表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
囚われた者達の破壊と創造  作者: 無限ミキサー
10/10

No 009 刑事と約束

 観察対象者000 観察対象者001 観察対象者003




 「付いて来てる」

 「えっ」


 俺と有栖川は後ろを振り返るが、この人混みでは刑事のおじさんを見つけるのは難しい。


 「谷口どうして付いて来てるとわかったんだ?」

 「上空から監視してる」


 俺と有栖川は上を見上げる。 そこには晴れ晴れとした雲一つない青空が広がっていた。


 「?」


 よく見ると、何やら水色に塗装された何かが空中にある…… なるほど、ナイフを水色で塗ってカメレオンのようにカモフラージュしていたのだ。

 谷口が目を閉じているのは上空にいるサバイバルナイフからの光景を見るためか。


 「どうする? あの刑事さん付いてきそうだけど?」


 考えられる選択は二つ。一つは刑事につけられていることを無視すること。もう一つは刑事に会って話をすること。 前者を選択した場合、俺達の住所や個人情報は徹底的に調べ尽くされるだろう。 後者を選んだ場合、刑事と話をして色々聞き出すことができる。 たとえば、なぜ付いて来ているのか。 もう少し踏み込んで、なぜ能力者という単語に反応したのか。 などを聞き出すことができる。 さらに踏み込んで能力者であることを話してもいいかもしれない。 

 

 俺なら後者を選ぶ、正直どっちの選択をしようが目をつけられた以上、俺達の個人上は調べ尽くされるから前者を選ぶ必要性がないのだ。 問題はどこまで話すかだ。 なぜついて来ているのかについて聞くまでに留めるのか。 能力者という単語に反応したことについて聞き出すまでに留めるのか。 全部話してしまうのか。 

 これはみんなで相談したほうがいいだろう。


 それと刑事を殺してしまうという手もあるにはある。 谷口の能力を使えば、殺した証拠を残さずに始末できて、遠隔操作可能なナイフの存在を知らなければ俺達には犯行不可能な距離で殺すことができる。 つまり証拠を残さず、完璧なアリバイを残して殺すから、俺達を逮捕するのかなり難しい。

 でもそれはしない。 殺人なんてしたくないからだ。


 「みんな、怪しまれないよう歩きながら話そう」

 「ええ、そうね」

 谷口は黙ってコクンと頭を下げる。

 

 「俺としては、刑事に会って話をしてみたいんだが、どうだろうか?」

 「私もそれには賛成よ。 このまま無視するってのもあるけど、それじゃあ何も得られない。 会ってみて少しでも情報を聞き出すのがいいと思う。 無視した場合、私達であの刑事さんについて調べる方法なんて何も思いつかないし」

 「わ、私はどっちでもいいけど……」

 「よしじゃあ、どこまで話す?」

 「なぜついてきているのか。 なぜ能力者という言葉に反応したのか。 これを聞きたい」

 「谷口は?」

 「私は二人の意見に従う……」

 「わかった。 状況によりけりだが、その二つは必ず聞くということでオーケーか?」

 「ちょっと待って。 あの刑事が逆に質問してきたらどうするの?」


 有栖川の言う通りだ。 逆に質問してきたらどうするのだろうか? 


 「もし質問してきたとして、何を聞いてくるのかシュミレーションしたほうがいいかもしれない」

 「まず私が言ってしまったらしい、能力者とはなにかについて聞いてくるでしょうね。 他には名前とか年齢?」

 

 三人はしばらく黙って繁華街を歩き続けた。 あの刑事さんが他に何を聞いてくるのか。 わからなかったからだ。 でもいつまでもこうして歩き続けているわけにはいかない。 三人は覚悟を決めた。


 

 三人の男女を尾行中の刑事がいた。 その手際は慣れたもので、三人を見逃すことはない。 


 三人に動きがあった。 ビルとビルの隙間、細い人気がない路地に入っていたのだ。 刑事はその路地まで歩いていき、中を覗く。 路地は薄暗く人など一人もいない。 

 

 刑事はその路地に入る。 ……しばらく歩いたところで隠れていた三人が姿を現した。


 「これは驚いた。 つけていたのがばれていたのか?」


 刑事は頭を掻きながら困った顔をする。 


 「刑事さん。 なぜつけてきたのです?」


 そう質問したのは樫原だった。 刑事は見た目から40代後半の男性で、体が大きくアメフト選手のようだった。


 「君たちが気になってね」

 「どうして気になるんです?」

 

 刑事はかなり近くまで近寄る。 デカい体が迫ってきて、その圧迫感と恐怖は半端がなかった。 この図体だ。 戦闘になったら勝ち目はない。 いや谷口のナイフならば勝ち目はあるかもしれないが。


 「君たち、能力者か?」


 カチャ。


 樫原の心臓辺りになにか棒状の何かが当たった。


 それは拳銃であった。


 「!?」

 「能力者だろ?」


 嘘だろ。 いきなり拳銃を突きつけてくるなんて。 この刑事一体なんなんだ!?



