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第12話 自重しない勇者説得の準備の為、モンスターを食べ歩く

「・・・・っという訳で俺は勇者【佐藤 始】に自重する様に説得しに行く事となった」


「それって暗に【散ってこい!】って言われていませんか?ハジメ様」


「あのミリンダさんがそれを俺にさせるとは考えにくい、何故なら俺がミリンダさんに仕返しで勇者をルピナスに連れてきちゃう可能性が有るからだ」


セシリアはハジメの言う事に何となく納得した、これまでもハジメはミリンダの手の上で踊らされていた節が有る。我慢の限界に達したら現在暴風雨よりもタチの悪い局所災害扱いの勇者を招き入れる事だってしかねない、そんな危険を冒してまでハジメに無茶な依頼を引き受けさせるとは思えなかった。


「ミリンダさんなりの計算が有って今回のギルド本部からの指名依頼を持ってきたんだと思うけど、依頼の成功報酬を聞かされた瞬間断る事が出来なくなった、っていうか引き受けざるをえなかった」


「ハジメ様が断れなくなる報酬って一体何ですか?」


「【ムーンライト】のカップル用ディナーチケット」


「・・・・・・」


「ガルフの奴にも肩に手を置かれて『今のお前じゃとても勝ち目は無い、俺も同じ事されたら言う事聞くしかないから諦めろ』と言われてしまったよ」


一体何時の間に監視されていたのかさっぱり分からない、その後2人が何をしていたのかさえ把握されていそうだから依頼を引き受けるしかなかったのだろうとセシリアは考えたが、実は更に追い討ちでハジメはミリンダから『報酬の一部を先に前払いしておくわ』と赤飯を渡されている・・・。


「とりあえず準備期間で1週間与えられたから、その期間を利用して出来る限りのモンスターを食べておく事にする。能力の数を増やしておいた方が後々の為にもなるだろうからね」


「はい、ですが前にも言いましたが無茶はしないでくださいねハジメ様」


こうしてハジメは1週間の間にまだ出会っていないルピナス周辺のモンスターを探す事となった。




1日目に出会ったモンスター(ルピナス墓地北)


ゾンビ(納豆味)=【粘着液生成】、マミー(発酵飲料味)=【腸内環境向上】、ブラッディマミー(キムチ味)=【体脂肪燃焼・肥満防止】


2日目に出会ったモンスター(ルピナス墓地南)


スケルトン(煮干味)=【骨密度向上】、スパルトイ(しらす干し味)=【冷静向上(効果小)】、ホワイトスライム(牛乳プリン味)=【対骨粗鬆症】


まず最初の2日間はルピナスの墓地の北と南で沸くモンスターを食べてみたのだが、最初のゾンビ以外は全て健康食品だった・・・。


3日目に出会ったモンスター(ルピナス墓地東)


亡霊・レイス(わた菓子味)=【糖分補給】


4日目に出会ったモンスター(ルピナス墓地西)


ウィル オー ウィスプ(ラムネ菓子味)=【効果特に無し】


中2日は残るルピナス墓地の東と西を回ってみたのだが、ここで初めて能力を得られないモンスターと遭遇した。あと【糖分補給】は疲れた時に使えば効果を発揮するのだろうか?


「まずい・・・まずいぞセシリア、この4日間で得られた能力は【粘着液生成】くらいで後は自分の健康が増進されただけとしか思えん」


「そういえば今日食料の買出しに出かけた際に行商人の方が『東の草原でグラスホッパーに襲われて危うく積荷の小麦を食われそうになった』と言っておりました」


「東の草原ね、そのグラスホッパー以外にもモンスターが居るかもしれないから明日はそこへ行ってみるよ」


「はい、では明日は少しでもイライラが収まる様にお弁当にはハジメ様の好物を一杯入れておきますね」




そして5日目、ハジメはルピナスから東に5kmほど歩いた先に有る草原に向かった。1時間ほど歩いて到着すると穏やかな風が流れる中飛び交う無数のグラスホッパーの群れに愕然とした。


「おいおい、これがルピナスに向けて飛び立ったらとんでもない被害が出るぞ!?」


グラスホッパーとは体長30cmほどの小型のバッタ型モンスターだが、エサが少なくなると共食いさえ始めるほど食欲が旺盛でとある穀倉地帯で200匹前後の群れによって壊滅的な被害を受けた事も有るらしい。そのグラスホッパーが飛んでいるだけでも500匹以上、地面に降りているのを合わせると1000匹を軽く超えていた。


