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~再生と喪失~ 序章

初めまして、灰と申します。

自分の書いた小説を不特定多数の方に見ていただくのは初めてのことで、どのような批評をいただくのか非常に不安な部分はありますが、長い目で見ていただき、お付き合いいただけると幸いです。

完結できるように頑張りますのでよろしくお願いします。

いてつく吹雪が吹き込む洞窟で男は慟哭を上げる。

それはただの悲しみではない。失い、取り戻して再び失ったことに対する叫び。

手を伸ばせば触れられるのに、しかし、あの頃の彼女はもういない。

二度の喪失を経て彼の胸に去来するのは空虚な現実だった。



序章

いつ出来たとも知れず、歴史においても定かではないこの世界・・・。

「ルーニック」いつからか人々はそう呼んでいた。

この世界には五つの大陸があり、十の国がある。

国によって法は様々だが、一つだけ共通で認められているものがある。

それは、「ハンター資格認定証」であり、国を問わず人に害をなす動物に対処する為に出来た資格だ。

これを持つ者はハンターと呼ばれ、各国の公安局より発布される「討伐指定書」を元に指定された動物の駆除を行う。

動物といっても単純に猿や猪などではなく、怪物といわれる類のものだ。

故に、一般人では対処できない為「ハンター」の存在が世界的に公認されている。

ハンターを生業とするものは様々な戦技や魔法を駆使するものであり、戦技であれば使用武器ごとに戦士系のスキルがあり、魔法であれば光闇火水風土の六行属性の初級魔法、果ては中級魔法を習得する者まで居る。

