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第14話 勇者達との共同生活開始

「・・・・済まないが夜は防音の結界を家の中にも張ってくれないか?」


「どうかしたのか?」


「2人の声がこちらにも筒抜けなんだよ」


「それは気が付かなかった、悪い悪い。でもこちら側にもお前さん達の声が筒抜けだったのは気のせいか?」


「「・・・・・・・」」




始と公女セレスティーナの居候を許したその日の晩、2人は早速借りた部屋で肌を重ねていた。2人の声は家中に響きハジメとセシリアもお互いに我慢出来なくなって再び男女の関係を結んでしまった。翌朝セシリアとセレスティーナがお互いにあられもない声を出していた事を恥じて赤面している中、始だけは堂々と振舞っていた。


(その強心臓の一部だけでも俺に有れば・・・)


そこまで考えてハジメは思わずハッとした、ここまで来てようやくハジメもセシリアに対する気持ちが確固たる物へと変わりつつある事を自覚出来たのだ。ただし、それを自覚したキッカケが別の男女の愛の営みなのが少々情けない所ではあるが・・・。


「それじゃあハジメ、今日はどこら辺に向かうんだ?」


「そうだな、昨日始が言っていた事が気になるからモンドール村方面へ行こうと思う。ただ徒歩で4日近く掛かるから途中で引き返して明日の夕方ルピナスに戻る予定だ」


「はい、ハジメ様。今日の分のお弁当です、明日の分は用意出来ませんので夕食でその分腕を振るいますので」


「ありがとう、楽しみにしているよ」


「お帰りをお待ちしております。あと勇者様、ハジメ様の事よろしくお願いします」


家を出たハジメと始は2日分の水と保存食を露天で買うと町の西門を出てモンドールへ向かった。そして丁度その頃、【巨大転移陣ビッグゲート】の建設地でも1つの動きが有った。


「姫、1人で行動されるのは危険です。お止め下さい!」


「私に構うな、これでも貴様らよりも長くこちらの世界の空気に触れておる。なに、父上が来るまでに手土産の1つでも用意しておかないと後継者としての資質を疑われてしまうからな。父上の度肝を抜かせる物を見つけてくるだけだ」


お目付役の部下と離れ、1人ルピナスに向け歩き始めたランの心の中は名も知らぬ男の事で既に一杯だった。


(あの時、あの御方はルピナスに向け立ち去られた。ならば、そちらを目指せば会える可能性が高い。もし会う事が出来たら今度こそ御名前を聞いておかないと)


そう考えながらランは着ていた甲冑をドレスに変化させると森の中に姿を消した。




「最初、冗談かと思ったが本当にモンスターを喰うんだな」


「まあね、でもこのブラウンスライムはステーキの味がして美味しいから実は時々食べに来てる」


「そんなに美味いのなら、俺も試しに食べてみようかな?」


「スライムの酸で胃や腸に穴が空いても構わないならどうぞ」


「そこまでして喰いたいとは思わないから止めておく」


ハジメと始はお互いの事を話しながら進んでいた、元の世界での出身地や育った環境等の他にもこれからについても明かしていた。


「それじゃあ、始はこの世界に残るつもりなんだ?」


「ああ、俺1人だけだったら元の世界に戻る方法を探していたと思うがセレスと出会っちまったからな。日本じゃセレスの戸籍とか問題がわんさか出てくるが、こっちならあいつと一緒に暮らすのに何の問題も無い。なら、俺が残れば済む話だ」


「親兄弟と2度と会えなくなっても平気なのか?」


「大丈夫・・・って言ったら嘘になるが、それでも俺はセレスと共に居ると決めたからな。後はその選択が間違っていなかったと思える様に行動していくだけさ」


始の姿がハジメには眩しく見えた、そこまでの思い切りの良さをハジメはまだ持っていない。セシリアに好意以上の物を抱いているのが分かってもそれだけでこちらの世界に残ろうと決断出来る程の覚悟がハジメには足りなかった・・・。始に気付かれない様にこれからの事について考えていると森の中から熱感知に反応する存在を発見した。


「始、一旦止まってくれ。森の中から何かがこちらに近づいてくる、数は1。もう少し接近すればある程度の形が分かる」


「俺の気配察知にはまだ反応していないが、お前の言っていた熱感知ってのは凄いな。気配は消せても体温まで消す事は早々出来ないから当然か」


感知した存在が徐々に近づいてくると少しずつ熱を帯びた人の形に変わり始めた。


「近づいてきているのは人間、しかも女性だ。何でこんな場所に居るんだ?」


ガサガサ・・・。そして目の前の茂みの中から現れたのは。


「えっ!あなたは!?」


「もしや、あなた様は!?この間は助けて頂いて本当に有難うございました」


「いえ、俺の方こそあの場に残して立ち去ってしまいすいませんでした」


どうやらこの2人は顔見知りの様だ、始は一応安心したがハジメに気付かれない様に警戒を怠っていない。


(何者だ、この女。目の前に居るのにまだ気配察知に反応しない、しかもこの女から溢れ出てくる膨大な魔力。これじゃあ、まるで・・・)




