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ふくらし魔女と苦労性伯爵  作者: 上田 リサ
2.過保護な祖父と大家
19/81

18 話

こんにちは!連続投稿は今日までです。すみません。

 海賊が討伐隊と戦って逃げた。


 サマンドではそう噂されていた。

 人々は討伐隊からまんまと逃げた海賊に賞賛のため息をもらし、やはり寂れた港にはそれなりの兵しか派遣されなかったのだ、と諦めに似たため息をもらしていた。

 でも事実は少し違った。

 海賊の武器があまりにすごかったのだ。

 軍しか持っていないような破壊力のある魔砲台。それを数台も所有していた。

 カイン様と討伐隊の隊長はすぐさま増援を要請したらしいが、それが来る前に討伐隊が海賊に負けるようなことがないとも限らないという。だって討伐隊の魔法使いは2人。火の魔法使いは未登録、つまり半人前扱いの魔法使い。ディゼ氏は風の魔法使いだという。戦力としては不安があるのだ。

 朝市でパンを売りながらそこかしこで噂されるのを聞き、わたしは売り切ると急いで家に帰った。

 「ただいま!ジェシカさんいるーっ!?」

 大声で2階に向け声をかけるが、なんの返事もない。

 昨夜は顔を見なかった。最近は夕食くらいまでには戻ってくるようになっていたのに、とわたしは返事のない2階をじっと見ていた。

 「ジェシカなら夜中に出て行ったぞ」

 外から入ってきたザッシュさんを振り返る。

 「また!?」

 「仕事かもな」

 「仕事よりローウェスの海賊だよ!イパスさんから聞いたけど、魔石を使った魔法具の武器を持ってるって話しだし、正直ブランじゃ歯がたたないよ」

 「そんなことを言っても、魔法使いの仕事は魔法省が決めることだ」

 ぶすっとわたしは口を尖らせ、庭で飼っている鶏の卵をザッシュさんからもらい、そのまま朝食の準備に取り掛かる。

 無言で朝食の目玉焼きをパンに乗せて食べていたわたしに、ザッシュさんは厳しい目を向けた。

 「アリス。間違っても関わるんじゃないぞ」

 「わかってます!わたしじゃ役にたちませんからっ」

 「店はまだ出るのか?」

 ぎょっとわたしは目を大きくした。

 今までザッシュさんからは、1度も働くことに文句を言われたことがなかった。

 「……ザッシュさんも店に出ないほうがいいって言うんですかっ」

 「今回の海賊はいつもと違うからな」

 「大丈夫です。いざとなったらフーちゃんに乗って逃げますから」

 ふんっと顔をそらしてパンを食べ続ける。

 「どうかな。お前が襲われている人を、見捨てて逃げるような奴なら心配しないがな」

 「……それは……」

 「できないことを言うな」

 ぴしゃりと言われ、わたしは残りのパンを無理やり口に入れると、そのまま部屋に逃げるように戻った。

 そしてじっと寝台の上でうつ伏せになっていた。

 特にいいアイデアも浮かばず、わたしは何度目かもわからないため息をついた。

 そこにトントン、と部屋のドアがノックされた。

 「おい、今からローウェスに行け」

 返事より先にザッシュさんが話しだした。

 「行って海賊がどう攻撃してきたか聞いて来い」

 「え?」

 どういうことだろう、と寝台をおりてドアを開けるも、そこにはザッシュさんの姿はなかった。

 とりあえず理由を聞こうと家の中や外を探したが、結局ザッシュさんは見つからなかった。まぁ、これもよくあることだ。

 彼が何者なのか……それは考えないことにしている。

 とにかく、わたしはザッシュさんから言われたようにローウェスへ向かうことにした。

 日中なので人目があるからフーちゃんには乗れず、とりあえずいつもの時間に店にお迎えに来てもらうよう頼んで数時間かけ、乗り合い馬車でローウェスへと向かった。ちなみに馬車には3人しか乗っていなかった。

 


 

 昼をずいぶん過ぎた頃、ようやくたどり着いた時にはお尻が痛くなっていた。全身がきつい。フーちゃんのありがたみが良く分かった。

 まずは港へ行ってみた。

 閑散としている港の両端には、見張りを兼ねた(とりで)がある。警備の兵とログウェル家に雇われた私兵が生活している。今は討伐隊も滞在しているそうで、砦はかつてのように人の往来が激しいものとなっていた。

 そんな砦の間にある港には、商船が1隻滞留しており、後は地元の漁師の船がズラリと並んでいる。最近は漁自体も個別に行くのではなく、まとまった数で出ろと言うお達しがきたそうだ。

