仮面
「東洋のキトラ古墳壁画箔片は246番の方が落札です」
韜晦の薄暗いホールが、おお、とどよめく。年齢性別など様々だが、皆目元を隠す鮮やかな蝶や蝙蝠の仮面を着けている。競売人なども同じ。
「同様に目玉品。次はアドルフ・ヒトラーの精子。DNA鑑定済み」
どよ、と沸いた。壇上には円筒形容器が運ばれた。冷凍保存。
「どうよ。贋品かね」
鍍金の袖ボタンを揺らし75番の男が冷笑した。
「投与して誰かに身籠らせてみたいですわ」
隣の76番の女性は上唇を嘗め探る。初対面同士の恋愛ゲームも香る。
どの参加者も入手経路は問わない。状況から裏事情を推す。表層から得られるだけの情報を得て判断するのだ。
突如、ステージが慌ただしく。
「どうも情報が漏れたようで。皆さん、お逃げ下さい」
緞帳の裏から男が出て来て言うと、どよ、とまた沸いた。
当局が踏み込んだ時、関係者や参加者は皆大人しくしていた。誰一人逃げていない。官憲は一様に素顔のまま虚ろな目をした人々に首を傾げながらも確保。残さず連行した。無抵抗。
土曜の夜、無数の蝶や蝙蝠が低く飛んでいることがある。騙されるな。渡りではない。
どうか無数の瞳大きな羽と目を合わす事勿れ。
おしまい
ふらっと、瀨川です。
他サイトのタイトル企画に出展した旧作品です。
段落は全て「と」もしくは「ど」始まりで統一しました。無茶をしてどちらかだけで統一、というのはむしろ面白くなかったです。