上級の戦技、魔法については使い方を間違えると大量虐殺につながる恐れがあるため、各国の魔法ギルドや戦技ギルドによって管理されている。


山と湖の国フェルナガント。

V字状に広がる山脈に挟まれ国土の大半が森となっており、中央に山から流れる静謐な水で満たされたシルト湖を抱える。

特産は良質な自然からもたらされる薬草で、フェルナガントの薬草といえば世界的に有名な高級品である。

その入り口とも言うべき貿易港オードに降り立つ二人のハンター。

夏の終わりの強めの日差しと、生ぬるい風の中に冷たい空気を含む今は、夏の終わりから秋口へと向かう最中(さなか)であった。

「さて、フェルナガントに着いたが、まだ此処からフェルナまで登って行かなけりゃならんと思うと嫌になるな」

赤髪、長身の男が愚痴る。

背中に剣を挿し、動きの邪魔になるような物はつけず、肩や急所のみを防護する金属製の鎧と革鎧に身を包み、その上からマントを垂らすその男はまさに冒険者といった風体だ。

「文句言わないの。仕事しないと御飯食べられないでしょ?」

そう諭す女は小柄で緑色のショートヘアを潮風になびかせている。

女も男と同じように一般人とは異なる格好をしていた。腰に弓を提げ、革鎧を胸の急所のみに装備して男と同じようにその上からマントを掛けている。

「さぁ、頑張っていきましょう!」

船から降り、入国手続きを済ませて早速目的地に出発しようとする女に男は口を挟む。

「フィズ、待てよ。折角フェルナガントに来たんだ。質の良い傷薬ぐらい買っていっても損はないだろう」

「何言ってるのよ。此処は貿易港オードよ?これから向かうフェルナの方が製薬の本場なんだからあっちの方が安いに決まってるじゃない。全くエイクは考えが浅いわね」

あっさりと考えを否定されたエイクは口を閉じる。

「じゃあ、改めて行きましょう。良い仕事があると良いわね」

意気揚々と歩き出すフィズをため息をついて仕方なしといった風に背に荷物を担ぎ、エイクは後を追う。


フェルナガントの首都フェルナ。

シルト湖に隣接するその都市は水との共存を目指し、町中に水路が発達し自然と調和した美しい都市である。

水路を行く渡し舟や、市場の活気、シルティン教の教会に出入りする商人など人々の往来を遠目に眺める男は、公安安定局の執務室においてひと時の休憩を取っていた。

「ベリス様。今年は例年に比べトレントの活動が活発です。既に何件か被害の報告が入っています」

部下にそう報告を受けるのはフェルナガント公共安定局局長ベリス=ガラントである。

「そうか、では討伐指定書を発行し、安全が確認できるまで対処をせよ」

「了解しました。トレント討伐指定書を発行し、ハンターに対応させます」

報告をした部下は命令を復唱し、部屋を出て行く。

「今年は問題が多いな・・・。ワーベアーの集団襲撃といい、幻惑蝶の異常発生といい・・・。何か大きな災害が起こらなければいいが・・・」

ベリスは先ほどと違う窓から眼下に広がる大森林を見下ろし一人口にする。


貿易港オードを出発した二人は、フェルナに到着して全く別々の感想を漏らす。

「きれい…。大きな都市なのに大都市独特の淀みみたいなものを感じないわ」

「ふぅ、やっとついたぁ~」

エイクはフェルナ入り口に着くなりしゃがみこんでうつむく。

自分の感動はどこ吹く風といったエイクの情けなさに少しむっとするフィズ。

「情けないわね。私より体格のいいあなたが何でへばってるのよ」

「そうは言っても、お前の分の荷物も入ってるんだぞ?この背中の荷物には」

疲れた風に反論するエイクをフィズは迎撃する。

「持つって言ったのはエイクでしょ?へばって文句言うぐらいなら格好つけなきゃいいじゃない」

核心を突かれ、ぐうの音も出なくなったエイクはだるそうに立ち上がり歩き出す。

「・・・。とりあえず、宿を探してからハンター窓口に言ってみるか」

「ごまかしたわね」

「・・・」

最早何も言わなくなったエイクを連れて手ごろな宿を取るフィズ。

取った部屋で荷物を降ろし、事前にフェルナの地図を手に入れていたフィズは早速次の行動へ移ろうとエイクを促した。

「さぁ、行きましょうか」

「ちょっと待とう。休憩だ。疲れた。これじゃいざって時に戦えないぜ?」

「・・・。はぁ、何でそうやってすぐ休みたがるのかしら・・・」

「何を言う、これはとても合理的判断に基づく休息だぞ?戦士たるもの常に万全の体制でことに臨むべきなのだ!」

拳を握り熱く語るエイクはどう見ても演技がかっていた。

「まったく、仕方ないわね。じゃあ、一時間休憩ね。」

ヨシ!とガッツポーズを取るエイクをフィズは半目で見つつ、

「ただし、お酒は禁止よ。もし飲んだら今夜は外で寝てもらうからね」

「そんな!酒は命の水!つまり、俺の生命線!」

良く分からないテンションでわめくエイクにフィズは笑顔で「文句あるの?」と問い、「ナンデモアリマセン、スミマセンデシタ」と何故かカタコトになったエイクは大人しくなりベッドの上で体育座りをした。


「すみません、討伐の仕事はありますか?」

あれからきっちり一時間休憩をし、多少調子の戻ったエイクと逆に少し疲れた雰囲気のフィズは町の中心部から少し離れたハンター窓口に来ていた。

人通りは多いとはいえないが、ガラス張りの天井から差す陽が開放感を感じさせる建物はこのギルドの性格を現しているのだろう。

ハンター窓口はその地域にあるハンターギルドが国や住人から依頼を受け、登録されたハンターに仕事の斡旋を行う。

ハンターギルドは世界的な組織ではあるが、国や地域によって多少性格に違いがあるためハンターによっては窓口を通さず直接住人から依頼を受けたり、逆に水が合ってそこに腰を落ち着けることもあるという。

窓口に居た係員は声を掛けたはつらつとした女性とその後でダルそうにしている青年を見やり、いつもの定型文を口にする。

「ハンター資格認定証を確認させてください。・・・はい、確認できました。エイク=ティールさん、フィズ=ソウェイルさんですね。では、早速ですが早急に対処していただきたい案件があります」

「どれどれ・・・。トレント討伐二十体か。まぁ、問題ないだろ」

「では、お二人に討伐を依頼しますね。ただ、この依頼は複数のハンターに依頼する予定なので、指定した数に満たない場合は報酬を減額することになります」

「了解だ。期限はあるのか?」

「三日以内にお願いします」

「OK,じゃあ完了したら報告に来るわね」

「はい、よろしくお願いします」

討伐指定書を受け取った二人は宿に戻り、内容を再度確認する。

「討伐地域は此処から半日ほど北に行った所ね」

「よし、出発は明日だな」

「何言ってるのよ。窓口でも言われたでしょ?他のハンターに獲物を取られる可能性があるんだから、すぐ出発するわよ?」

すっかり酒を飲む気満々だったエイクは一気に肩が下がり

「勘弁してくれ・・・」と泣きそうになっている。

「勘弁しないわよ?さっき一時間の休憩を譲ったんだから、今度は言うこと聞いてもらうわね」

フィズは笑顔を向けると出発の準備を始める。

肩が外れんばかりに下がったエイクは仕方なしに出発の準備を始めた。


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