No 004 友達
観察対象者000 観察対象者001 児童保護施設 喫茶店
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「待ってくれ! 俺は確かに殺してしまったが、殺すつもりなんてなかったんだ!! ただタバコの火が…」
ヒュン(ナイフの飛ぶ音)
「あああああああああああああああ!! あ、謝る! 謝るからこれを抜いてくれ!」
「あああああああ!!! や、やめてくれ! 動かさないでくれ!」
グサ! グサ!
「ああああああ!!! 許してくれ頼むから! こ、この通り!」
「…許さない」
「頼む! 頼むからッ!! あああああああああああぁ!!!!」
グサ! グサ! グサ!
「がぁぁぁぁぁぁぁ!! 痛い! 痛い!」
グサ! グサ! グサ!
「がっ…おっ…ああ…」
グサ! グサ! グサ!
「……」
「許さない」
repeat? or end?
end
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「昨日の午後9時ごろ、会社員の高橋洋平さんが帰り途中、何者かに後ろから首を刺され、病院に送り込まれましたが死亡が確認されました…」
朝。食堂のテレビのニュースキャスターはあるニュースを読み上げている。また殺されたのだ。首の後ろを鋭利な刃物で…。
午後9時30分。その時間帯は有栖川と一緒に谷口を監視していた時間帯だ。空を自在に飛び回るサバイバルナイフ…これさえあればどんなに殺人現場から離れていても犯行は可能だ。
テレビには殺人が行われた場所がマップ付きで詳しく説明された。ここから2キロは離れているような場所で起きた犯行であった。
ガラガラ…
扉の開く音。食堂に入ってきたのは谷口であった。まるで喪服姿のような黒い服を着ていて、相変わらずの無表情であった。
「…」
「こらっ! 谷口さん。朝の挨拶は?」
「…おはようございます」
「もう。言われなくても挨拶できるようにしてね?」
「…」
そして相変わらずの無口でもある。でも今日はいつもと違った。いつもなら朝ごはんを取りに行くのに、今日はジッと樫原を見つめていたのだ。
「…」
「…」
凄い見てるが…俺がなにかしたのだろうか?
千代子さんもその異変に気づく。
「あら。そんなに樫原君のこと見つめて…どうかしたの?」
「いえ、別に…」
谷口は朝ごはんを取りに行く…俺を見つめていたのは何だったんだ?
「あっ そういえば樫原君お友達ができたんですよ。谷口さんもお友達作って私に紹介してくださいね?」
「…友達ならもういます」
「え? 本当に?」
「はい。隣にいます」
「隣…樫原君?」
「あっ はい。昨日友達になりました」
「…樫原君?」
千代子さんの様子がおかしい。なにかに怒っているような。
「なんですか?」
「二股なんて私は許しませんよ!!」
「は?」
またこの人は…今度はなんの勘違いだ。
「千代子さん。何の話ですか?」
「とぼけないでください!」
千代子さんはもう妄想しっぱなしである。恋愛関係の話になるといつもこれだ。
「昨日夜の10時まで有栖川さんと一緒にいたのは知っているのですよ。夜の10時までナニをしてたなんて決まっているじゃないですか!!」
千代子さんの鼻から赤い液体が流れる。
「そんな関係の女性がいるのに、谷口さんにも手をだすなんて…うーん。けしからん!!」
完全に暴走モードである。妄想が炸裂している。
「千代子さん」
そんな暴走列車に飛び込んでいったのは、谷口である。
「千代子さん…私と徹君との間の関係は友達ですよ?」
「…そ、そうでしたね。ごめんなさい。私ったらちょっと興奮しちゃって…」
「以後、気をつけてください」
「はい…」
千代子さんは肩をすくめ、完全に反省モードに切り替わった。今日はそんなに暴走しなくてよかったと、俺は胸をなで下ろす。
「…今日はどこかいくの?」
「え? あ、ああそうだけど?」
「どこへ?」
「いや、どこへって言われも」
「教えてくれないの? 友達なのに?」
「えっ いや その」
教えていいのだろうか。だって谷口のことを話し合うのに、本人にその情報を渡してもよいのだろうか? しかも内容が谷口が通り魔かどうかってことなのに。
でも、それと同時に谷口とは友達になった仲だ。それくらいのことは教えてもいいのではなのだろうか。という気がする。ついてくるなら話はべつだが。
「友達と一緒に近くの喫茶店に立ち寄る予定なんだ」
「友達って有栖川さん?」
「そうそう…ん?」
俺、有栖川の名前を谷口に教えたっけ?