 「おーい、アリスかぁ!?」

 少し離れたところから呼ばれ顔を上げた。

 誰かが手を振っており、その横にも誰かがいる。

 良く見ると手を振っているのはブランだった。隣にいたのは店で何度か見たことがある男性が一人。

 足早に近づいてきたブランと向かい合うと、おやっと彼は首を傾げた。

 「あぁ、お前ニセ乳か!」

 「んなっ!?」

 どこ見てるんだこいつっ!と怒鳴る代わりに、わたしは驚いた顔を無理やり引っ込めにやりと笑った。

 「あぁ、あんたはでかいのが好きなんだ。へぇー」

 ほぼ棒読みで言えば、ブランはようやく自分の失言に気づいたようだ。あわてて顔色を変え、違うんだと言わんばかりに首を振った。

 「うわっ、その、ごめん!」

 「んーっ、どうしようか」

 「頼むよ!あれから領主様から結構冷ややかにいびられてるんだぜ!?」

 「んーっ、仕方ないんじゃない?」

 「そんなぁっ!」

 情けない声と顔になったので、わたしはぷっと吹き出した。

 「冗談よ。ま、ニセモノなのは本当だしね」

 「そうだろうなっ!前からあったほうだったけど、あそこまででかくなるわけないしなっ!」

 「…………」

 「……ごめん」

 調子に乗ったブランを目線で黙らせると、その後ろからようやくさっき並んで歩いていた男性が追いついた。

 初老に入ろうという年だろうか、短い黒髪には白髪も目立つ。だが、体はがっしりと大きく、眼光も鋭く顎から右耳にかけて大きな傷がある。簡素な胸当てだけをしており、右足を庇うように歩いてきた。

 「酒場の姉ちゃんじゃないか」

 「こんにちは、えーっと……砦の方ですよね?」

 「ドイルだ。なんか、昼間見ると違う気がするなぁ」

 そう言ってじろじろわたしを見出した。隣でブランが「あちゃあ」と顔をしかめている。

 「気のせいか」

 「えぇ!?」

 驚きの声を上げたのはブランだ。

 お前、もう少しカイン様にいびられろ。

 「こんなとこでどうしたんだ?こっちの魔法使い様と逢引か?」

 「違いますよ。ちょっと見に来ただけです」

 にやにや笑うドイルさんは、ふと海のほうへ目線を投げた。

 「昼間は海賊が出ないという保証はない。さっさと帰んな」

 「昼もでるんですか?」

 「そうだぞ、アリス。お前一人でこんなところに来るな!お前今は使えないんだろう?」

 ブランに言われ、わたしはふんっと鼻を鳴らし顔をそらした。

 「なんだ、やっぱり知り合いか」

 「こう見えても元魔法使いの卵なんですよ。今は事情があって離れてますが」

 「へぇえ、そりゃあまた驚きだな。あの酒場に魔法使い様が働いてるなんてな」

 「魔法使いじゃないです。今は一般市民として生活してますから」

 つんっとして言えば、ドイルさんはわははっと豪快に笑った。

 「まぁ、人間いろいろ事情があるな。そりゃあ仕方ないな」

 理由を聞きたがるのかと思ったが、あっさりドイルさんは引いた。

 どうやら他人にあまり干渉しない性質らしい。傭兵には多いと聞く。

 「あの、その話は……」

 「あぁ、わかってる。別に言うつもりはないし、俺には関係ない話だからな」

 大丈夫だ、と片手をひらひらさせて、人の良い笑みを浮かべる。

 「それよりアリス、お前何しにここに来たんだ?」

 「あ、そうだった。いや、ちょっとこの間の海賊の話を聞きに来たんだけど、ちょうど良いから港も見ておこうかなって思って」

 「無用心だな」

 はぁっと呆れたような顔でため息をつかれた。

 「ブランは?」

 「俺は仕事だ。昼間の港をもう1度しっかり見ておこうと思ってな。でも1人じゃ危ないからってドイルさんに一緒に来てもらったんだ」

 「俺はこの間の戦闘で足やられたからな。暇なのさ」

 ほれ、と庇っている右足を指差した。

 「ドイルさんは、その、海賊が持ってた武器を見たんですか?」

 様子を伺うように切り出すと、ドイルさんは「見たぞ」とうなずいた。

 「どんな武器でした?砲台って聞いたんですが……」

 「アリス、その話は緘口令がひかれている。どこから聞いたんだ」

 「……噂よ」

 ブランは片手で頭をかきながら、はぁっとため息をついた。

 「人の口に鍵は、てやつか。こっちの失態だってのに」

 「仕方ないよ。魔砲台なら砲弾の数倍の威力があるっていうじゃない」

 「確かにありゃあ、すごかったな」

 思い出すようにブランさんが口を開いた。

 「3隻の船から5、6発の火柱と水柱が発射されて、こっちの方がでかい船だって言うのに大きく揺れて穴が開いて、どうにか応戦したが砲弾があっちに届いたかどうかはわからなかったな。なんていうかずっと発射されたままの状態だったからなぁ」