そんな始を無視するかの様にランは矢継ぎ早にハジメに質問を浴びせた。


「あの時、お名前を聞くのを忘れておりました。宜しければ教えて頂けませんか?」


「ああ、そうだった。俺の名はハジメ・サトウと言うんだ、あなたは?」


「私ですか?私の名はランと申しますハジメ様」


「ハジメ様なんて呼ばなくても大丈夫だよ、ハジメさんで良いからねランさん」


「そんな・・・!?命の恩人に対してそんな呼び方など出来ません、しばらくの間はハジメ様と呼ばせてください」


両手を合わせ恍惚とした顔でハジメを見つめるラン、呼び方を直させるのはどうやら無理みたいだ。


「ランさんがその方が呼びやすいのであればそれで良いよ。ところで、ランさんはこの間もそうだったけど何故1人で居るのかな?家族や連れの人は近くに居ないの?」


(しまった!?)


確かに女性が1人でこんな場所を歩いているのは変だ、ランは瞬時に頭をフル回転させて適当な言い訳を考えた。


「実はこのドレスは特殊な糸で出来ておりまして、人の鼻では感じる事が出来ない香りでモンスターを寄せ付けないのです。私の一族は長年モンスターの生態について研究していて、今はこの奥で生態調査をしている所だったのです」


「そうだったんですね、では折角なので家族の方にご挨拶だけでもしたいから紹介して頂けませんか?」


「生憎と今、希少モンスターが奥に姿を現していまして私もこのドレスが邪魔になってしまうので観測場所から離れている所なのです」


「そうですか・・・残念です。ではルピナスに立ち寄られた際はぜひ俺の家に来て下さい、歓迎いたしますので」


「はい、その時はぜひ!」


ハジメの家を訪ねる理由が出来てランは喜んだ、するとハジメの隣に立っている人物にようやく気が付いた。


「あの、ところでハジメ様の隣にいらっしゃる方はどちら様ですか?」


「ああ、こいつ?こいつは俺の家に居候を始めた奴で、名は・・」


「俺の名前は佐藤 始という、良い迷惑な話だがハジメと同様に女神システィナによってこちらの世界に呼ばれてきた勇者だ」


(勇者、勇者ですって!?)


ランは歴代の魔王を葬ってきた宿敵が目の前に居るので思わず全魔力を解放しそうになったが、ハジメに危害を加えてはいけないと何とか自重した。


「勇者の佐藤 始様ですか?ハジメ様と似た名前なのですね」


「ああ、俺も実はこいつと同じで佐藤 始って名前なんだ。そして俺はこいつと間違われてこの世界に呼ばれてしまった外れ勇者みたいなものなんだ」


「ではハジメ様も魔王を倒す旅をされているのですか?」


「いや、俺は人違いだったけど元の世界に帰す事は出来ないと言われてこっちの世界に放り出されたから危害を加えられない限りは魔王と戦うつもりは無いよ。でもこいつは惚れた女の命を守る為に魔王を倒そうとしてる」


「惚れた女の命を守る・・・ですか?」


「俺は何者かによって無実の罪を着せられ処刑されそうになった公女セレスティーナをこの世界の誰よりも愛している、だから彼女を守る為なら魔王だろうとあなただろうと容赦無くぶっ飛ばす」


握り締めた始の拳にわずかではあるが殺気が込められているのにランは気が付いた。


(どうやら私が隠している魔力に気付いているみたいだな、何か有れば1戦も辞さずか。だが、この勇者と事を構えればハジメ様を敵に回してしまう可能性が高い。それだけは何としても避けなければ!)




「大丈夫です、ご安心くださいハジメ様。きっとその内に勇者様と魔王が戦う理由も解消される筈です、そして公女の無実も証明される事でしょう」


「そうなると本当に嬉しいな、始と魔王の戦う理由を無くしてくれる人がもしも現れたら俺その人の事好きになってしまうかもしれない」


ハジメが何気無く口にしたこの一言がランを暴走させた!


「ハ、ハジメ様!本当に勇者と魔王の戦う理由を無くす者が現れた場合はその人を必ず好きになってくれるのですか!?」


「いや、必ずとは言ってないよ。好きになるかもしれないだけで・・・」


「私にお任せください!そして私はハジメ様の恋人に~・・・・・」


ハジメの制止も聞かずに突如ランは森の中に走り去ってしまった、呆然とするハジメを見ながら始も半ば呆れていた。


「おいハジメ、あの女が魔族だと気付いていたのか?」


「えっマジで!?全く気付かなかった・・・」


「どうやらセレスが無実の罪を着せられた件にあの女も関わっているみたいだが、とりあえず大急ぎで町に戻ろう」


「まだ1日目なのに、もう戻るのか始!?」


「急いでルピナスに戻って準備をしておいた方が良い、これは何か大事が起きそうだ」


その始の予感は的中した。それから3日後、突如現れた魔族の軍勢によってルピナスの町は完全に包囲されたのである。

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