No 006 希望を見つけた
観察対象者000 観察対象者001 廃工場
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両親の墓石の前で流した涙は悔しさの涙。頭の中は怒りと復讐で赤く染まったが、幼い私にはこれをどう解決していいかわからず、歯をギチギチ鳴らしながら噛みしめて、その場で震えるしかなかった。
赤い脳みそが殺人という解を導き出した時、私は呪文のようにつぶやいた。
「縺ゅ>縺、繧呈ョコ縺吶?ゅ≠縺?▽繧呈ョコ縺吶?ゅ≠縺?▽繧呈ョコ縺吶?ゅ≠縺?▽繧呈ョコ縺吮?ヲ」
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「ありがとう。助けてくれて」
「ああ。谷口も変なのが頭から消えてよかったな」
「うん……」
「ちょっといいかしら? 本当に本物の人格が表にでている状態なわけ?」
「えっ……」
「演技してるだけかもしれないわ」
確かにその可能性はある。しかし……
「もし演技しているのであれば、俺達はもう殺されているだろ?」
「そうだけど…… 納得いかないわね。 なんで急に人格が一つ消えたのよ? そんな簡単に消えるようなものなのかしら?」
「それについては俺に説明させてくれ」
「なにかあったの?」
「ああ。 谷口に触れた瞬間。 急に目の前が真っ暗になって文字が高速で流れたんだ。 そしたら谷口から人格が一つ消えていた……」
「なにそれ? 私には何も感じなかったけど?」
「……谷口は俺が振れた時、なにか感じたか?」
「わ、私、その時気絶していたから…… わからない」
「ふむ。 じゃあ俺だけが感じ取れたのか」
「普通、そんな現象が起きたなんて説明したらヤクでもやって幻覚でも見たのかって感じだけど、サバイバルナイフが空を飛ぶご時世だもの。 なにが起きても不思議ではないわね。 ところでなんて文字が流れたの?」
「delete とか search とか英語が流れた。 最後に『再構築中 再構築完了』って……」
「ふーん。 何もわからないわね」
「で、谷口さん」
「はい?」
「これからあなたを警察に連れて行くけどいいわね?」
「……はい」
「連れて行くのか?」
「人殺してるのよ? 当たり前じゃない」
まぁ妥当なところだ。しかし、別の人格はもう消してしまったため、俺達がどんなに頑張って別人格による犯行だって言っても、警察は谷口の犯行が別人格によるものと確認できる証拠がないので、認めないだろう。 すなわち、別人格による犯行だから減刑というわけにはいかないのだ。
6人殺した罪を背負わなければならない。 少年法があるとはいえ、最悪死刑もありえる。
「でーもー」
「私達のモノになるっていうなら、警察には突き出さないわ」
「??? モノ?」
谷口はキョトンとしている。 何を言われているか理解できないようだ。 俺にもよくわからないが……
「おい有栖川。 まさかお前レズだったのか?」
「違うわよ。 どうしてそうなるのよ。 これからの私達の活動に協力しなさいってことよ」
「協力…… ですか?」
「そうよ。 あなたのその飛ぶサバイバルナイフで私達を守って欲しいってことよ」
「守る……」
「おい。 ちょっと待て。 『私達』って俺も含まれてるのか?」
「当たり前じゃない!」
とんでもないことに巻き込まれてしまった。
「これは私の考えだけど、谷口さんのような特殊な能力を持っている人間は、まだこの世の中にたくさんいる…… と思うわ。 だから私達でそういう人間を見つけ出して、谷口さんのようになんとかしてあげる活動を開始すべきなのよ」
「いや、そういうのは警察に任せたほうがいいだろ」
「警察が私達が今体験したことを信じると思う?」
「そ、それは…… 信じないだろうな」
「でしょ? だから私達でこの現象がどうして起きているか突き止めてそれを世間に公表するの! 世の中をバッ! と驚かしてやるわ!!」
「で、その活動に俺は必要なのか?」
「最重要よ。 なぜならあなたもたぶん谷口さんと同じ、能力者だから」
「俺が能力者?」
「だって普通じゃ考えられない現象が起きたじゃない。 『目の前に謎の文字が表示されて』 『相手の人格を一つ消去する』 こんなことできて能力者じゃないと言い張れるの?」
「確かにそうだが……」
「それにあなたの 『相手の人格を一つ消去する』 能力は最重要だわ。 もし能力者が谷口さんのように攻撃的な別人格を保有している場合、それを消して無害化しなきゃならないんだから」
「だからって俺が協力する必要はないだろう?」
「あなただって無暗な殺生は止めたいでしょう? 私と一緒に協力しなさい」
「そりゃ無暗な殺生は止めたいが、危険すぎる。 能力者が攻撃的だった場合どうするんだ?」
「谷口さんが相手するわ」
「おいおい…… いいのか谷口?」
「それが罪滅ぼしになるなら……」
「はい仲間一人確保! さああんたも私に付いてきなさい! 悪いようにはしないわ」
有栖川は谷口に抱き着く。そして片手を樫原に差し伸べる。仲間になりなさい! と言わんばかりに。
「なんとなくだが有栖川。 能力者の保護と、この現象の解明だけが目的か? 他にもあるだろ?」
「勿論。 この現象を解明して、それを使って大儲けしてやるわ」
「おい!」
「なによ。 いいじゃない。 一番乗りの特権よ?」
「そうじゃなくてな……」
「あんた意外と倫理観あるのね。 でもあんたも不安でしょ? 将来のこと。 特にこの不景気の中、あんたみたいな人間がどうやってまともな職にありつくつもり?」
「あんたみたいな人間って…… 俺をどんな人間だと思っていたんだよ」
「新卒の失業率…… 20パーセント超えたニュース知ってる?」
「え? ああ」
「私ね。 あんたと谷口さんを不幸にさせたくないの。 友達だもの。 幸せな未来を描きたいじゃない? 将来の悩みなんて全部吹き飛ばしたくない?」
「そりゃそうだが」
「……あんたさ。 この社会を勝ち抜ける自信ある? いい大学行ってさ。 大企業についてって奴」
「ない」
「私もない。 だからこれはチャンスなんだって思うの。 今の世の中、お金さえあれば悩むことなんてほとんどないわ。 無理してブラック企業に就職して鬱になる必要もないし、生活苦で自殺する必要もない」
「……」
「あんたさ。 私と一緒に幸せにならない? 一度きりの人生なのよ? 安定した生活を送りたいじゃない」
そういえば、俺はいつの間にか将来のことなんて考えなくなっていた。勉強したほうがいいのにゲームばっかりやっていたり、本を読まずに漫画を読んだり、なにかに甘えた生活を続けている。 心のどこかで未来のことを諦めていて、なるようになるって思い込んでいる。
これはチャンスなのかもしれない。俺が苦しまない。幸せな人生を歩むための……。
「わかった協力する」
俺は差し出された有栖川の手を掴む。
「よし! 決まりね」
「谷口さんもそれでいいね」
「はい。罪滅ぼしになれば……」
「人殺したことなんて忘れないさい。 いいのよ罪の意識なんて、要らないわ」
「おいおいおい! それはいかんだろ!」
「いいのよ! 今の世の中自分が大事なんだから! 谷口さんも自分を大事にしなさい?」
「えっ…… 考えておきます」
こうして俺達はチームを組むことになった。幸せをつかむために…… 個人的にすごく自己中な気がするがいいのだ。 だってさ将来のことなんて諦めてるだろ? だからさいいじゃん別に……
なんでこんなに投げやりなんだろうか? わからない。 でも希望がある。それってとても気持ちのいいことだなって思うんだ。