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~再生と喪失~ 追憶

書き溜めその2です。


追憶


国土のほとんどが森であるフェルナガントはその性質上、森に関連した怪物の被害が大半を占めていた。

樹木に邪精が取り付き、根を攻撃手段として人や家畜を襲うトレント。

脳が発達し、人間と同じぐらいの知能を持っていて体力腕力は熊と同等。道具を使うほど手先が発達していないため武器や罠を仕掛けられることが無いのが救い。という程度の脅威であるワーベア。

巨大化した甲虫類や有害な毒をもって襲ってくる蝶や蛾などの鱗翅類、毒針を持ち集団で動物を襲う蜂類などである。

二人が目的地に着いたころにはすっかり陽が落ち木々が星の光を遮り、辺りはまるで光の届かぬ海の底のように暗くなっていた。

「はぁ、すっかり暗いんだが・・・。今からトレントを狩るのか?」

「この暗闇で奴らと戦うのは危険だわ。今日は此処で野宿するわよ」

「やっぱり・・・。何のために此処まで来たんだか」

「何言ってるよ。夜のうちに目的地に着けば朝一番から狩りが出来るでしょうが」

「へいへい、その通りですね」

最早、文句を言う気力も無い。何より言っていることは一応正論だ。

そもそも、何故怠け者のエイクとしっかり者のフィズが一緒に旅をすることになったのか…。


それはもう数年前になるだろうか、当時一人でハンターをしていたエイクはフロントハイムにあるハインのハンターギルドから依頼された仕事をこなしていた。

依頼内容は近隣の森に現れるアデファガ三十体の討伐であり、

「よーし、これでラストだな。あ~疲れた」

討伐対象を探すうち、いつの間にか森の出口近くまで移動していたエイクは仕事の終わりを実感しつつ一心地着いた。

最後の一匹を倒し気の抜けているところを、何処かに隠れていた人の頭ほどの大きさの甲飛虫に隙を突かれた。

背中に鋭い痛みが生じ、ソコから徐々にしびれる感覚が広がっていく。

マズイ…。

気の緩んだところに不意の一撃を食らい、動けるうちに対応をしようと体と頭を動かす。

しかし、目端に捕らえたのはこちらに居る甲飛虫の奥から這い出してくる増援の甲飛虫達。

いよいよ危機感を募らせ道具袋を漁る。

だが、無常にも解毒のための薬草は切らしてしまっていた。

麻痺が広がり大地に膝をつく中、複数体との戦闘に勝利するビジョンを浮かべられないエイクはあっさりと生への執着を手放した。

目的なく世界をさまよっていればいつかはこうなるか…。

完全に諦め、背を大地に預けて空を見上げる。

まぁ、帰る場所もなければ守りたいものもない俺はここで終わりだな。

変わらず近づいてくる甲飛虫を視界から消すために目を閉じた。

カサカサと音を立てて近づいてくるアデファガは獲物を毒で痺れさせた後、集団で獲物を噛み千切って餌にする。

―――ドス。

咀嚼される音が最初に来ると思っていたエイクは予想外の音に目を開けて周囲を見る。

「そこの君、今助けるからおとなしくしてなさい」

女性の声だということはわかった。

痺れの回る体で何とか首だけ動かし、一番近くにいた甲飛虫に矢が突き立っているのを確認した。

固い殻に守られたアデファガの殻の継ぎ目を正確に射抜いていることから見ても相当な腕のようだ。

新たに現れた三体の甲飛虫のさらに奥、木々の間に緑の髪の女性が弓を番えていた。

彼女は自分に一番近い甲飛虫にすばやく矢を射り、その動きを止める。

仲間が二体やられたことを感じ取った残り二体が翅を羽ばたかせ、弧を描きながら彼女に向かって突進する。

「ルクス!」

彼女はそれを予測した動きで空中に光球を生み出した。

本来は暗所探索などに用いられる初級の光属性魔法なのだが、相手は空を飛ぶ虫。

昼といえども近くに生じた強い光源のせいで方向感覚を狂わせた。

混乱する甲飛虫を横目に、彼女は疾走しつつ次の矢を番える。

あらぬ方向へと飛んでいく甲飛虫に向かって後からの一撃。

翅を広げたため身を守る殻が大きく開いてしまい、女性の放った矢が容易にその身を貫通する。

空中から墜落する甲飛虫を一顧だにせず、未だ光球に惑っている最後の一匹に止めを刺した。

「ふぅ、もう大丈夫そうね」

戦闘の緊張を解き、近寄ってくる女性。

「お見事。いい腕してるね」

などと少し前まで命の危機に瀕していた者とは思えない間の抜けた賛辞を放つ。

「君ね。もうちょっとでやられる人間だったとは思えない台詞よ?それ」

呆れつつも、道具袋から解毒の薬草を取り出してしゃがみ込んでエイクの口に千切って押し込む。

「ほい、あんぼうらな」

口に突っ込まれた薬草を咀嚼しながら呂律の回っていない口調で抗議する。

「ま、憎まれ口叩けるなら大丈夫かな。しばらくはじっとしてなさいよね」

言われた通り、薬草を飲み込んでじっとしているエイクに彼女の説教が始まる。

「それにしても、君諦めるの早すぎない?間に合ったからいいもののあと少し遅かったら餌になってたわよ?」

彼女の言い分に気まずそうに“あー…”などと言い訳が続く。

「ほら、解毒の薬草切らしてたし、痺れ回ってくるし、増援の甲飛虫見えたし、これは足掻いても結果が見えてるなーと思ってね?」

やる気のないエイクの言葉に彼女の叱責は更に強まる。

「だからって、生きる努力をしないのはどうなのよ…。声を上げることぐらいできたはずでしょう」

もっともな意見を言われ、それでも苦笑いをしているエイクに彼女はいい加減堪忍袋の尾が切れたようだった。

「何なのそのやる気の無さ!見てて凄くイライラするわ」

と言いつつ、エイクの胸倉を掴み

「毒が抜けたら一緒に来なさい。とりあえず町まで一緒に行くわよ」

エイクは不満顔で丁寧に断ろうとするも彼女はそれを一蹴する。

「たとえ一時でも言葉を交わした相手が死ぬのは気分が悪いのよ。文句なら町についてから聞いてあげるからさっさと立ちなさい」

あくまで強引に連れて行こうとする彼女にあっさりと根負けしておとなしく従った。

その後、町に戻る道中、町に戻ってからの説教等紆余曲折を経てフィズはエイクのパートナーとなった。


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