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ふくらし魔女と苦労性伯爵  作者: 上田 リサ
6.カイン様のために……(仮)
76/81

74 話

ご無沙汰してます。

 ミレイさんが持ってきたズボンとシャツと膝上まである丈のチュニックを着て、そうだと思い出して聞いてみる。

「ミレイさん、アナさんやメイちゃんは無事ですか?あと、羽ほうきも」

「アナさん達はカイン様もいないし、お家の方が忙しいみたいだったからちょっとお休み中で来てなかったの。だから大丈夫。で、その羽ほうきって、もしかしてフーちゃんに恋しているっていう?」

「知っているんですか!」

「ええ、というか、そう聞いているだけなんだけど。とにかくその羽ほうきは無事よ」

 羽ほうきだから瓦礫掃除に使われることはないだろうけど、自分で動けないから、今頃本棚の隅でイライラしているのかもしれない。でもデッキブラシに抱き着くフーちゃんを見なくてすんだから、やっぱりラッキーかもしれない。――失恋は確定だけど。

 全部終わったら、かわいい羽ほうきを見つけてやろうかな。

 あ、でもどれがかわいい羽ほうきかわからないや。フーちゃんに見立ててもらうのは複雑だし、ザッシュさんならわかるかな。あの人尋常じゃないし……。

「あ、ザッシュさんに連絡」

 思い出したようにつぶやいたわたし。

 ミレイさんはわたしが脱いでいた服をたたんでいたが、ふと顔を上げる。

「そのことだけど、あの家には誰もいなかったわ。それも数日前からずっと」

「そうですかぁ。結構留守多いんですよね、うち」

「行先もわからないの?」

「ええ。気がついたらいないとか、しょっちゅうですし」

 するとミレイさんが眉を下げる。

「……あなたってすごい苦労人なのね。ご両親とも離れて。まさか弱みでも握られているとか?」

「いえいえ! 好きでいるんですよ、わたし! それに家に戻ってもどうせ魔法使いの道しか選べなくなるし、正直自由な選択をさせてくれているばーちゃんには感謝しています」

「そう? ならいいんだけど」

 あまり納得していない様子のミレイさん。

 だけど、我が家から魔法使いを! と口には出さないけど雰囲気ですごく期待している家族や近所の視線や態度が、わたしにはとても息苦しい。そう思ったのは二回目くらいの里帰りだったかな。あれからいろいろ言って帰ってない。

 過労死と思われる死に方をした前世があるからか、名声の裏で身を粉にして働くような魔法使いのすばらしさがわからない。

でもまあ、でも前よりはばーちゃんがかっこいいと思えるようになったし、自分の力が中途半端で役に立たないことが多いって自覚することが増えた。

 そう、今も魔法を使えない魔法使いもどきってところだ。

「あの、ミレイさん」

「なあに?」

 わたしは「うっ」と数秒口ごもったあと、思い切って言ってみた。

「わたし、その……魔法使いではないので魔法を使えないし、剣もできないし、馬にも乗れないし。でも、その……ここでじっとしているっていう選択はできなくて……その、足手まといだとは思うんですけど、でも、どうしても行きたくて……」

 いざ口に出してみると、いきなりなんてことを言っているんだろうと冷静になる。

 だけどミレイさんは、黙ってわたしの言うことを聞いてくれた。

 結局答えが出ないようなことを言ったわたしに、ミレイさんは微笑む。

「いいんじゃない、それで。でも自分の身は自分で守るのよ。あなただって無関係じゃないんだし、魔法はダメでも何か役立つかもしれないわ。カンだけど」

「……ミレイさん」

「ふふふ。背中押して欲しいんでしょ? いいから行ってきなさいよ。オルドの町までカイン様を送り届けるのだって、あなたにしかできない立派な役立つ仕事よ」

「は、はい!」

 そうだ。わたしは誰かに「大丈夫」と言ってほしかった。

 やりたいことはあるんだけど、あと一歩の勇気がなくて、誰か賛成してくれる人の言葉が欲しかっただけ。役に立たないかもしれないのはわかっているのについて行きたいという、わがままを肯定してくれる言葉が欲しかっただけなんだ。