「…私もついて行っていい?」
「へ?」
いや、それは不味い。なんとかしてでも断らないと。
「いやこれは有栖川の誘いだから、面識もないお前がついて行くのはなんか変だろ?」
「じゃあ、私も有栖川さんのお友達になりたい」
「え?」
「ダメ?」
「…とまぁそういうわけでしてね」
「それで谷口さんが付いて来ているのね…」
有栖川と樫原はヒソヒソと谷口が付いて来てしまった経緯を話していた。後ろの方では谷口がちょっこんと話しが終わるのを待っている。
「どーするのよ。昨日の続きが話せないじゃない」
「そんなこと言ったって付いてきちゃたものはしょうがないだろ」
「しょうがないって…ハァ。わかったわ谷口さんと一緒に今日はお昼にしましょう」
「すまない」
「と…その前に」
有栖川は谷口さんに見えないように何かを樫原に渡した。
樫原の手に渡ったのはスタンガンだった。
「いざという時はそれ、使いなさい」
「お前なんでこんなものも持っているんだよ…」
「…谷口さんだっけ?」
「はい」
「私、有栖川 要って言うのよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
「よし。では、さっそく喫茶店に行くわよ」
コーヒーの香りが漂い、カウンターにあるケージの中にはこの店手作りのケーキが置かれている。店の中では少しおしゃれな曲が流れている。まぁ普通の個人経営の喫茶店である。
窓際の席に座り、3人はコーヒーを注文する。
「……」
誰も喋らない。谷口が通り魔かどうかについてはご本人がいるから喋れないし、谷口や有栖川になんか振れそうな話題なんて知らない。だから誰も喋らない。ただ時間だけが過ぎてゆく。
やがてコーヒーが運ばれてくるが、それでも誰も喋らない。ただ暇なのでコーヒーを飲む回数だけはやけに多く、カップの中はすぐにすっからかんになってしまう。
そんな静寂を最初に破ったのは樫原である。
「なぁ…トイレいってもいいか?」
「どうぞ」
「…」
有栖川は退屈そうで、谷口は黙ったまま。そんな中俺はトイレへ。
「ふぅ。スッキリした」
俺が手を洗っているとスマホがブルブル震える。…長いな。電話だろうか?
「もしもし」
「徹君」
声の主は明らかに谷口だった。というかなんで電話番号知ってるんだ?
「電話番号、有栖川から教えてもらったのか?」
「いいえ」
「…なんで知ってるんだ?」
「そんなことよりも町はずれの廃工場にきて」
「廃工場? なんでそんなところに…」
「有栖川さんがどうなってもいいの?」
「!?」
「じゃあ今すぐ来て」
「待て! お前が犯人なのか?」
「…なにの?」
「この辺で起きている連続通り魔の犯人かどうかと聞いている」
「…そうよ」
最悪だ。先手を打たれた。これからどうするか話あう前に先に行動されるとは。
「私がどんな人間かわかったのなら速くきたほうがいい」
「…わかった。だからそっちに着くまで有栖川には手をだすなよ」
「それくらいの理性はまだ残ってる…」
…気になる言い方だった。『それくらいの理性はまだ残ってる』 自分のことをコントロールできていないかのような言い方。
まさか本当に自分をコントロールできていないのではないか?
別に谷口と付き合いが長いわけでもない。正直言うとほとんど彼女のことを知らない。でも、電話の向こうの彼女は悲しそうであった。
彼女がいつも無表情で無口なのは、それが彼女の性格だと思っていたが、今思えばあれは何かを隠しているから無口なだけだったのではなかろうか? なにかを隠しているから顔に表情をださなかったのではなかろうか?
まだ何かを彼女は隠している。それは彼女が通り魔の犯人ということではなく、彼女がなぜ悲しそうなのかということに関することだ。
「どうしてそんな物言いをする?」
「えっ?」
「自分をコントロールできないのか?」
「それは…」
谷口は戸惑っているようだった。
「待ってろ。お前を助けてやる」
「えっ…?」
「お前がなんで悩んでいるか俺は知らない。でも、なんとかしてでも助けてやる」
「どうにかできるの?」
「ああ。だから待ってろ」