「しかし、グラスホッパーの動きが変だが何か有ったのか!?」


ハジメが注意深く見てみると、地面に降りたバッタに何かが襲い掛かっているのに気付いた。


「あれが原因だったのか・・・」


グラスホッパーを襲っていたのはアリのモンスター、フォレストアントである。グラスホッパーよりも一回り小さい体長15cmほどだが数が異常に多い、普段は森の大樹の中に巣を築き働きアリが弱った昆虫系モンスターなどを探しに周辺を動き回る。なので【大樹の近くには絶対に近寄るな】がこの世界の常識となっていた。


(しかしこの近くに大樹は無いから、もしかしたらこのグラスホッパーの中のどれか1匹が働きアリの群れをここまで引き連れてきてしまったのかもしれないな)


けれども、このまま放置しておけばグラスホッパーの群れがルピナスに飛んで逃げる可能性が有り最悪それを追いかけてフォレストアントまで来る事も予想される。ハジメはルピナスに引き返す決断をすると、一旦この場を離れようとした。するとその時


「なんだなんだ、アリとバッタのお祭り騒ぎか!?こんなのがルピナスとかいう町に向かったらちょっと面倒な事になるな、この際だ始末しておくか」


遠くで全身を黒いフードで覆った2人組の1人が何か喋ると突如右手を天に向けた。


【火炎乱舞】


すると目の前に巨大な魔方陣が現れると草原全体が火の海に包まれた!地面にいたのは当然だが、草原の上を飛んでいたグラスホッパー達も真下から火で炙られて次々と落ちていく・・・5分もしない内に草原は灰となった。しかし草原の奥の林からフォレストアントがまた次々と出てくる。


「群れを指揮ってる奴が林の中にまだ潜んでいやがるのか・・・林を焼き払うのは止めておいて水で押し流すとするか」


(水で押し流す!?)


ハジメにまだ気付いていないのか先程草原を火の海にした者が今度は手を前にかざした。


【水龍烈波】


黒雲が集まり空から水の龍が舞い降りると地面に激突する寸前で向きを変えて、アント達を木々と一緒に押し流した。幅50m長さ400m以上にも及ぶ水龍の爪痕の先からはアントが再び現れる事は無かった。


「どうやらこれで大丈夫そうだな、うじゃ先に進むか」


何事も無かった様に立ち去る2人にハジメは声を掛ける事さえ出来なかった・・・。しばらく呆然としていたハジメだったが我に返ると灰となった草原を歩いてグラスホッパーとフォレストアントの死骸で食べられそうなのを探し始めた、先程火で焼かれているので殺菌処理も済んでいるだろう。そして何とか半焼き状態で残っていたのを見つけるとハジメはまず最初にグラスホッパーから順に口に運んだ。



グラスホッパー(イナゴの佃煮味)、足の部分が非常に硬くて食えなかったがそれ以外の部分は全体に甘辛く焼かれたからか少しだけ香ばしい。ちなみに得られた能力は【ジャンプ力向上】


フォレストアント(焼きもろこし味)、何でこの味なのかは分からないがとにかく美味い。醤油をかけたら更に食欲をそそる事だろう。得られた能力は【蟻酸生成】




他にもモンスターが居ないか周辺を一応見て回ったが目新しい奴が居なかったのでハジメは町に引き上げた、残り1日で何かしらの能力を追加しておかないとあの非常識な勇者を相手に自重を教える事などとても出来ないだろう。憂鬱な気持ちをセシリアの笑顔で癒してもらおうと玄関を開けるとセシリアが慌てた様子でやってきた。


「セシリアただいま、どうしたんだそんなに慌てて?」


「あの・・・ハジメ様にお客様が参られております」


「お客?ミシェルとかじゃなくて?」


「はい、リビングにお通ししてありますのでお急ぎください」


リビングに行くと、ソファーに昼間見た黒フードの2人組が座っていた。


「あっ昼間の!?」


「昼間?もしかして、俺がアリとバッタを倒していた時に近くに居たのか?」


「ああ、お陰でルピナスに被害が出ずに済んで助かった。町の住人の代わりに例を言わせてくれ、ありがとう」


「気にしなくて良いぜ、どうせ俺達はお前に会おうと思ってこちらに向かうついでにやったんだからな」


妙に馴れ馴れしい態度だが声から推察するとどうやら男の様だ、その男が手で促すと2人は顔を覆っていたフードを外した。


「その節は助けて頂き真に有難う御座いました」


「えっ、あなたは!?」


ハジメにお礼を言ってきたのは、なんと現在勇者と行動を共にしている筈の公女セレスティーナだった!そうなると、もう1人の方は・・・。


「自己紹介しようと思ったが同姓同名だしやらなくても問題無いか、俺が勇者の佐藤 始だ。よろしくな、もう1人の【佐藤 始】!」


自重をお願いする為に向かう筈だったハジメの家を何と勇者本人が直接訪ねてきた。

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