No 003 隣の通り魔 2
観察対象者000 観察対象者001 児童保護施設
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私の脳から流れる命令はただ一つ。殺せ。殺せ。殺せ。
私はネットで母のアカウントを使いサバイバルナイフを買った。デカくて太く、刃がギザギザしていた。
そしてシュミレーションした。あいつをどこで殺すか。どうやっておびき寄せるか。どのように刺し殺せば確実に死ぬか。
しかしいくら考えても殺すのは難しく感じた。私はまだ幼く。体が小さい。殺す対象は大人の男である。接近戦で勝てるだろうか?
…もし、このナイフが自由自在に動いたら…簡単に奴を殺せるのに…そう考えた。
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「…まさか本当に谷口が殺していたのか?」
「ほっ…ほら! わ、私の言ったとおりでしょ!?」
スマホの画面には何枚ものティシュでナイフから血をふき取っている谷口の姿が映し出されていた。
「…有栖川。明日どこかで会えないか?」
「ど、どうしたのよ。急に」
「今日は遅い。また明日どこかで落ち合って話し合おう」
「あっ…」
気が付くと時計の針は10時を指そうとしていた。
「もうこんな時間…」
「とにかく詳しいことは明日だ。どこで落ち合う?」
「そうね。明日は学校休みだし、10時に今日の待ち合わせ場所で会いましょう? それから近くの喫茶店で話し合いましょう」
「よし。わかった」
「あとこれ」
有栖川はスマホをいじくり樫原に見せた。そこには有栖川のメールアドレスと電話番号が映っていた。
「メルアドと電話番号を交換しましょう。いざというとき連絡が取れるように」
「そうだな。そうしよう」
樫原と有栖川は互いのメールアドレスと電話番号を交換する。
樫原は有栖川を児童保護施設の玄関まで送った。夜の10時なだけあって外は十分暗かった。
「じゃあ気をつけて帰れよ?」
「ええ あなたこそ気をつけて」
「ああ」
「…あなたほうが近くにいるんだから、私より気をつけなさいよ」
「確かにそうだな。気をつける」
「じゃあ…また明日」
有栖川はそう言うと靴を履いて施設を後にした。
「…」
「あの子。誰?」
後ろから声。ビックリして振り向くと谷口がいた。鋭い視線が樫原に向けられる。
「えっ…」
「誰?」
「あっああ。友達さ」
「友達…」
谷口は相変わらず無表情である。何を考えているのかまったくわからない。
「何に気を付けるの?」
「…く、車とかさ! ほら、夜の車による事故が多いだろ?」
「『あなたほうが近くにいるんだから、私より気をつけなさいよ』」
「!?」
「これの意味は?」
しまった。そこまで聞かれていたか! …どうごまかすか。
「ゆ…」
「ゆ?」
「幽霊さ!」
「幽霊…」
「なっなんか俺の後ろにヤバい背後霊がいるらしんだよ」
「…」
こんなんでごまかせてるのだろうか? いやもうこれで貫き通すしかない!
「…徹君」
「…」
「友達…よかったね」
「…あっ…ああ」
谷口はそう言い残し部屋に戻ろうとした。
「…谷口!」
「…」
俺は谷口を呼び止めた。そのまま放っといたほうがいいのに。
「お前は友達できたか?」
「私は要らない」
「でも千代子さんに言われてるだろ?」
「無視すればいい」
「無視って…あまり気分よくないだろ?」
「…」
「いらぬお世話かもしれないけどさ。俺で良ければ友達になろうか?」
「えっ…」
「そうすれば千代子さんを無視する必要ないだろ? 気分悪くすることもないし」
「…そうね。わかった。友達…ね?」
「お、おうよ」
これまでのやり取り、谷口はずっと無表情だった。というか俺は何をやっているのだろうか?こんなことする必要ないじゃんか。無駄な時間だ。
「徹君」
「うん?」
「ありがと」
無表情だった谷口が優しく微笑む。始めてみた谷口の笑顔だった。氷のように冷たい顔が少し解凍されて微笑むくらいはできるように顔の筋肉が柔らかくなったようだった。というかこんな優しい顔できるのか。
「ああ。これからよろしくな」
「こちらこそ」
そう言うと谷口は自分の部屋に戻って行ってしまった。谷口が自分の部屋まで戻ったのを確認すると、樫原は胸をなで下ろす。なんとか誤魔化せた様だ。
「…寝るか」
とにかく細かいことは明日だ。