 「発射されたまま?」

 わたしが首を傾げると、ブランが補足してくれた。

 「ほら、授業で習ったろ?魔石を使った魔砲台は特大魔石を使うので消耗が激しいって。それで魔砲台の負担を軽くするため、魔石の力を数回から数十回に分けて発射するのが基本だって。やつらはそれをしなかったんだ」

 「つまり、ビームだったと?」

 「びーむ?」

 あ、こっちにはない言葉だった、とわたしはあわてて言いなおした。

 「あの、ようするにわたし達が魔力の持久力を上げるためにやってたアレよね」

 「そうそう。ずーっと火を出し続けるアレさ。それが砲台から出たんだ。多分十数分もないくらいだったけど、ずっと全力放出されてさ、さすがに撤退するしかなかったなぁ。俺1人じゃあれは防げない」

 「あのさ、使われてる魔石って特大サイズだよね。魔力の補充とかどうしてるのかな」

 「知らねぇよ。特大サイズの魔石を所有してるってだけで管理が厳しいんだ。補充するにも1つ満タンにするには、属性持ちが3人は必要だろうし、時間もかかる。あれだけ使ったんだから、もし補充するにも結構な日数がかかるし、補充をするってことで足がつかめるかもしれない」

 「だといいねぇ」

 まさか海賊の中に属性持ちがいっぱいいるとか、は考えられないな。海賊になるより属性持ちの利点を活かして仕事したほうが、収入も安定してるし安全だ。

 「人攫いの話も聞かねぇらしいし、ここら一体の属性持ちの調査を急いでるから、そのうちはっきりするさっていうか、お前帰れ」

 「帰るわよ。ブランも怪我しないように頑張ってね。ドイルさんもお大事に」

 「また店でな!」

 にかっと歯を見せて笑ったドイルさんに、わたしは軽く頭を下げて港を後にした。

 

 そして夜、少ないお客に混じってブランとドイルさんが来てくれた。

 カイン様やディゼ氏は忙しく来れないそうで、それなら、とわたしは店主に持ち帰り用として料理を数品用意してもらった。もちろん自腹だ。

 ブラン達が料理を食べ終わる頃を見計らって、わたしは席に持ち帰りの料理を入れた麻袋を渡した。

 「容器は今度持って来てね」

 「わかった。ちゃんと届けるよ」

 受け取ったブランは、麻袋からわたしに目線を上げる。

 「あのさ、お前、あの領主様の何なの?まさか恋人ってわけじゃなさそうだけど……」

 「まさかっ!えーっとね、そう、ばぁーちゃん経由の知り合いなのよ」

 嘘じゃないからいいかな。

 ばぁーちゃんの言葉に、ブランは「あぁ」とすぐさま納得してくれた。

 さすがばぁーちゃん。

 ……ただ、どんな認識されているのかは知りたくない。

 ブラン達が出て行ってそう長くない時間で店は閉まった。

 閉店後、店主がみんなを集めてこれからの話をした。つまり、営業時間の短縮と客の減少により出勤人数を減らすと言うのだ。当然注文受けも接客もできるお姉様達が優先されることになり、わたしのような注文受けしかしないウェイトレスは大幅に出勤数が減ることになった。 

 これも海賊騒ぎが治まるまでだからな、とすぐには辞めるなよと店主はクギをさしていた。


 

 ただいまーと、フーちゃんに乗って帰宅すると、いつものようにザッシュさんが出迎えてくれた。

 「明日から2日、お休みになりました」

 「そうか」

 「おかげで稼ぎが減ります」

 「海賊が片付くまでだな」

 ザッシュさんはいつものように2階にはいかず、イスに腰掛けた。

 「どうだった」

 「……海賊は魔砲台を5、6台も持っていたそうです」

 「ほぉ」

 「しかも一斉に全力放射し続けたみたいです」

 「ふぅん」

 「カイン様達は魔石の補充から手掛かりが得られるんじゃないかって話してるそうです」

 「それをお前にしゃべった口の軽い馬鹿がいるんじゃ、話にならんな」

 ……ですね。

 わたしはブランを思い出し、はぁっとため息をついた。


読んでいただきありがとうございます。

次回更新は10/7(月)6時です。よろしくお願い致します。


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