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~再生と喪失~ 邪精樹の森

書き溜めその3です。

邪精樹の森


野宿のために灯した焚き火の残滓を前に、過去の回想を伴った夢からエイクの意識は覚醒した。

まだ夜明けには少し早い時間。

フィズは普段の言動からは想像できないほど可愛い寝顔をさらして寝息を立てている。

この寝顔をしてフィズが年下だということを思い出すほど、普段の立場は真逆なのだ。

けどまぁ、なんだかんだで長いことパートナー組んでるよな…。最初は面倒なだけだったが、付き合ってみれば悪いもんでもない。

太陽みたいな奴だからな。暖かく光り輝く彼女は自分には少し眩しいが、一緒に居て嫌な気分になることも無い。

あと、たまに妙についてるときあるしな。

コレが恵みの太陽だとすれば、説教くさいのは肌をじりじりと焼く照りつける太陽かな。

最も、説教の無いフィズってのも気味悪いな、と失礼な感想を付け足す。

「…エイク」

まるで心の声を聞いたかのタイミングでつぶやくフィズに一瞬ドキリとするが、起きたわけではないようだ。


早朝の森は殊更に空気が美味い。

誰もが思うであろう事を思いつつ出発の準備を進める。

「おはようエイク。そっちの準備はそろそろ大丈夫?」

食事を終えて荷物をまとめたフィズは同じように準備をしていたエイクに確認する。

「もうちょっとで終わるぜ」

荷物をまとめながら答えるエイクは手を休めることは無い。

“さすがに朝から説教されるのは嫌だからなあ…。“

と内心思いつつ荷物をまとめ終わる。

「さて、索敵しながらハイキングと洒落込みますか」


二人は伸びた枝葉によって薄暗い森の中を進んでいく。

「しっかし、木を隠すなら森の中じゃないが、これだけの中から木の怪物を探すのは面倒だな…」

朝に“説教は…”と思っていたのにも関わらず、もう愚痴をこぼすエイク。

そして、やはりというべきかフィズに指摘される。

「そんなの受けたときに予想できたことじゃない。そんなに面倒だったらいい手があるわよ?」

にやりと、意地の悪い顔をしたフィズは続ける。

「エイクが大声を上げながら走り回ってくれれば、反応した奴を片っ端から私が狙撃するわ。

まぁ、撃ち損じた奴はがんばって処理して頂戴」

と付け加えながらエイクをいたずらっぽく見つめる。

エイクは墓穴を掘ったと思いつつ下手に出て拒否する。

「がんばってトレントちゃんを探しますかねー。どこかなー?トレントちゃんー」

クスリと小さく笑いながら、先を行くエイクを追うように歩き始めるフィズ。

トレントは普段は樹木に擬態しており、近くを動物が通ると地中から伸ばした根で攻撃して捕獲する。

また、夜間においては根を地上に出し、ゆっくりと移動することも可能だ。

一般人では突然の奇襲に対処することもできず、また対処法をわかっていないハンターにとっても脅威の存在である。

対処法は二つ、地の初級魔法であるプロキュラを常時展開し、範囲内の動体の動きを察知して地中からの攻撃をかわしながら根をたどる方法。

もうひとつは探索系初級戦技である震聴を使い。樹木が通常放つ音とは別の音を聞き分けて本体を見破る方法だ。

本体を確認した後は、切り倒すか邪精の結晶化した核を破壊することで倒すことができる。

二人は共にトレントを見破る方法を知っており、フィズは魔法を、エイクは戦技を使って索敵に当たる。


地中を這うトレントの根がフィズのプロキュラに反応する。

「エイク、右から来るわよ。しばらくひきつけて」

「了解。樹木の周りを回って絡めさせてやるさ」

エイクが回避とかく乱に入ったのを確認し、プロキュラの反応をトレントの根元へと絞っていく。

「見つけた」

 言うや否や視当狙撃を発動し、トレントの上方右側にあった邪精の核を打ち抜いた。

 トレントは悲鳴の変わりに大きく枝を揺らして沈黙する。

「難しいものじゃないわね」

幸先のいいスタートから、フィズの心が浮ついた。

 だが次の瞬間、左からの衝撃に突き飛ばされる。

 気を抜いたところを狙われたかと確認すると、

「ってぇ、フィズ、らしくねぇぞ」

先ほどの衝撃はエイクがフィズをかばってのことだったらしい。

