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作者: 猫野沙子
掲載日:2026/06/22

家の中がやけに湿っぽい。


梅雨の時期に、じっとり湿った怪談話です。

 梅雨の合間の晴れた日に、石がごろごろしている海岸を散歩していた。波で濡れた石は、黒っぽい石がたくさんある中に白い石や赤い石、緑色の石などが混じって、案外カラフルな表情を見せていた。

「これ、きれいね」

 拾い上げた石を太陽にかざしてみる。驚くほど透明感があり、中心部に靄のようなものがある。石英質なのか波で洗われてきれいな楕円形になっているのもいい。中心部の靄は石英以外の鉱物か何かが入り込んでいるのだろう。それも味があっていい。


 私は石を拾って家に帰った。


 石は乾いても透明なままだった。普通は表面に細かい傷がついているから、乾くと曇るものなのだが、この石は磨き抜かれたようにきれいだった。

(誰かが落としたものだったのかな?)

そんな疑問が浮かんだが、持ち主など特定できるはずもない。磨く手間もないうえにきれいだし、そのまま私はリビングの眺めやすい場所にその石を飾った。


 石を拾った次の日から、また梅雨特有のシトシトと降る雨が憂鬱な気分にさせた。家の中も湿っぽい。エアコンで除湿しているが、もわっとした空気はなかなか抜けなかった。

「いつもならすぐに効いてくるのに……。エアコン、古いからかしら?」

 首を傾げつつも、普段通りに出勤し、家に帰ってきた。


 エアコンはつけっぱなしにしていたのに、じっとりと空気が湿っている。本格的にエアコンが壊れたのかもしれない。

「お財布に厳しいなぁ」

私はぼやいて、次の日、近所の電気屋さんに電話をかけた。


 週末、電気屋さんが来て、エアコンの調子を見てくれた。

「どこも悪くないよ。クリーニングだけしておくよ」

人のよさそうなおじさんがそう言って、エアコンのクリーニングをして帰っていった。


 エアコンをつけてみても、湿っぽさはあまり改善されなかった。カビが生えたらいやだし、私はしょうがなく除湿器をリビングに引っ張り出してつけた。煩いし、暖かい空気が出るから嫌だったけれど、カビるよりはいいだろう。


 私はそのまま買い物に出て、小一時間ほどして家に戻ってきた。除湿器のランプが赤く光っている。

「うそでしょ……?」

たった1時間ほどで除湿器の水が満水になっていた。気味悪く思いながらも、除湿器の水を捨てて再び稼働させた。

 それから買い物してきたものを仕舞い、夕飯の支度にとりかかり、夕食を食べ終わったころ、


 ピーッ、ピーッ、ピーッ


と、除湿器がけたたましく満水を告げた。ぞっとしながら、また水を捨てた。


 除湿器は私が寝るまで数回満水になった。不安な気持ちのまま、寝る前にまた水を捨てて除湿器を稼働させた。エアコンはずっと切っていない。明日は休みだから原因を突き止めようと心に決めて、眠りについた。


 翌朝、私は目を疑った。


 リビングの床に靄がたっていた。


 除湿器はランプを赤く光らせて、表面に水滴がついている。恐る恐るリビングに足を踏み入れる。水滴がついたフローリングで滑ってバランスを崩した。かろうじて転倒を免れた私は、リビングの窓を開けた。


 梅雨の晴れ間の強い日差しが差し込んだ。


 その光にきらりと海岸で拾ったあの透明な石が光を反射した。なんとなく気になって、手に取ってみる。しっとりと濡れていた。


「あれ、こんなに透明だったっけ?」


 中心部にあった靄が薄くなっている気がする。私は窓辺に行って石を透かして見た。


「やっぱり、靄が薄くなって……ひっ!」


私は石を取り落とした。カランカランと石が濡れたフローリングを転がった。


 石の中に、小さな顔のようなものが見えた。鼻と口元がはっきりと分かった。


(もしかして、これが原因?それに、顔……!全部見えたら、どうなるの?!)


私はあわてて、石をハンカチに包んで元の海岸に行って投げ捨てた。


 それから、家の中の湿気はなくなった。アレが何なのか分からないけど、私は2度と石を拾わないと心に誓った。


読んでいただき、ありがとうございます。


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