7 話
こんにちは。
「あたしの知り合いの知り合いのお嬢様がね、ちょっと困ってるらしいからお前会っておいで」
サマンドに来てすぐの頃、ばぁーちゃんから紹介されてわたしはマデリーン様に出会った。
絵に描いたようなお嬢様で、プライドが高くてびっくりしたが、恥ずかしながら打ち明けられた悩みは15才の少女らしい悩みだった。
つまり、好きな人がいるが年上で、その人の目を惹くような姿になりたいと。
そこでわたしは副魔法を使ったのだ。
その時のマデリーン様は、それはそれは目を丸くして驚いていた。そしてすぐ歓喜の声を上げた。
結局恋は実らなかったそうだが、それからあまり広めないという約束でマデリーン様とそのお友達に施すようになった。もちろん報酬はいただく。
「あなたの副魔法は本当にすごいわ。でもこれから魔法使いとしてやっていかないなら、もう少し堂々として商売しないと!」
そう言ってマデリーン様は貴族相手でも通用するようにと、学園で習った以上のマナーをわたしに教えてくれた。
わたしへの依頼はマデリーン様から直接届く。
基本社交界シーズンを中心として依頼されるが、たまにそれ以外でもお呼びがかかる。今回がそのケースだ。
「アリス様、どうぞこちらへ」
年嵩のメイドが準備ができたと呼びに来たので、私は飲んでいた紅茶をそっと皿に戻した。
案内された部屋に入ると、そこには下着に薄いガウンを羽織っただけの姿の5人のお嬢様が、部屋の中央のソファに座り、これから着付けを手伝うであろうメイド10人が壁側に静かに立って並んでいた。
お嬢様の中の1人が立ち上がる。
金髪の巻き毛に意思の強そうな力強い青い目の美少女は、この館の17才の伯爵令嬢マデリーン様。わたしの最初の顧客にして、いろんなことを教えてくれた恩人だ。
「今宵もお招きいただきありがとうございます、マデリーン様」
深々と頭を下げると、マデリーン様はにっこり笑ったままうなずいた。
「今日もお世話になるわね、アリス」
「よろしく」
と、他のお嬢様達も笑顔で声をそろえて迎えてくれた。
「はい、精一杯努めさせていただきます」
わたしはゆっくり微笑んだ。
ローブを脱ぎつつ、内ポケットから手帳を取り出す。
近くのメイドが慣れた手つきで黒いローブを受け取り、そっと離れた。
黒いシンプルな裾の長いワンピース姿になると、わたしはまずマデリーン様に近づいた。
すでにマデリーン様の横には大きな移動式の姿見の鏡が、2人のメイドによって準備されていた。
わたしは手帳をめくり、メモを確かめた。
「今回の御希望はございますか?」
「そうね。襟の開いたドレスなの。しっかりした谷間が欲しいわ。でも大きさは前回と同じでお願いね。今夜のパーティは顔見知りが多いから」
「かしこまりました」
わたしはさっとメモに付け加えると、やはり私の横に立ったメイドがその手帳を銀のトレイを差し出し預ってくれた。
「失礼致します」
いつものことだが、一応断ってからわたしは目の前に立つマデリーン様に両手を差し出した。そのままガウンの合わせの間をぬって、そっと決して小さくはない胸の上部を直接指先で触れた。
ぽぉっと淡い光りと暖かな熱が生じ、その光りが消えるとそこにはふっくらとした谷間が現れた。
私が手をガウンから抜くと、マデリーン様は姿見に向き直りそっとガウンをはだけた。
「まぁっ」とは、ソファに座って成り行きを見ていたお嬢様達の声。
当のマデリーン様は満足げに微笑されていた。
「いいわ、おかしくないし。気に入ったわ」
「はい」
マデリーン様はくるりとソファのお嬢様達のほうへ体を反転させ、手前に座っていた華奢なお嬢様を手招きした。
ストレートの濃い茶金の長い髪に、緑の瞳。全体的に細く儚げであるが、肉感的なマデリーン様と少し似ていた。
「わたくしの従姉妹のシシリアナ。シシーよ」
「初めまして、シシリアナ様。アリスと申します」
「よろしく、アリシア。シシーと呼んでね」
お姿同様華奢な声が遠慮がちにかけられた。