 エイクは避け切れなかったらしく、左半身に切り傷を負っている。

 体勢を建て直したエイクは攻撃してきたトレントに向かって走り出した。

「うぉぉぉりゃぁぁぁぁ」

 雄たけびと共に腰のひねりから大剣中級戦技弧月斬を繰り出す。

 一刀の元に樹木ごと横一文字に幹を切り裂かれたトレントは,大きな音を響かせて地面に倒れた。

「ごめん、油断してたわ」

エイクに助けられて消沈するフィズ。

「まだ討伐を始めたばっかりでよかったな。終わりごろの疲れた体じゃ守りきれなかったぜ」

 気にするなとでも言うように軽い調子で返す。

 全く、普段は怠けて頼りないのにいざって時はかっこいいんだから…。

 フィズがエイクと行動する理由はここにある。

 エイクの普段の行動からは想像出来ないほど、困ったときに頼りになるのだ。

 フィズは予想外の事態に対応することが苦手なため、エイクのこういった部分を特に信頼している。

 しばらく敵を捜し歩いていると、

「団体さんでお出ましだぜ」

とエイクが周囲を見渡した。

「三体か…。右に二体、左に一体。既にこちらに根を伸ばしてきてるけど、どうする?」

フィズはエイクに確認を取る。

エイクは少しの沈黙の後、

「エリアスマッシュを使ってかく乱してから左右に分かれて倒そう。フィズは左を頼むぜ」

エイクは合成技エリアスマッシュの準備に入る。

「判った」

短く答え、エイクの技を待つ。

合成技エリアスマッシュは、風初級魔法のブリーズと大剣初級戦技の樋撃を合成した技だ。

ブリーズは本来そよ風を吹かせる程度の魔法だが、その風を圧縮し、そこに剣の平らな部分である(とい)をぶつけて大きな衝撃を発生させる合成技だ。

合成技は使用者のイメージ力と集中力が鍵だ。自らの求める効果になるよう魔法や戦技をコントロールする。そのため、個人ごとに独自のものが多数ある。

ただし、合成する等級や数によって成立する難易度が跳ね上がる。

エリアスマッシュは普段、敵の近距離で使用して気絶を狙ったり、外皮の硬い怪物に対して内部に衝撃を通すための技だが、今回は目の前の空気を振動させ地中に伝えるために使用する。

トレントは目があるわけではなく、広く張ったセンサーとなる根に地上を移動する動物が発する振動を感知して攻撃する。

つまりエイクはエリアスマッシュによってそのセンサーを一時的に無効化してトレントたちに奇襲を掛けるつもりだ。

 ドン。と大きな音と共に発生した衝撃を合図に、二人は別々の位置へと疾走する。

 フィズは左側のトレントを目指し核の位置を探し、射線を確保してすかさず視当狙撃を発動し、トレントを沈黙させた。

 エイクのほうを見れば既に一体を切り倒しており、二体目に腰溜めの斬撃を繰り出しているところだった。

 その後も、滞りなく討伐は進む。

三刻も過ぎる頃には討伐数が予定に達し、夜の帳が下りる頃にはフェルナへと帰還していた。

「結構早く終わったなぁ」

と早く帰れた事を喜びながら、エイクは今夜の酒に心が飛んでいる。

「とりあえず、ギルドがしまっちゃう前に報告してきましょう。

そうすれば、誰かさんは気兼ねなくお酒がのめるでしょう?」

フィズわかってるな!と更に上機嫌になりながら先を歩いてギルドへの道を急かす。

「まったく、現金なんだから。

そんなに急かさなくてもギルドはまだ閉まらないわよ」

言いつつフィズも釣られて上機嫌になっていた。

 ギルドで討伐報告をし、報酬を受け取る二人。

「半日でいける距離に三刻程度の時間で討伐したにしては、銀貨五十枚とはおいしい仕事だったな」

「そうね。でも懐が暖まったからといって、羽目を外して飲みすぎないでよね?

立てなくなるほど飲んだら置いて帰るから」

普段の行いを良く知っているフィズは、二人で酒場を探しながら釘を刺す。

「大丈夫だって、酒は飲んでも飲まれるな。飲まれるぐらいなら飲み干してしまえ!ってね」

まるで、既に酔っているかのように返すエイク。

既に未来が見えてしまったフィズは宿からなるべく近い酒場へと誘導しようと思案していた。



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