1 話
今日はここまでです。
『魔法使いは国の仕事に就くべし』
それは魔法使いという人が少ないからだからだ。
この世界には3タイプの人間がいる。微々たる魔力、しかも属性すら不安定な普通の人、6割。火や水属性といったはっきりした気を持ち、それを魔石に流し込める属性持ちの人。例えば火の属性なら火の人と呼ばれる人、3割。属性を持ち、具現化する力を持つ魔法使いと呼ばれる人、1割。たまに属性以外の魔法が使える副魔法持ちの魔法使いもいる。
異世界だ!と興奮したのは言葉を覚え始めた2才前後だったと思う。
と、いうのもわたしは元は地球の日本に暮らすOLだったからだ。
ある日のこと。日頃の不摂生が祟ったのか、31才独身で死去した。親には申し訳なかったが、兄弟がいるし孫もいたから、きっと立ち直って長生きしてくれているだろう。
来世があるなら、食生活をしっかり見直さなきゃと思ってたら、まさかの転生。
記憶持ち、ということかな。
正直言えば、興奮していたのは始めだけ。世界を知れば知るほどビクビクして過ごすようになった。だって魔法が存在したから。知らないものが存在し、知っているものがない世界で、わたしはとにかく言動に注意した。
家はそこそこ大きく、属性持ちや魔法使いを良く輩出している家系だった。
そんな家で両親と姉と弟、数人の使用人と暮らしていたが、気が休まることはなかった。
IHやガスコンロなんてない。
ボタン一つでお風呂に湯が張ったり、明るくなったりしない。
情報は手紙と口伝だけ。通信って何?の世界。
あ、回覧板はある。ただし、ご近所さんの噂話の方が伝わりが早いという弱点がある。
ある日暗くって思わず言った「電気つけて」の言葉に、家族は首を傾げた。
この世界に電気はない。かわりに火の属性の人達が魔力を魔石という磨かれた石に込め、それを灯りとしたランプが一般的に普及していた。魔石は普通の人が持つ微々たる魔力にも反応する。ONとOFFは子どもでもできることで、念じるだけで良い。
奇異な目でみられないように、と別に見られたわけじゃないのに気をつけるあまり、わたしは大人しい内気な子として育った。
電気のかわりに魔力が存在しているようなこの世界で、わたしは10才の時神殿で魔力判定を受けることになった。
この世界では10才を基準に魔力判定を受ける。理由は子どもの頃は魔力が不安定で判定できないというものだったが、たまに例外も存在するらしい。
火の属性持ちの父、2年前に同じく火の属性持ちと認定された姉が見守り、他にも大勢の子ども達がひしめき合う中、認定用の直径30センチはあろうかという大きな水晶玉の乗る3つの台うち、左側に並んでいた。
それぞれの水晶玉の横には属性持ちの神官と魔法使いが見届け人として立っており、住所や氏名、簡単な家族関係の書かれた申請書を差し出すと、いやでも期待の篭った目で見られた。
水晶にはうちの一族独特の赤毛の強い茶色の髪をおさげにし、大きな茶色い瞳をしたかわいらしい(自画自賛)少女がうつっていた。
緊張から汗ばんだ両手で水晶玉に触れると、水晶玉が真っ赤になった。
こぶし大の何らかの光りが灯れば属性持ちと認定されるのだが、これはもしかして、とわたしもその時目を見開いて水晶玉を見ていた。
数秒で水晶玉は元の透明なものに戻ったが、静まり返った会場は数拍遅れてざわついた。
「おめでとう、君は火の魔法使いだ。親御さんとあちらへ」
神官が父と姉を呼び、わたし達は会場を出てすぐの部屋へ案内された。
この日、魔法使い認定されたのは100人近い子どもの中でたった6人だった。
部屋に集まった6家族を前に、1人の水の魔法使いがこれからのことを伝えた。
これから1ヶ月以内に師匠になる魔法使いが迎えに来るので、準備をして待っているようにとのことだった。数年をその魔法使いの下で修行し、国家登録されれば独立。つまり国の仕事に就きさえすれば、家族の元に帰ることも結婚することも自由だという。
大半の家族は戸惑っていたが、うちの父はどんな師匠がくるか楽しみだと笑っていた。
説明が終わり帰ろうとしたとき、父が魔法使いたちに呼び止められた。父の後ろで姉と2人手を繋いで黙って聞いていると、どうやら父の実家の話をしているようだった。
「”緋炎の魔女”の家柄ですか。どうりで強い反応があったはずです」
「と、なれば師匠は当代のリリシャム様という可能性が高いですね」
はははっと、わたしにとって一大事な師の話が世間話程度ですまされた。
おいおい、と突っ込みたいのを我慢していたら、横から姉が「大丈夫?」と心配してくれたのを覚えている。
2週間後、問題の師匠がやって来た。
誰よりも迎えが早かったが、わたしが落胆するのも早かった。
”緋炎の魔女”は大昔世界を平定したという7人の魔法使いのうちの1人で、名をリリシャムといった。だからその子孫で最も強い火の魔法使いは、性別関係なく彼女の名をとって第○代リリシャムと呼ばれる。そしてどんな時代も国の要職に就いていた。
当代のリリシャムは父方の祖母の妹だ。
御年63才。独身。
これ以上のことを父は言わなかった。
いや、言えなかったのだろう。
もし父から全て聞いていたら、わたしは泣いて師匠の交代をお願いしていたに違いない。
豊かな赤みの強い茶色の長い髪はゆるやかなウェーブで背中に垂れており、美しい部類に入るだろうその顔は、切れ長の茶色の瞳が細められ赤い唇が弧を描いているせいか悪女のように見える。だが、とにかく見ためは40代といった感じだ。背も高く、すらっとしているようだが、体の線はローブに隠されていて見えない。
「お前がわが姉の孫のアリス・マーレイン?あたしは今日からお前の師になるジェシカ・リリシャムだよ。いつかアリス・リリシャムになれるよう頑張りなっ!」
体育会系の激励を受けたわたしは、ただただ彼女のローブの色が目にイタく映っていた。
「返事は!?」
「はいぃっ!」
ぴんっと背をのばして返事をすると、ピンク色のド派手なローブの師は満足気にうなずいた。
これがファンキーな若作りばぁー……、いや、美魔女との出会いだった。
毎回2500~3000文字くらいで進めていきます。
誤字の多い私ですので、どうかご指摘よろしくお願い致します。
本日は読んでいただきありがとうございました。