裏切りの代償
最近こういうのばっかり見てた所為か、一度吐き出したくなった。
本当に寝取られたりしたらここまで行くと思うんだよね。
ある日突然、幼馴染が俺の兄と結婚した。
意味が分からなかった、俺はずっと幼馴染が大好きで、兄もそれを知っていた筈だ。
まだ付き合ってはいなかったけれど、それでも友達以上恋人未満の関係だった筈だ。
理由は成人式の夜、家で祝いの席を開いてたあの日、酔い潰れた幼馴染を兄が抱いてしまったのだ。
そこから暫くして妊娠が発覚、責任を取って結婚すると、トントン拍子に事が進んだ。
俺は何も考えられなかった。幼馴染は兄の妻になると決めてしまったし、父も男として責任を取れといった。
俺は世界の全てが崩れさっていく感覚に陥っていた。
そして俺は・・・。
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「ねぇ、健一・・・宗二見なかったかい?」
「宗二?いや、見てないな・・・家にいないのかい?」
事の発端は俺達の結婚式を一周間前に迎えたその時の事だった。
弟が突如蒸発した。
ケータイの契約もいつのまにか切られており、大学も知らぬ内に退学処理が行われており一切の足取りが掴めなかった。
弟、宗二は俺の妻になるアイツの幼馴染、美海の事が好きだった。
だから俺が一晩の過ちで美海を孕ませてしまって結婚するという事に大層ショックを受けていたのには気付いていた。
しかしもう起きてしまった事だ、アイツもそのうち良い人を見つけるだろうと気楽に考えていたのだが、それは大きな間違いだった。
宗二は警察に捜索願を出しても一向に見つからず、結婚式は無期限延期となった。
正直俺はちょっとした家出の延長だろうと思っていたのだが、美海が出産しても、三年経っても、それから弟が帰ってくる事はなかった。
母は、あの日から俺達の事を憎悪の篭った目で見てくる。
「お前が!あんな事をするからっ!宗二はっ!返せっ!私の息子を返せええええええええっ!!?」
美海と俺に血走った目で掴みかかってくる母、そして父もあの時、責任を取れと言った事を深く後悔している様だった。
「宗二がそんなにも美海ちゃんの事を好きだったなんてな・・・いや、これは言い訳だな・・・健一、私もあまり人の事は言えないが・・・もう、この家には帰ってくるな・・・」
そして美海の両親には結婚を申し出たその時から
「・・・まさか、我が娘ながらここまで愚かだったなんて・・・なんで堕ろさなかったの?
あんた、まさか本当に宗二君の気持ちに気付いていなかったのかい・・・?
健一さん、アンタもアンタだよ・・・弟の想い人を寝取るなんて・・・。
もう、いい、アンタらの顔なんか見たくもない。
二度と私の前に顔を見せるんじゃないよ・・・」
俺達は何の後ろ盾もなく夫婦生活を送る事となった。
「大丈夫さ、美海、俺が君を必ず幸せにするから」
不安気な美海に強く言葉をかける。
弟も面倒な事をしてくれたものだ、そんなにも好きなら早く自分のモノにすれば良かったのに、俺が手を出さなくても他の男に取られていたに違いない。
だが、俺は違う、絶対に美海を他の男に取らせたりなんかしない。
美海は俺のものだ!
そして結婚から十年、なんとか食い繫いで生きてきたが、生活は非常に苦しいものだった。
産まれてきた娘は碌に食わせてやれずに病気で早死にさせてしまい、美海の美貌も影もなくなってしまった。
俺も若禿げが目立ち始め、まだ三十代の夫婦が五十代の夫婦に間違われる程だった。
こんな筈じゃなかった、そうだ、アイツだ。
宗二が蒸発なんてしなけりゃこんな事にはならなかったんだ!
この日から俺は美海に当たり散らす様になった。
妻を最後に抱いたのは何年前だったか、最早女として死んでいる美海を抱く気には到底なれずに俺は外で女を抱いていた。
ある日、酔いどれ気分で玄関を開けるとお腹に激痛と猛烈な熱さが襲った。
意味が分からずにお腹を見ると、俺の腹に包丁を突き立てる美海の姿があった。
「なにが、幸せにするよ・・・外で女抱いて・・・アンタの!アンタの所為で!!
アタシ、ずっと後悔してた、お母さんに言われたあの日から・・・なのに、アンタは!
返せ、私の幸せを返せええええええええっ!!?」
何度と何度も包丁を突き立てられる中、アパートの渡り廊下の端に、薄っすらと笑う不気味な男を見た。
その目は狂気に染まっており、その唇は大きく弧を描いていた。
ーーそ、そう・・・じ?
そして俺の意識は二度と浮かび上がる事はなかった。
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十年ぶりに故郷に帰ってきた。
実家を訪れると母が号泣しながら抱きつこうとしてきたので顔を抑えて止める。
「アイツらは?」
俺は静かにそう問うた。すると両親は兄は美海に殺され、美海も逮捕されたと教えてくれた。
俺は母を父に投げ返して美海の実家だった場所に行った。
「宗二・・・君?」
美海の母は信じられないものを見る様な目だった。
「あの女の面会に行きたいので立会人になってくれませんか?」
そして俺は美海の母と共に留置所を訪れた。
ガラス越しに見る十年振りの幼馴染は酷く痩せこけて老けていた。
美海は俺を見るとパァっと明るく笑い口を開く。
「宗君!あぁ、宗君!ごめんなさい、私が間違っていたわ!
あの時あんな男なんて跳ね除けてアナタと一緒にいれば良かったんだわ!
ねぇ、今からでも遅くないわ、私の事幸せにして?」
かつて美海だった知らない女がピーチクパーチク囀る。
俺は自分でも不思議なくらいに落ち着いた心で口を開いた。
「幸せそうじゃないか、誰だか知らない人。
良かったよ、アンタが幸せそうなら俺もアンタを忘れた甲斐があったってもんだ。」
俺の言葉を受けた美海の顔が凍りつき、やがて引き攣り始めた。
「え、そんな訳、ないじゃない・・・アタシ、アイツの所為でこんなに不幸なのよ!?
アタシの事好きなんでしょ!?だったらアタシの事幸せにしてよ!?」
あぁ、もう壊れてんなコイツと思いながら俺はニタリと笑った。
「そうかい?人を裏切って手に入れた幸せだ、嬉しくない筈ないだろ?
俺にはアンタがそうしてるのが一番幸せそうに見えるよ」
俺はそれだけ言い残すと、誰だか分からない人が罵詈雑言を吐き出すのを聞き流しながら留置所を後にした。
外に出ると美海の母が気不味そうな表情で立っていた。
俺は軽く会釈するとそのまま去っていった。
翌日、獄中であの女が壁に頭を叩き続けて自殺した事を知り、俺もまた契約通りに魂を差し出した。
「う〜ん、アナタの憎悪に染まった魂、誠に美味ですな!
いやぁ、実はワタクシ、なぁ〜んにもしてないゆですけどねぇ?
アナタにあの夫婦を滅茶苦茶にしてくれと頼まれましたが、勝手に自滅!
楽な商売ですねぇ、ボロ儲けですねぇ!?
愉快愉快!あぁ、まこと人間とは素晴らしい!
実に実に素晴らしい!」
とても楽しそうに叫びながら、黒い男は、闇と共に消えていった。
寝取られモノが好きな人も、これで少し寝取られへ嫌悪感を持ってくれたりすると嬉しく思います。
興奮するのは仕方ないにしても・・・ね?