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囚われた者達の破壊と創造  作者: 無限ミキサー
9/10

No 008 刑事のおじさん

 観察対象者000 観察対象者001 観察対象者003 繁華街




 警官また撃たれる!! 


 新聞の見出しである。 昨日の土曜日、二人目の犠牲者がでた。 新聞によると散弾銃のようなもので撃たれたらしい。 だが周辺で銃が撃たれたような音が聞こえたという証言はなく、捜査は難航しているようだ。


 日曜日の朝。 いつものように食堂で朝食を取っていた。 いつもならテレビから情報を得るのだが、最近のテレビは景気が悪いことばかり報道している。誰が景気を悪くしたのか。どの政策が間違っていたのか。景気悪化の犯人探しをするような報道が続いていた。 

 警官が撃たれたニュースも取り扱っていたが情報量が明らかに足りなかった。 だからより詳しく載っている新聞を見ている。


 「樫原君。 新聞なんて読み始めてどうしたの?」

 「千代子さん。 他にも新聞ってありますか?」

 「え? その一社しかとってないけど……」

 「そうですか」

 

 樫原は新聞の文字に目線を落とす。


 「ほんと、いきなり新聞なんて読みだしてどうしたのかしら? どこか頭でも打ったのかしら?」

 

 千代子さんが何か言っているのは無視して新聞を読み続ける。 しかし、音がしないのに撃たれたこと。 散弾銃のようなもので撃たれたこと。 情報はこれ以上見つからない。 


 こちらで可能な限り情報を探したがこれが限界だ。 それにしても、有栖川は駅前に集合して何をするつもりなのだろうか? 事故現場でも見学するつもりか?


 そう樫原が思っていると、ガラガラ。 と食堂に谷口が入ってきた。 いつもどおり全身黒色、喪服のような服を着て。


 「……おはようございます」

 「あら、おはよう谷口さん。 最近挨拶するようになって少しづつ前進ね」

 「はい」

 

 谷口は朝食を取りに行き、樫原の隣に座る。


 「谷口」

 「な、なに?」

 「警官がもう1人犠牲になった。 今日、能力者に会えると思っていないが…… 気をつけろよ?」

 「わかった。 気を付ける」


 「……なぁ」

 「うん」

 「人殺すってどんな感じだ?」

 「えっ?」

 「殺したのは別人格とはいえ、感触は伝わるだろう?」

 「その…… あっせりしているというか」

 「あっさり?」

 「遠隔操作で殺しているから、感触が伝わってこないんだけど、あまりにも簡単に死んじゃうから…… あっさりしてるなぁ。 って」

 「そうか。 ありがとう」

 「どうしてそんなことを聞くの?」

 「いやさ、有栖川は俺の能力で別人格を消しちゃえばいいって思ってると思うけど、いざって時は相手を殺さないといけない時もくるんじゃないかって思うんだ。 だからさ。 覚悟を決めておこうかなって」

 「大事なことだと思う。 私もいざという時は……」

  

 朝の朝食の時間。みながワイワイやっている中、二人は妙に静かに食事をとっていた。 なんとなくだが、これから先覚悟を決めなければならない場面がたくさんあるような気がしたからだ。



 

 駅前。日曜日だからか駅前はワイシャツを着たサラリーマンではなく、私服姿の若者や家族連れで賑やかであった。 

 そんな中で俺と谷口は駅前で有栖川を待っていた。俺はともかく谷口は全身真っ黒の服を着ていてそこそこ目立つ。 谷口は氷のような視線で横切る人々を眺めている。 俺はスマホで警官が撃たれた事件について情報を漁っていた。 新聞記事だったり大型掲示板だったりを見ていた。


 「ごめん待った?」

 

 有栖川が走ってこちらに来た。

 

 「いや、俺達が早めに来ていただけだ。 で、こんなところに集まってどうするつもりだ?」

 「勿論事故現場を見に行くのよ」

 「やっぱりそう来たか。 絶対『keep out』のテープが貼ってあって中に入れないと思うが」

 「そうだとしても見に行くのよ。 今のところ犯人に繋がる情報なんてほとんどないんだから。 情報がありそうところには見に行くべきよ」

 「まぁ そうかもしれないが……」

 「よし。 じゃあ出発するわよ。 事故現場をここから歩いてすぐのところだから」


 

 繁華街のビルとビルの間にある細い路地、クーラーの室外機やたくさん並んでいる。 ここで警官は殺されたらしいが、事故現場にはやっぱり『keep out』のテープが貼ってあり、中に入ることはできない。

 

 「な? 言った通りだろ?」

 「どうにかしては入れないかしら?」

 

 有栖川はテープを握る。


 「おいおいおい。 それはやめとけって」


 俺が有栖川を止めようとした時、大声で声をかけられる。


 「おい! そこで何をしている!!」


 声が聞こえた方向を見ると、警官ではなくスーツを着たおじさんが立っていた。


 「そこは立ち入り禁止だぞ?」

 「すみません。 すぐこいつを止めるんで」

 

 俺は有栖川の体を掴んで思いっきり引っ張る。


 「ちょ! あんたに引っ張られなくても離れるって!」

 

 「まぁ見なかったことにしてやるから、すぐには離れなさい…… そうだ」


 おじさんはポケットから手帳を取り出す。それは警察手帳だった。 そう、おじさんは刑事だったのだ。


 「私はこういう者だが、ちょっと聞き込み調査をしていてね? 君たちに聞きたい事があるんだが」

 「なんですか?」

 「昨日の夜9時にここら辺にいたかね?」


 樫原と谷口は施設にいたが、有栖川はどうだろうか?


