プロローグ 夕闇の帰り道
「……はあ」
夕焼けが赤く照らす、病院からの帰り道。『藤村 睦月』は、鉛のように重い無力感に苛まれていた。
難病で入院した親友は、日に日に肉が削げ、目に見えて命が削られて行く。睦月の脳内には、その様が残酷なほど目に焼き付いて離れない。医者もすでに匙を投げ、少なくとも苦痛の少ない最期を、と諦めている。睦月は、骨の浮いた顔で大丈夫だと精一杯笑う彼女に、自分は何もできないと、体中から血の気が引いていくような、苦痛の感覚を味わっていた。
「ジジッ……ジジジッ……」
睦月の抱えたクラシックなラジオ――『ラジー』が、スピーカーからノイズを鳴らす。その顔は簡素な図形で作られているが、今は、少し悲しげな雰囲気を醸し出している気がした。声を出せないラジーには、この無機質なノイズだけが、睦月への精一杯の慰めだった。
睦月は少しだけ、ラジーの気遣いに感謝した。言葉は無くとも、睦月は一人では無いと、彼は言っているのだろう。睦月はそっと、重量感のある、チーク材で構成されたラジーの表面を撫でた。
「……うん、ありがとうラジー。……もしも、『奇跡が起きれば――」
睦月の意識は、そこで暗闇に沈んだ。さっきまで睦月の影を落としていた筈の道は、それまでと同じく、夕焼けに照らされたまま、赤く、でもどこか昏い影を帯びて、そこに在るだけだった。
【バトルロワイアルをします】――無情な宣告が、誰かの口から吐き出された。




