第13話 勇者が自重しない訳
「俺の噂は今どんな感じで流れてるのか教えてくれないか?」
「処刑直前の公女を奪い連れ去り追っ手を返り討ちにしたあげくに王城を半壊させ、更には近くの村の家の屋根を飛ばす自重しない非常識な勇者として有名だぞ」
「そうかそうか!それなら派手にやった甲斐が有ったな」
「有ってたまるか!その所為でギルド本部から『異世界から来た勇者【佐藤 始】に大至急自重を覚えさせろ』って指名依頼までされてしまったんだぞ」
「それは済まなかった、だがこれも全てセレスを守る為にやった事だから今回ばかりは許して欲しい」
そう言うと勇者始が頭を下げてきた、どうも噂で聞く話と実際の中身でギャップを感じてしまう。
「つまらない駆け引きは無しだ、正直に教えて欲しい。皇太子からの求婚を断り恥を掻かせたのが原因で処刑が決まっていた彼女をどうして助けたんだ?」
「その事なんだが・・・・求婚を断ったのがセレスじゃ無かったとしたらどうする?」
「どういう事だ?」
「実は俺がセレスの処刑の場に居合わせたのは本当に偶然だったんだが、その時にセレスが『私は皇太子様の求婚を断った覚えも無いし、その場にも行っていません!』と叫んだ際に俺は彼女が嘘を言っていない事にすぐに気付けたんだ」
「嘘を言っていない事をどうすればすぐに見抜けるんだ?」
ハジメの問いに始が答える。
「俺の左目にはシスティナから与えられた能力【真実の目】が掛かっていてな、嘘を言っていればすぐに分かるし変装や擬態も意味を為さないんだ」
「その能力凄く欲しいんだけど・・・」
「やっぱり欲しくなるか?でもやらんぞ、何せセレスを追ってきた刺客の中には10歳位のガキまで居たからな。子供さえ平気で暗殺者に仕立て上げる連中をこれからも相手にしなくちゃならんからこっちも大変だよ」
始はセシリアが出した茶を飲み喉の渇きを癒すとセレス救出の際の続きを話した。
「嘘を言っていないのに殺されるなんてそんな酷い事は無い。だから思わず乱入してセレスを助け出して逃亡生活を始めたんだが、その途中でセレスから色々と面白い事が聞けた」
始が頷くとセレスは知っている事を少しずつ語ってくれた。
「皇太子様からの求婚を断ったとされる日、既に私はベルンウッドに囚われていたのです」
「なんだって!?」
「誰かが私になりすまして求婚を断ったのだと思います、しかも父様母様の目さえ欺けたのですから私の立ち居振る舞いを余程近くで長い間見てきた人物でないと恐らく無理です」
そうなるとこの件は大掛かりな陰謀か何かの歯車の1つだったに違いない。そういえばグエンバルムの奴も公女が不敬罪で処刑が決まっていた事を知らなかった、グエンバルムとベルンウッドがその為の駒の1つに過ぎないので有れば・・・。
「今回の件を引き起こした奴らが狙っていたのは恐らくこの国での内乱だ、公爵家もセレスが戻るまでは王家から匿っていると言いがかりを付けられて攻め込まれそうになっていたからな。攻め込まれた場合私兵を出して抵抗していた筈だから、双方で多大な犠牲を出していたに違いない」
「俺がベルンウッド達を予定よりも早く捕らえて公女を発見・救出してしまったから、内戦を回避する為にセレスティーナ公女の首1つで何とか事を収めようと公爵家側も娘の処刑を受け入れたって事になるのか」
「恐らくそんな所だろうな、皇太子の求婚を断った直後に公爵領から姿を消していた公女が遠く離れたルピナスで見つかったのだから普通は国王や皇太子も何か不審に思わないといけないんだが、恥を掻かされた事への怒りが勝っているのか返り討ちにした追っ手の連中に伝言を頼んでも一向に収まる気配が無い。だから、公女の命を狙うのは割に合わないと思わせる為に王城を半壊させてやった。俺を怒らせるとこの国その物を敵に回しても構わないんだとアピールしたって訳だ」
そのアピールのとばっちりがこちらに来た訳か・・・。
「無論死者が出ない様に城内の人間が退去するのを待ったし、オリアナの村は壁とかの耐久強化を施した上で屋根だけ飛ばし古くなっていた屋根を国の予算で新しくさせたから村人は内心で大喜びしていたぞ」
「どうして勇者の仕出かした事で国の予算が使われるんだ?」
「そこが国王達にセレスの処刑を諦めさせた大事なポイントだ、国王達は召喚されたばかりの俺とこんな約束をした。【魔王を倒すまでに国内で勇者が出してしまった被害に関しては国が補償する】・・・その所為で半壊した王城や村の飛ばされてしまった屋根の修理費を今までずっと貯め込んできた国庫から出す羽目になったという訳さ。村の屋根の修理費をしらばっくれて支払いを無視されても困るから『自分がやりました、すまないが修理代出してくれ』って俺直筆の手紙を書いて渡したから支払い拒否は出来ない筈だ」
「お前・・・かなりのワルだな」
「当たり前だろ、利用出来る物は何でも利用しないとセレスを守れない。まあ、魔王さえ倒せばセレスを俺の嫁にして処刑を回避出来る所までは譲歩を引き出せたから派手に暴れるのは今後控えるつもりだから安心しな」
