75 話
すみません。
前話と重複がありました。
ご指摘いただき、修正しました。
ありがとうございました!!
――なんだろう。呼ばれた?
ううん、違う。唸っているの? 叫んでいるの?
ああ、そうか。怒っているんじゃないんだね。
だってあなたは――さびしいんだ。
「あ……」
テーブルの上に置いたランプの明かりだけの、薄暗い部屋で目を覚ます。
妙にすっきりと目が覚めたけど、静かな部屋に道沿いから声が聞こえる。きっとまだそう長い時間はたっていない。
夢を見ていたと思うんだけど、正直映像は覚えていない。
ただ、声がした。何かを求めるようなさびしげな声、だったと思う。
人の声なのか、獣の声なのかもわからない。
夢のことを思い出すと、わたしは急にそわそわしている自分に気が付く。
部屋を見渡してもカイン様は戻ってきていないようで、隣のベッドは入ってきた時と同じまま。
ベッドに一緒に寝たフーちゃんはまだ寝ているのか、ピクリとも反応がない。
わたしはじっとしていられずに、ベッドから降りて窓へ近づく。
カーテンの隙間から道を見下ろしてみるが、露店が数店あってそこそこにぎやかだがカイン様の姿はない。
おちつかない……なんで? どうして!?
気がつけば、部屋の中を行ったり来たりと動き回っている。
ああ、心臓がドキドキしてる。妙に行き苦しいような、落ち着かないこの気持ちはなに!?
まるで自分を抱きしめるかのように手を回し、ときおりドアと窓を見てはカイン様が帰ってくる姿を思い浮かべる。
本当は部屋を出たかったけど、今まで言うことを聞かないで散々な目にあってきたし、その後の教育的お仕置きにも泣いたから、さすがに学んだわけだけど。でも、やっぱり葛藤してしまう。
しまいには「うわっ」とか「でも」とか独り言をぶつぶつつぶやいて、とうとう頭をかきむしってしゃがみ込んだ。
と、そこへドアのがノックされる。
ハッとして顔を上げると、控えめに声がした。
「アリス、起きているかい?」
「カイン様!」
内側からかけた鍵をあけると、少し驚いた顔をしたカイン様が立っていた。
「どうしたの?」
「あの、その!」
会えたのに、どう言えばいいのかわからず口ごもる。
そんなわたしの様子を見て、カイン様の目が鋭くなる。
「……何か感じた?」
「え、あの……」
どういえばいいのか、とまた悩みつつ目線はあちこちをさまよう。
「どうやら何かを感じ取っているみたいだね。今の気分は怖い?」
「あ、いえ、落ち着かないんです。ここにいるのが怖いとかじゃないんですけど、なんだか違うようで……」
「少しは休めた?」
「はい。あの、寝ていたら急にこんなに落ち着かなくなってしまって……」
意味もなく「ごめんなさい」と続けようとしたのだけど、その前にカイン様の手がポンと頭に乗せられる。
「大丈夫。少し歩いてみよう」
そう言ってまだベッドで動かないフーちゃんをとりに行くと、わたしの手を引いて宿を出た。
「とりあえず歩こう」
宿を出ても落ち着かない様子のわたしを見て、カイン様は歩き始めた。
最初は落ち着きなくキョロキョロしていたわたしだけど、段々そんな余裕もなくなってくるほどドキドキする胸にうつむき加減で歩く。
人通りの多いところを黙って歩いているうちに、ふと気がつけばわたしが先に立って歩いていることに気がついた。
「あっ」
「どうしたの?」
足を止めると、カイン様が不思議そうに覗き込む。
「いえ、いつの間にか先に」
「いいよ、それで。アリスの行きたい方へ行こう」
「……はい」
行きたい場所、なんてないと思うけど、気になる方へと足をすすめる。
だいぶ遠回りをしながら、人気の少ない静かな道を歩く。
ふと見覚えがあるなと辺りを見渡すと、近くに赤レンガ作りの大きなお屋敷が見えた。お世話になったケイシー町長さんのお屋敷かな。と、いうことはこの道は北通り……。
気になる場所はもっと北の方角――。
黙って立ち止まったわたしを見て、今度はカイン様が手を引いて歩き出す。
迷いなくたどり着いたのは、いつか食事をした噴水のある公園。
「フー、起きているかい?」
ピクッとフーちゃんが動いて立ち上がる。
カイン様がフーちゃんから手を離し、まっすぐにわたしを見る。
「ここまできたなら間違いないだろう。アリス、君を呼んでいるのはハバール草原の魔獣だ」
ビクッと肩が震える。
反射的に思い出したのは、あの禍々しいまでの強大な魔力。
一気に顔色を悪くしたわたしに、カイン様は少し眉を下げる。
「すまない。君が何らかの反応を起こすのではないかとは思っていた。黙っていてすまない、アリス」
「そんな! たぶん、わたし言われても来たと思います。むしろ邪魔じゃなかったんだって、喜んできたと思います!」
その証拠に、ほんのちょっとだけ不安が取れた。
ドキドキと早打ちする胸の緊張感は止まらないけど、これでカイン様の役に何か立つなら、と別の期待を持つ。
わたしは大きく深呼吸する。
「行きましょう、カイン様」
「ああ」
厳しい騎士の顔になったカイン様がうなずき、わたしはフーちゃんに声をかける。
「フーちゃん、怖い目にあわせるかもしれないけど。お願い、わたし達を連れて行ってほしいの」
「……」
フーちゃんは一瞬何かを考えるように動かなかったけど、すぐに毛先を一部丸くした。――どうやら「OK」らしい。
いつものピシッとした「了解」より軽いな。場所的には、そんな軽いノリで行くようなところじゃないんだけどなぁ。
でもそうツッコむような余裕もない。
「お願いね」
そうして、わたし達はハバール草原のあの地へ向かう――。
読んでいただいてありがとうございます。
もう一話GW中にアップしたいと思います。