序章
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ここは港町ローウェスの大きな酒場。
樽酒のイスに座って飲む男達は、そのほとんどが今日陸に上がってきた船乗りだ。
焦げたような肌に傷、老若問わずに体格は良く声も大きい。良く食べ良く飲み、良くしゃべる。おかげで注文が聞き取れないなんてザラだ。
「アリス、6番テーブルだ」
「はーい」
この店はそこそこ繁盛し、大きい。
昼は定食屋としても開けており、夜は酒場と化す。だが、それだけではない。
この店には2通りの女の子がいる。
1つはわたしがやっているウェイトレスだ。黒い服を着て長いスカートに白いエプロンが目印で、軽いボディタッチ以外のお触りは厳禁だ。
もう1つはウェイトレス兼接客嬢だ。こちらは色とりどりの派手な色の服、というより衣装。胸もがばっと開けてるし、スカートには深いスリットが入っていて、別途料金を払うと席についてくれる。あとはその席の飲食代が彼女達の給与に反映されるので、容姿もだが話術も必要とされる。なかなか気も使うし大変な仕事だ。
ただ、共通してこの店は女の子の服が小さめ。体の線をしっかりだしている。
「お待たせしました、麦酒と若鶏の唐揚でーす」
笑顔で2つの木のカップと大皿を置くと、常連のおっさんが軽く酔ったまま肩をたたく。
「アリスも接客嬢になれよ、毎回指名してやるぞ」
同席する何人かも笑ってうなずくが、わたしは「えーっ」とわざと困ったようにあいまいな笑みを浮かべたまま首を振った。
「無理でーす。わたし美人じゃないし、座るよりこうして動いてるほうが性に合ってるの」
「大丈夫だ。お前はかわいいし、胸もでかい。座ってるだけでいいじゃないか」
「おーい、注文いいか」
隣から声がかかった。
「あ、注文だ。じゃ、ごゆっくり!」
さっと身を翻して注文を受けにいく。
その際に少しお尻を触られたが、このくらい何とも思わなくなってきた。むしろ次料理を運んだ時に触り返してやろう、という発想がでてくる。中には下心丸出しで危険な触り方をしてくる人もいるが、そういうのは接客嬢がさっと対応してくれる。ここは本当にいいお姉様方が多い。
今日は平日。店の営業は日付の変わるまでだ。
片づけをして、今日の分の日当を貰う頃には商業区であるここもほとんど暗闇になる。
「お疲れ様でした」
「じゃあまたねぇ~」
白い息を吐きつつわたしが頭を下げ挨拶をすると、同僚達は手を振って見送ってくれた。
(よし、これで今日も終わりっ!)
にこやかな笑顔を崩さないまま顔をあげ、わたしは1人店の裏にまわった。
きょろきょろと周りを見て、誰もいないのを確認してわたしは小声で呼んだ。
「フーちゃん」
ひょこっと、店の裏に積まれている酒の空樽の向こうから薄い茶色の柄の部分が出てきた。
そっと駆け寄ると、そこにはひょこひょこと動くホウキがいた。薄茶の柄の先には筆状に黄色い長く柔らかな毛がついている。毛をまとめる紐が赤と黄色の編みこみ紐で、リボン結びされているから『彼女』だろうと推測している。
なぜホウキが動くか。
それは知らない。ただ、魔法使いの秘密道具だという義祖母の話を信じるしかない。
「お迎えありがとう。帰ろっか」
フーちゃんに横座りすると、彼女はすーっと空高く舞い上がった。
まずは序章でした。
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