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プロローグ

「ふあぁぁぁわわぁあああぁぁぁぁ……」

 麗らかな陽気の春の昼下がり。座り心地のあまりよくないボロい椅子の背もたれに体を預けて天井の染みの数を数えていたら、とんでもなく大きな欠伸が出た。客のいない店内には店長の俺ひとり。別にいいよな、誰も見てないし。

 なんの気なしに、目の前のレジカウンター兼執務机上に置かれた、古ぼけた本を一冊手に取りぱらぱらめくってみる。見慣れた文字が流れていく。

「くわああぁぁああぁぁぁ……」

 また欠伸が出た。

 椅子から立ち上がり、狭いカウンター内で伸びをする。

「うー、ん……、わっ」

 大きく伸ばした右手が本棚にあたり、無理やり突っ込んでいた本が何冊か落ちる。

「わわわ」

 慌てて掴もうとするが、遅かった。数冊をきっかけに、その一角で雪崩が起きる。

「あーあーあー……」

 ほんの数秒で、見るも無残な状況に。

「やっちゃった……。また怒られるよ……」

 よっこらせ、とカウンターを乗り越え、本たちの救助に向かった時。

「たっだいまー」

 入口の硝子戸が開かれ、暖かな空気とともに制服姿の少女が入ってきた。黒髪ショートカットの、活発そうな女の子。頭のてっぺんやや横側の髪が、三角に立っている。

「あちゃー、何やってんのさ」

「ごめんごめん。またやっちゃった」

「もー、仕事ばっかり増やして。真面目に働く気あんの?」

「真面目に働いてるよ。客は来ないけど」

「自分の営業努力不足でしょ、文句言わないの。ほら、さっさと片付けるよ!」

 肩に掛けていたスクールバッグを床に置いて駆け寄ってきた女の子――みやびは、短いスカートを器用に畳んで本を拾い始めた。

「それでよく見えないな」

「何が」

「ぱんつ」

 しゃがんだ状態から一瞬で右ストレートが飛んで来て、鼻頭の寸前で止まる。

「口だけじゃなくてても動かしましょうね、ご・しゅ・じ・ん・さ・ま?」

 口の端をぴくぴくさせながらの笑顔を近づけて、ドスの利いた声を出すみやび。こんな喧嘩っ早い子にご主人様と呼ばれても嬉しくない。

 やれやれ、と思いながらも自分でしでかしたことなのでさすがに片付けに協力する。しゃがんで、一冊ずつ拾い上げていく。だいたいの本は表紙にも裏表紙にも背表紙にも何も書かれていない。

 適当にばさばさ重ねていたら、みやびが言った。

「ねぇ、真人」

「ん?」

 ちなみに俺の名前は柳瀬川真人。ついさっきはご主人様とか呼んだくせにすぐに慣れた下の名前の呼び捨てに戻っている。

「この本ってさ、大事なものなんじゃないの?」

 適当に一冊手に取りペラペラめくりながら、みやびが訊いた。俺には見慣れた、でも、みやびには一文字も理解できない文字が並ぶ。

「だって、全部頭に入ってるし」

 みやびはくるりと頭を巡らした。狭い店だが、入口以外の壁前面に本棚が設えられており、全部で千冊以上はあるだろう。

「はぁ」

 溜め息を零すみやび。そして呆れたように呟いた。

「これだから元大魔法使い様は」


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