 刑事の首の後ろに冷たい金属が当たる。


 「動くな!」


 それは谷口のサバイバルナイフだった。

 

 「動いたら殺す。 拳銃を下ろせ」

 「ほう。 首の後ろにナイフねぇ。 お前、この辺りを騒がしている通り魔だな?」

 「そうだったらどうする?」

 「始末する」

 「……」


 谷口は刑事の首の後ろを捉え、刑事は樫原の心臓に銃口をゼロ距離で当てている。 有栖川は黙ってみているしかできなかった。


 「さて質問に答えてもらおうか? 能力者は一人だけか? 最低でももう一人いるんじゃないか?」

 「いえ、質問に答えるのはあなただ。刑事さん」

 「なに?」

 「……どうして能力者のことについて聞きたがる?」

 「おい通り魔。 人殺しの癖してずいぶんと偉そうだな?」

 「質問に答えろ」

 「質問に答えるのはお前らのほうだと思うが?」

 

 俺の心臓に当てられた銃口がより強く押し付けられる。 心臓がバクバク高鳴る。 


 「質問に答えろと言ってい……」

 「まて谷口! 俺が……俺が質問に答える」

 「ほう?」


 俺にそう言われて、谷口は黙る。


 「ではぼうず。 答えてもらおうか?」

 「能力者は二人。 谷口と俺だ」

 「なんの能力だ?」

 「……あんたの中で検討は付いてると思うが?」

 「記憶を操作する系の能力だろ?」

 「そうだ。 そして俺にも刑事さんの能力について検討が付いている」

 「ほう?」

 「あんたは警察手帳を見せて有栖川から情報を聞き出していた。 有栖川がそんな簡単に俺達の情報を喋るわけがない。 つまりあんたの能力は『手帳を見せた相手から情報を聞き出す能力』だ。 そうだろ?」

 「……半分正解だ。 正確には情報を聞き出して、且つ相手の記憶を操る能力だ」


 俺は体中から冷や汗をダラダラ流していた。 この受け答えで自分の生死が決まるのだ。 当然だ。 しかし、この刑事も同じように状況によっては谷口に刺殺される可能性があるのに、汗一つかいてない。 むしろ余裕の表情を浮かべている。 場慣れしているようだった。 


 「……あともう一つ」

 「なんだ? ぼうず?」

 「刑事さんはその能力で有栖川から情報を聞き出そうとした。 だが、俺が有栖川の腕を掴んだ瞬間、能力の効果が切れた。 だから『最低でももう一人いる』って言ったんだろ?」

 「ほう? 頭がいいなぼうず。 正解だ」


 「で、俺達をどうするつもりだ」

 「能力者はいずれ暴走する。 だから暴走して市民を殺す前に俺が始末しなければならない」

 「もしそれを阻止することができるならば見逃してくれるか?」

 「なに?」

 「そこにいる谷口だが、確かに能力のせいで暴走して通り魔と化していた。 でも今は大人しいだろう?」

 「ふっ 俺の首にナイフを突き立てている奴がか?」

 「でも刺し殺してはいない。 もし能力で暴走した状態のままだったら、なんのお構いもなく刑事さんを殺しているし、俺も、有栖川も殺されている」

 「……なるほど一理ある。 で、どうやって暴走を止めた?」

 「俺の記憶操作の能力だ。 正確には谷口の心の中にあった暴走している人格を消した」

 「そこまでできるのか?」


 刑事の顔が驚いたように見えたが、一瞬で元に戻ってしまった。


 「そうだ」

 「……」


 刑事はしばらく黙り込んだ後、銃をホルダーにしまった。 それと同時に刑事の首の後ろを捉えていたナイフがどこかに消える。

 「まだお前達を信じたわけではない」

 「……」

 「だから証明してみせろ」

 「証明?」

 「ああ、最近警察を散弾銃のような物で襲う事件が起こっているだろ?」

 「……」

 「能力が原因で暴走してそうなっている可能性が高い。 だからその犯人の人格を消して暴走を止めて見せろ。 そしたら信じる」

 「俺達にショットガンを持った奴を対処しろって言っているのか? 危険すぎる」

 「俺もついていこう。 これでどうだ」

 「……断ったら?」

 「覚悟してもらおう」

 「わかった」

 「よし、ならば俺の携帯電話番号とメールアドレスを教えておこう。 あと、俺にお前のメールアドレスと電話番号を連絡用に教えろ。 警察を狙っている能力者の情報を提供する」


 樫原はスマホを取り出し、メールアドレスと電話番号を刑事に教えた。 刑事もまたメールアドレスと電話番号を教えた。


 「警察を狙っている能力者のメドはついている。 もし奴が動いたなら電話するから急いで現場に急行しろ! いいな?」

 「わかった」

 「よし。 もし嘘だったら…… もうこんなことはないからな?」


 そう言って刑事は後ろを振り向き人混みの中に消えていった。


 「……ふー死ぬかと思った」

 「あんた大丈夫?」


 有栖川が心配そうな顔で駆け寄ってくる。


 「全然大丈夫じゃない。 汗でびっしょだ」

 「だ、大丈夫?」


 谷口も心配そうに駆け寄ってくる。


 「ああ。 そんなことより、俺に刑事から電話来たら急いでお前たちに知らせるから、どんな状況でも現地に集まれよ? いいな?」

 「そんなことわかってるわよ」

 「うん」


 

 樫原には刑事について気になることがあった。 それは刑事が能力が原因で暴走しているように見えないということだった。 


 俺が刑事に人格を消して暴走を止めた話をした時、刑事は驚いた様子だった。 だから刑事には自分の暴走を止める手段がないはず。 いや、他にも方法があるのか? いやいや、他にも方法があるならその方法を使っているから驚かないはずだ。 ということは自らの精神力で抑えているのだろうか?


 ……今はそんなこと気にしている場合じゃないか。 なんとかして警察を狙っている能力者を止めないと……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