 「私はその時間にはもう家に帰っていたわ。 あんた達はどう?」

 「いや、俺達も帰っていた」

 「そうか。 それではなんで事故現場に入ろうとしたのか聞いてもいいかな?」

 

 げぇ。 そんなこと聞くのか。


 「ちょっとふざけてただけよ ごめんなさい」


 有栖川はそう言うと頭を下げた。


 「そうか。 ところでこの手帳をもう一度見てほしいのだが?」

 「? ええ、いいですよ」


 有栖川は刑事が持っている手帳をもう一度見る。


 「……ここで何をするつもりだった?」

 「調査をするつもりでした」

 

 「!?」


 有栖川が本当のことを喋っているではないか!? どうしたんだ?


 「なんの調査?」

 「警官を殺した能力者について」

 「ほう、能力者」


 おいおいおい。 何喋ってるんだ! 


 「おい! 有栖川!」


 俺は有栖川の腕を掴んで揺さぶる。


 ……有栖川の腕をつかんだ瞬間、目の前が真っ暗になった。そして前と同じように文字が流れる。


 !? またこれか!


 そして気が付いた時には目の前の真っ暗な空間は無くなっていて、目の前には有栖川が迷惑そうな顔でこちらを見ていた。


 「……なに?」

 「……」

 「?」


 樫原は有栖川の腕を掴んだまま固まっていた。 なにか深く考え込んでいるような様子で、有栖川をまっすぐ見ていた。


 「? どうしたのよ?」


 有栖川は不思議そうな顔で俺を見る。


 「いや…… なんでもない」

 「はぁ? もしかしてセクハラ?」

 「それはない!」

 「なんで即答で断言するのよ! 少しは戸惑いなさい!」

 「そもそもお前はセクハラするような対象ではない」

 「はぁぁぁ!? ちょっと! 私はこれでも乙女なのよ?」

  

 樫原は有栖川の胸に自然と目線が向いてしまう。 まな板のように平らで、女性ならあるべき空間に何もない。


 「あっ! 今私の胸で性別判断しようとしたでしょ!? 失礼だと思うわないの!?」

 「イヤ、ソンナコトハナイヨ」

 「なんで片言で返答するのよ!」


 「あー こほん!」


 刑事のおじさんが咳払いをする。


 「話の続きをしたいのだが…… よろしいかな?」

 「えっ? あ! はい。 すみません…… あんた後で覚えておきなさいよ」

 

 「さっき言ってた能力者について聞きたいのだが?」

 「!? ……私そんなこと言いましたっけ?」


 有栖川は一瞬ビックリするが、すぐ平穏を装う。


 ん? 有栖川の様子がおかしいな。 さっき自分で言ったセリフなのに、まるで覚えていないようだ。


 「その単語は君の口から出てきたのだが?」

 「えっ? そうなんですか?」

 「まぁ とにかくそこを詳しく教えてほしい」

 「すみませんが、詳しくと言われても音もなく殺すのが、なんかのマンガで出てきそうな能力者みたいだなってだけで特に意味はないんです」

 「本当に?」

 「ええ。 そうです」

 「……そうか。 ご協力感謝します」

 

 刑事のおじさんは深々と頭を下げた。


 「いえ、こちらこそ」


 有栖川も頭を下げ、刑事のおじさんが事故現場にいる以上、調査は困難なので、一旦そこから離れることにした。



 事故現場から少し離れた場所まで三人で繁華街を歩く。 繁華街はどこも賑やかで、若者や家族連れで溢れている。 

 そんな人混みの中を歩いていると、有栖川がぐいっと樫原の襟を掴む。


 「ちょっと! 私のこと馬鹿にしすぎじゃない!?」

 「さぁ? なんのことやら」

 「さっき私の胸で性別判断しようとしたでしょ!? 私の気にしていることでいじって楽しいわけ?」

 「いや、俺はお前の胸の話なんてしたことないし、それは被害妄想なのでは?」

 「なんですって!!」

 「いや、そんなことより、お前なんで喋ろうとしたんだよ」

 「なにを喋ろうとしたというのよ」

 「調査しに来ていることだよ。 お前あの刑事に喋ろうとし……」


 「待って!」


 突然谷口が二人の袖を引っ張って会話を中断させる。


 「どうしたんだ谷口?」


 谷口は目を閉じた状態で険しい顔をしている。


 「……ついて来てる」

 「? なにが?」

 「さっきの刑事……」

 「えっ?」

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