これまでのやり過ぎの行動は全てセレスティーナ公女を処刑させない為の演技だった事が分かってハジメはようやく安心した。
「それを聞いて助かったよ、俺自重を覚えさせる自信が無かったから本気で焦ってたんだぞ。何とかしようとここ数日手当たり次第にモンスターを喰って能力を加えてきたけどマトモなのがほとんど無かったから・・・」
「セレスから聞かされて俺と同姓同名の奴がルピナスに居ると知った時、こいつがシスティナの言っていた『厚かましい別人』だろうとピンときたんだ」
「酷いのはシスティナの方だよ、『私と直接会えただけでも十分過ぎる恩恵だ』なんて抜かしたんだからな」
「うわっ!そりゃヒデェ、だがあの女の言いそうなセリフだな」
直接会って話した事の有る者同士でないと分からない為、セシリアとセレスティーナ公女の2人は会話に参加出来ず拗ね始めてしまった。
「悪いセレス、つい会話に夢中になってお前の事を忘れていた。心配しなくても、お前の居場所は俺の腕の中に在る。今までも、そしてこれからも俺達はずっと一緒だ」
「始様・・・」
人目を憚らずイチャイチャしだした勇者と公女を見てハジメは苦虫を噛み潰したような顔になったが、隣に居るセシリアは
「良いなぁ」
っと呟いていた。
「ところで、今さっきモンスターを喰って能力を加えたと言っていたがお前は【モンスターを喰う事で能力を得られる】能力を与えられたのか?」
「そんな気の利いた能力をあいつがくれるものか!俺が最初に与えられたのは【丈夫な胃袋】と【共通言語】だけだ」
「・・・・よくそれで生きてこれたな」
「ああ、まったくだ。それで餓死寸前になった時にスライムを喰ったのがキッカケで怪物喰い(モンスターイーター)のサブ職業を得て今に至る訳だ」
「へえ、それじゃあ暫くの間ここでお世話になっても良いか?」
始が言ってきた事にハジメは最初すぐに返答出来なかった。
「えと、もう1度言ってもらっても良いか?」
「だから、暫くの間俺達をこの家に住まわせてもらっても良いか?と聞いているんだ。お前の彼女とセレス2人だけでも大丈夫な様にこの家には最強度の結界を張るし、モンスターを倒した時の報酬は全てお前にやるからさ。最近、野宿ばかりでセレスも疲れているから済まないが頼むよ」
「まあ部屋もまだ空いているし、別に構わないけどいつもこんな具合で人に頼んでいるのか?」
「まさか!モンスターを食べる所を実際に間近で見てみたいと思っただけだ、それと・・・」
「それと?」
始は言葉を選ぶ様にして、このルピナスに訪れようとしている災厄の予兆を伝えた。
「実はこのルピナスとモンドールという村の中間付近で魔力の大きな乱れを感じた、もしかしたら何者かの手によって大規模な【転移陣】が築かれようとしているのかもしれない・・・」
魔界・・・同じ世界にありながら、位相の異なる空間に存在する魔族が支配する広大な地。普段繋がる事の無い異世界システィーナと魔界は数十年の1度、空間の歪みによって繋がり魔界からモンスターや魔族がシスティーナへと渡ってくる。
この空間の歪みを故意に引き起こして移動手段として用いるのが【転移陣】と呼ばれる物で遠く離れた場所への移動が主な利用方法であるが魔界に繋ぎ魔族をこちらの世界に招き入れようとする者も居た。魔族に加担しその強大な魔力を分け与えてもらう事で己の野望を果たそうとする連中や先にこちらの世界に来た魔族達である。
「今、作らせている【大型転移陣】は何時頃完成する予定だ?」
「はっ!遅くとも2ヶ月以内には全て完成する予定ですが、現時点でも少しの人数であれば転移可能です」
「ならば、増員の魔族を送り作業を急がせよ。余の身体を転移させるには通常の【転移陣】では不可能だからな。ところで我が娘ランがシスティーナから戻って以降、部屋に篭りきりの様だが何か有ったのか?」
「【大型転移陣】建設先の国の国力を低下させる為に内乱の種を仕込んできたみたいですが斥候の報告によれば失敗したそうなので父君である魔王様のお役に立てなかったショックが原因かもしれません」
「・・・・・そうか。では娘に挽回の機会を与えるとしよう、余が転移する前に彼の地に橋頭堡を築かせるのだ。ランの指揮下に入れる者についてはお前に全て任せよう」
「ははっ!」
自室の豪華なベッドに寝転んだまま、魔王の娘ランは魔界への帰還直前に出会ったとある男の事を思い出していた。
(慣れないシスティーナの空気に酔って倒れた私を介抱し、更には何故か発情してしまった身体を鎮めてくれたあの男・・・。未だにあの時の感覚が忘れられん、ああ!出来るものならばもう1度会ってあの男の腕の中へ飛び込みたい)
公女セレスティーナを攫い、内乱を引き起こそうとしていた犯人は魔王の娘だった。しかし、その娘ランは事もあろうにハジメに懸想を抱き始めていたのである・・・。




