プロローグ
地球温暖化によって気温が上昇、水や空気の汚染状況も悪化の一途を辿り、緑は荒れ果て、『奇跡の青い星』は茶色く濁る汚星となってしまった。
太陽の膨張による生命滅亡説が昔あったそうだが、生命の危機はその前に訪れた。生命が活動するためには欠かせない、酸素濃度が希薄したのだ。
次々に破壊される自然とは裏腹に衰えを知らない人口増加は、遂に生態系のバランスを崩した。日々生み出される二酸化炭素量が、植物の生み出す酸素量を上回ったのだ。
とはいえ人々は退化したわけではなく、環境破壊を犠牲として諦め、科学技術を発達させたのだ。ただ抑制しているだけでは時期を遅らせることはできてもいずれ来る未来に変わりはない。そうであるならば、寧ろ危険を冒してでも研究を進めた方が良いという論に落ち着いたのだ。それほどまで終わりが見えていた。
斯くして生みだされた人工光合成機関は、しかしそう甘くないのが現実であった。
理論として、また試作としては完成していた人工光合成機関だが、目的を達成できるほどの性能はなく、つまるところ、現状打破が可能なものではなかったのだ。
そうこうしているうちに蔓延していく謎の感染症や、過去に根絶させたはずのウイルスも確認され、望まぬ形で人口減少が始まった。
もう再生は不可能であると判断した科学者・技術者たちは、いよいよ地球を脱することを決意した。嵩張る資源や資産に対し実用性の見返りが少ないため一時中断されていた宇宙開発に資力を濯ぎ、ようやく造り出された地球人最後の開発物、持続的自給型宇宙船:セルファ。
農業用に開発されていた代用太陽や、近代スポーツにも使われている重力発生装置、そして今回の人工光合成機関などを搭載し、船内で『美しい地球』の様子を再現した星間移動用の宇宙船だ。保護施設に残っていた生き物たちを繁殖させ各船に乗せることで生態系も人工的に再現しており、準備は着々と進んでいった。
極めて死亡率の高い病の勢力は一大陸全土を無人の地とするほどで、計画の実行は早急にしなければいけなかった。立ち入り禁止地区が増え調査が不可能になった人口は、推定で全盛期の十分の一をきっているとされている。だからといって、到底地球にいる全員を乗せられるほど定員は多くなく、乗員の選出法は議論を窮すと思われた。
しかしながら、劣悪な自然環境により寿命は低下しており、また処置法の見つかっていない感染病や各個人の意志調査、そして何より、今後の生活を考えなくて良いからと緩和された資源制限のおかげで、脱出者とセルファの定員は釣り合った。
その後、少しでも人類の生存率を上げるためにと、言語等を考慮しながらセルファの部隊――セルファスが編された。
「これは地球を脱出する道具ではない。
人類の新たな住処を探す手段だ。
みんな、生き残ろう」
開発責任者の言葉を皮切りに、次々地球を発つ光たち。これこそが地球最後の、また人類生存計画の終わりであり始まりであった。
そして今一世紀以上が経ち、遂にセルファの群れは太陽系の外へ出ようとしている。