「わたし、行きます!」

「ええ。カイン様をお願い」

「はい!」

 元気に部屋を飛び出して行くわたしを見送り、ミレイさんはそっと目を閉じた。

「……どうか無事で」



 かけ足で下りて行った玄関には、すっかり支度を終えたカイン様がいた。

 そのカイン様の周りを小さな白い光が飛び回っている。

「カイン様、それって……」

「やあ、アリス。この子達も無事のようだ」

 このお屋敷に居候している氷の精霊

 そしてカイン様の前にはフーちゃんもおり、デッキブラシをもったイパスさんが苦笑してフーちゃんに何か言っていた。

 愛しのデッキブラシの無事を確認し、イパスさんによって瓦礫掃除に使わないように保管されたを見て、フーちゃんはようやく安心したらしい。

 馬に乗れないわたしはまだ回復していないけど、フーちゃんに乗せてもらうことにした。

 カイン様は一緒に乗せると言ったけど、馬の負担が増えてはスピードも落ちてしまうからと断った。

「フーちゃんももう早くは飛べないと思います。カイン様について行きますので」

「わかった」

 イパスさんが連れて来た馬に跨る。

「あとを頼む、イパス」

「はい。御武運を」

 イパスさんが頭を下げると、カイン様は馬を走らせる。

「行くよ、フーちゃん」

 軽く地面を蹴ると、フーちゃんもフワッと上昇してカイン様を追いかけた。



。・☆。・☆。・☆。・☆。・☆



 ほとんど休みなくカイン様は急いだ。

 途中でとうとう馬が疲れてしまったので、村に預けてそこからはフーちゃんに乗ってもらった。

 二人乗りしてもフーちゃんは早い。

 わずかな休憩をとり、その間にイパスさんが持たせてくれた携帯食をかじり、ロードル元侯爵達の後を追う。

 すっかり日が落ちて夜も遅い時間に、ようやくオルドの町へと到着した。

 さすがにフーちゃんも疲労の色が濃く、わたし達を下ろしたとたんにパタンと倒れてしまった。

 カイン様は目立つ銀髪を隠すために茶色の鬘を被り、わたしはフーちゃんを手に持って用心深くオルドの町へと入る。

 

 そこは普通の夜の賑わいを見せる町だった。


 そうそうに拍子抜けしてどっと疲れが押し寄せるわたしだったが、カイン様はまだ警戒を解いていないらしい。ずっと周りを注意して見ている。

 カイン様は薄いローブを羽織ったまま   を引いて町を歩き、露店で軽食を買いながら旅人を装い町の様子を尋ねる。

だが帰ってきた言葉は特に不思議なこともなく、今の時間でも空いている宿や馬車の時間などを教えてくれたくらい。

露店で働く人の子ども達も元気に走り回ったり、呼び込みをしたりと何かに怯えた様子もない。

心の中で首をかしげながら、まだ明るい松明で照らされた賑やかな宿へと入る。そこで部屋を一つ借りた。

 二階の部屋に入るとすぐ、道に面した小さな窓へ近づいて周りを確認してカーテンを下ろす。

「アリスとフーはここで休んでいてくれ」

 座ることもなく部屋を一回りして、またカイン様は出て行こうとする。

「あの、どこへ? 少し休まれてはどうですか?」

「大丈夫。元は騎士だから少々の長旅には慣れている。アリス達は鍵をかけてしっかり休むんだ。いつ『いざ』とう時が来るかわからないからね。俺は少しまた見回ってくる」

 そう言ってさっき露店で買った品を置いて、カイン様は静かに出て行った。

 言われた通りに鍵をかけ、ドサッと力を抜いて硬めのベッドへ仰向けになる。

 ひんやりとした寝具が、疲れてだるい体を冷やしてくれる。

 しばらくぼんやりした後、露店の味の濃い食べ物の匂いにお腹がすくのを感じて起き上がり、一人静かに食べてもう一度ベッドに横になる。そしてそのまま目を閉じると、少しだけと言いながら眠りについた。


来週もう一話アップします!

読んでいただき本当にありがとうございます!

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