10 話
こんにちは。
誕生祭の翌日、我がアンバシー国中にどよめきが走った。
そう、あの宝クジの発表がなされたのだ。
あ、ちなみになぜ王都と地方での発表に誤差がなかったかというと、事前に領主に知らされて一斉告知するように厳命されていたらしい。
さて内容だが、大通りの数ヶ所に立て札があるらしい。
その日1日立て札の前には人だかりができており、詳しい話は夜の店で聞いた。
「すごいよね、金山だって。しかも今も採掘されてるちゃんとした金山らしいし」
「まぁ、子どもに当たっても仕方ないからってことで、神殿登録が確実な10才以上の国民対象らしいがなぁ」
「どれだけ確立低いんだよ、1人だろ?」
「一攫千金ってやつか!?」
「えー、当たったらちょっとちょうだいねぇ」
「お前こそ当たったら分けろよ。俺達だいぶお前達に貢いでるんだからな」
「ちげぇねぇ!」
わはははっと大きな笑い声が響く。
今日の話題はそればっかりだ。接客嬢のお姉様方も今日の話題はこれだけでいいと、あちこちで同じ話を何度もして、聞いている。開店前に「今日の話題は決まってるから楽ね」と笑っていたお姉様方だったが、閉店間際の頃には「もう、うんざり!」と顔に出していた。そりゃあウェイトレスのわたし達だって聞き飽きたのに、席で相手する彼女達は想像以上にうんざりしてそうだ。
帰り際、接客嬢のお姉様方が集まって今後の対策を練っていた。つまり、ここ数日はあの話題ばかりだから、それをどうにか切り上げさせ違う話題に食いつかせようということだった。
どうぞよろしくお願い致します。
月が替わり春になったとはいえ、夜はまだまだ寒い。
今夜もブローチをつけたフーちゃんに乗って、分厚い手袋をした防寒着で飛んでいた。
でも、ちょっとだけ温かいところがある。
お腹に大事に抱え込んだ袋の中身は、まだ温かい煮込み料理が包まれていた。
同じ話題にうんざりして疲れたわたし達に、店主が「頑張れ」と慰労の意味で夜食を作ってくれたのだ。揚げ物もあったが、明日の朝食べようと煮込み料理を包んでもらった。鶏肉と根菜をじっくり煮込んだトマト味で、なかなか食がすすむ一品なのだ。
そろそろサマンドの町、というところで、わたしは本当に突然思い出した。
……伯爵、どうしてるかな。
サマンドの町の東の丘の上にログウェル伯爵邸はある。実際行ったことはないが、町から見上げると白いレンガの壁で覆われているようだった。
「フーちゃん、ちょっとだけ寄り道していいかな?あの伯爵様のところに」
ダメならそのまま真っ直ぐ帰宅するだろう。
だけどフーちゃんは少し方向を変え、東の方へ向かってくれた。
やがて着いた先は、大邸宅というお邸ながら、明かりの1つも灯っていない真っ暗な建物だった。
今夜は半月がでているので、わたしもランプを持っていないが、寝静まっているにしては暗すぎる。
王都にあった貴族の邸は、警備のためにある程度の灯りが灯されていることが普通だった。地方の領主といえど伯爵家。こんな真っ暗では警備もなにもない。
すぃーっとフーちゃんは高度を下げて近づいた。
白い壁の内側には庭が広がっているが、お世辞にも美しいとはいえない。草木は伸び放題で、どうにか門から邸までの石畳だけはわかるくらいだ。
お邸もそうだ。白かっただろう壁は雨風によってかなり汚され、見方によっては放置されている無人のお邸といった感じだ。
逼迫してるとは聞いてたけど、これ程とは。
「あっ」
そんな真っ暗なお邸の中、本当にうっすらと明かりが見える窓があった。
そぉっと近づいて、バルコニーの壁からそぉっと頭だけ出して中を覗いてみた。
カーテンがかかっていたら、きっとその明かりも見えなかっただろう。だがその窓はカーテンが開いており、窓から少し離れたところにある机の上で、ろうそくが小さな明かりを灯していた。その机にはぐったりと手を投げ出すように、机につっぷしている男性の横顔が見えた。
……寝てる?
貴族なのに魔石も使わずろうそくとは……、どうやら本格的にヤバいようだ。
じぃっと観察していると、なんだか顔色が悪いように見えてきた。
……まさかまた空腹で気絶してるとか?
でもここ自宅でしょ、とその考えを振り払おうとするが、1度倒れている姿をみているのでどうにも嫌な予感がしてならない。
「フーちゃん、急いで帰ろっ」
かなり飛ばしてもらって帰宅する。
いつも通りザッシュさんに挨拶して、彼が2階に上がったのを確認したら、わたしは大急ぎでパンを形成して焼いた。ついでに賄い料理も温めてバスケットに詰め込む。
「フーちゃんまたお願い」
玄関ではなく部屋の窓から飛び立つと、わたしは再びログウェル伯爵邸を目指した。
数分もせずに到着すると、またバルコニーからこっそり中を確認する。
あいかわらずの格好で彼は机にいた。
そっとバルコニーの内側にバスケットを置くと、今度は窓の上部から逆さまになって窓を軽く叩いてみた。
しかし、彼は微動だにしない。
しかたないな、とわたしはちょっと強めに叩いてみた。
まだ起きない。
くっそぉ!これでどうだっ!
強く握った拳でガンガン叩いてみた。
そしたら、思わぬところから返事があった。
「誰です?」
びくっとして顔を半分だけ振り向かせると、バルコニーで繋がった隣の部屋から黒っぽい服をきた誰かがこっちを見ていた。
見られた!?
それから先はフーちゃんが早かった。
びゅんっと振り落とすような勢いで上昇すると、そのまま飛び去ったのだ。
これまでで最高のスピードで飛んだフーちゃんは、そのまま家へと戻ってくれた。
一応フードは被ってたけど、絶対マズい。
毛布を頭から被っていろいろ考えたが、やはり一番マズいのは、魔法使いじゃないのに国に数えるほどしかない飛ぶ魔法具を使っていることだろう。そこからばぁーちゃんのことがバレる可能性が高い。そして何よりわたしがばぁーちゃんにこってり叱られる。最悪多額の罰金、そして強制的にエリートコース行きだ。
うわぁああああああああ!!どうしよーっ!
結局わたしは不安のあまり眠れなかった。
そして具合が悪いと朝のパン作りもしなかった。
ザッシュさんは何も言わず、ばぁーちゃんは部屋に篭っており、わたしはもし伯爵が来たらどうしようとばかりを考え毛布を被ってその日夜の仕事までおとなしくしていた。
そして夜の仕事はミスを連発した。
最初は怒られたが、顔色の悪いわたしを心配して店主から早退を言い渡された。
心配する同僚の視線を背に、わたしは店を出て裏からそっとフーちゃんと帰路についた。
何度かログウェル伯爵邸の動向が気になって、ちょっとだけ見てみようかと思ったが、なんだか怖くなって真っ直ぐ家に帰った。
「ただいま……」
たいして働いてもいないのに、思いっきり疲れた声を出して玄関を開けると、まだ夜中ではなかったせいか明かりがしっかり灯してあった。
「やぁ、おかえり。アリス」
若い男性の声に、わたしは弾かれたように顔を上げた。
目線の先には仏頂面でわたしを睨むザッシュさんと、長椅子に座っている輝く笑顔のカイン様の姿があった。
終わった!!
わたしは腰が抜けたようにその場に座り込んだのだった。
はい、揃いました~。
今日も読んでいただきありがとうございます。




