手を乗せてもらっても良いかしら?」
始はその後起きた出来事を誰にも口外しようとはしなかった、味見したアーシュラから男としてのプライドと心に傷を負う幾つかのキーワードを言われた事がショックだったらしい・・・。
「貴様か、我が愛する妻の命を奪った不届き者は?相応の報いをくれてやるから覚悟しろ」
ハジメが近付いてきた事に気付いたピクシーからの報告でオーベロンがハジメ達の前に姿を現した。淡々とした口調だが周囲に殺気をばら撒いているのでかなりご立腹の様だ。
「出来れば穏便に済ませたいのだけど、どうすれば引いてくれるかな?」
これ以上騒ぎを大きくすると、アーシュラさんが首を突っ込んでくるかもしれない。そうなるとここら辺一帯が更地になる可能性が高いのでハジメは交渉で何とか回避しようと考えた。
「貴様の首を吊るしながらルピナスを火の海にせねば気が済まぬ、女王の命を軽く見積もったのは間違いだったな」
「いや、そうじゃなくてこれ以上騒ぎを大きくするとアーシュラさんが飛び入り参加しそうだからそうなる前に騒ぎを鎮めたかったの!」
『アーシュラ?アーシュラってあの!?』
オーベロンの周りを飛び交っていたピクシー達に動揺が走った、もしかしてこの前ランが言っていた前回の歪みの際に本能的に危険を察知してアーシュラから逃げ出してきた連中なのかもしれない。
『キャー!アーシュラが来るぞ~!皆、炭にされちゃうぞ~!』
『生きたまま手足をもがれて、最後には首をへし折られちゃうぞ~!!』
『逃げろ~!』
『逃げろ~!』
「こら、お前たちどこへ行くんだ。戻って来い!!」
ピクシー達はオーベロンの命令を無視して一斉に飛び立ち霧散するティターニアを喰った時と状況が似ていたが、違う点はそれまで数の上で有利だった筈なのに今はオーベロン1人しかハジメ達の前に居ない事である。
「1人だけになったみたいですし、これでお終いにしませんか?引き上げてくれるのなら俺達もこのまま帰りますので」
ハジメの一言はオーベロンの妖精王としての矜持を傷つけた、激高したオーベロンは剣を抜くとハジメの隣に居たセシリアに斬りかかった!
「こうなれば我1人ででも、貴様に鉄槌を下してみせる。せめて貴様の女だけでも道連れにしてくれるわ!」
糸を出してオーベロンを取り押さえる猶予が与えられなかったハジメは咄嗟にティターニアを喰った際に得た能力の1つを叫んでしまう。
「て、て、て、テンペスト!」
次の瞬間無数の真空の刃がオーベロンに襲い掛かる、声にならない叫び声を上げながらオーベロンは小指大の大きさに細かく刻まれると更に1mmサイズの薄さにまでスライスされた。ハジメ達は死体を放置して帰るのは少し勿体無いと思ったので、オーベロンの肉片を食べてみる事にした。
「ハジメ、最初に味見させてもらっても良いかしら?」
セシリアが試食したいと言ってきたのでハジメとランは快く了承した、ステーキ(ブラウンスライム)を食べた際にすぐにより美味しい食べ方を発見したセシリアの舌に絶大な信頼を寄せているのだ。
「いただきます」
セシリアがスライスされた赤い肉片を口に入れると、何故か分からないが少しだけ噛んだだけで吐き出してしまった。
「どうしたセシリア!?」
「これ、何か変です。酸っぱいのに後を引く食感が有ると言うか、いつまでも噛んでいたくなりそうでした」
セシリアでさえ思わず吐き出したオーベロンの味とは一体?ハジメは緊張しながら肉片を手に取ると口に運んだ、しかしその味は予想に反して小さい頃から慣れ親しんだ物だった。
(オーベロンって小さい頃に駄菓子屋でよく買って食べた【よっちゃんイカ】の味がする)
ピクシーがリンゴ、ティターニアが餃子、そしてオーベロンはよっちゃんイカ、妖精系のモンスターの味はバラバラで予想する事はとても出来そうに無かった・・・。