顔を上げ、じっとシシー様を見ていると、彼女は急に顔を赤らめて下を向いてしまった。
それを見てマデリーン様は、わざと肩を上下させため息をついてみせた。
「シシー、あなた変わりたいって言ったじゃない。何恥ずかしがってるの?」
「だって、何だか言えなくなっちゃって…」
「勇気を出して言ってごらんなさいよ。まずはちゃんと自分で口に出さないと、何も変われないのよ」
マデリーン様に言われつつも、もじもじしてしまっているシシー様を見て、わたしはにっこり微笑んだ。
「シシー様。マデリーン様の言うとおりです。わたしもマデリーン様のおかげで今の自分があります。どうぞお言葉をお願いします」
なるべくゆっくりそう言えば、シシー様は1度こくんとうなずいて顔を上げた。
真っ赤な顔をして、頬は桃色になっていて、正直きゅんとくる。すぐさま抱きしめて、守ってやりたくなるくらいの庇護欲を沸き立たせるお嬢様だ。
「あの、わ、わたし……」
潤んだ瞳で、訴えるかのように見つめられる。
思わずどきりとしつつ、動揺を顔に出さないように次の言葉を待つ。
マデリーン様や、ソファに座ったお嬢様達、控えているメイドもみんなしてシシー様を熱い眼差しで応援し、次の言葉を待った。
「わたし……」
ぎゅっとシシー様は自分の手を握り締め、無意識にそっと目線を外した。
「胸とお尻を大きくしたいんです」
それは小さな声だったが、固唾を飲んで見守っていた一同にとっては宣誓くらいの響きがあった。
数拍遅れて「きゃー!よく言ったわシシー!」と、ソファからお嬢様達が駆けつけシシー様を抱きしめる。ちなみにメイドは全員満面の笑みで拍手していた。
ただマデリーン様だけは、少し悔しそうだった。
「惜しいわ。目をそらさなかったら100点だったのにっ!」
その意見にわたしもしっかりうなずいた。
「昔から病気がちで、線が細いのがコンプレックスなのよ。アリス、しっかり膨らましてあげてちょうだい」
「お任せ下さい」
すっかりシシー様の可憐さにはまったわたしは、今だお嬢様達に抱きしめられるシシー様に手を伸ばした。
「えっ」
もみくちゃにされる状況に混乱していたシシー様は、ガウンの中に入り込んだわたしの手に更に驚いてピタリと動きを止めた。
その間にさっと胸を膨らました。
「いかがでしょう」
体型を考えるとあまり膨らませることはできない。あくまでもスタイル美人がわたしのモットー。
今のシシー様の胸はけっして大きくはないが、形良く膨らみ、ガウンを盛り上げている。
姿見を見たシシー様は、ぽっと頬を赤く染めた。
「もっと大きくしてはどう?」
「しかし、これ以上は不自然かと思いますので」
マデリーン様の意見通りにしたいが、やはり手や肩の線が細いシシー様にはバランスが悪い。
「そうねぇ。シシー、これ以上大きくしたいならもっと太りなさい」
どうやらマデリーン様も納得したようで、腰に手をあてシシー様を上から下までじっくり見ていた。
「だ、大丈夫!充分だわっ」
焦ったように、胸を隠しつつシシー様は振り向いた。
「そう?次はお尻ね。出しなさい」
「え!?」
ぎょっとして1歩下がるシシー様に、わたしは苦笑しながら言った。
「大丈夫です。ガウンの下から失礼します」
跪いて腰の下のガウンの合わせから手を入れるわたしは、傍から見たら変態に違いない。それは充分よく分かってる。
これでも最初は恥じらいがあり躊躇もしていたが、この仕事もすでに2年目。いつしか恥はなくなり、むしろ体つきを見る目が肥えた。
シシー様のお尻もしっかり膨らませて、私は立ち上がって手帳の新しいページにシシー様のメモをとる。
チラリとソファで待つお嬢様達を見て、もう1人初めての方がいることに気がついた。
どうぞ顧客となってくれますようにと、心の中で願ってわたしは笑顔で次のお嬢様の胸を膨らませた。
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