32 トンネルでの怪異
霊感?誰からきいた?それ。僕が見えるって。…あーあいつか。まあ、見えるだけで何も出来ないけど。変に周りに話をして、怖がらせることもないだろ?変な人に見られることもあるし。んで、何か聞きたいことがあるのか?いやいや。なにか見えて、分かるわけじゃないけどさ。何ていうのかな。大体、聞いてくるやつってそういう人が多いし。でもさっきも言ったと思うけど、何か出来るわけじゃないからな。
……体験?俺の?
そんなの聞いてどうすんだよ。え、本にしたい?変わってるなーお前も。まあ、良いけど。
そうだなーどれが良いかな。
……じゃあ僕たちが大学生だった時に経験したことでも良かったら。多分、この話はしても大丈夫だし。
話してはダメな話も聞きたい?んーそれはダメ。絶対。僕も話したらどうなるか分からんし。でも知っている。というか体験したから。もうね、本当にまずいものには首突っ込まない方が良いよ。好奇心は猫も殺すっていうだろ?それ。まあ気をつけな。今…お前は大学院生だっけ?民俗学の。このまま、大学に残って研究するの?お前。うん…そうか。それも良いな。あ、お前、酒飲み終わったの?何飲む?僕も頼むから、一緒に頼もうか。新しい飲み物来たら話そうか。
あ、どうも。あ、このビールは彼ので。ありがとうございます。んで……体験、だったけ?僕の。そうだな。ほら僕らが入学した時って、同じサークルに所属してただろ?テニス部。そうそう。新入生の時、車に乗って温泉に行っただろ?僕ら。お前も行ったと思うけど。ただ、別の車だったじゃん。僕ら。先輩とか、その時に一緒に乗ってたキッシーとかもいたんだけど。でも、この話聞いたことないだろ?…ないだろうな。だって。
見えたの僕だけだったし。
それを車内の皆に言わなかったのかって?ああ。言わなかった。その怪異。話しても大丈夫って言ったけど。でも、今思い出しても怖いんだ。何だろう。この世に未練を強く残したっていうのが良く分かる出来事だった。
え、順番に?話してもらいたい?……まあ、良いけど。
さっきも言ったように、きっかけはサークル内で車を出して温泉に行った時だった。ほら遠いところにさ、ホテルにもなっている、お金を払ったら誰でも入れる温泉あるじゃん。そうそう、あのホテル。行ったの覚えてる?……あーあったなーそんなこと。思い出したわ。あれ、ゲーセンに行った時さ、人形とったこともあったよなー。うわ、懐かしい。それでさ、あの時。
行くとき、トンネル通ったじゃん。
そう、ちょっと長いトンネル。なんだよ、お前も覚えてるじゃん。
そこ行きの時からなんだけどさ。俺。
変な声が聞こえるの。
どんな声かと言うとさ。何ていうのか。なんか唸っているというか。苦しくて、憎くて。でも言葉に出来ない。だけど何か言いたいけど唸ることしか出来ない。そんな声。声は男なのか女なのか、老人なのか若いのか、それとも子供なのか。分からなかった。色んな声色だった。だけどそれを聞いた時、体中の毛が一気にさ、逆立って。うわあ、こわって思ったんだ。でもそれなりのスピードで車走って抜けてくれたから、数分だったけどさ。それでも、凄く怖くて。多分、僕だけ感じていたんだろうけど。
周りの気温が1℃か2℃ぐらい下がったような気がしたんだ。
その声を聞いた時な。
うわあ何だったんだろう。って思って、遠くなるトンネルを後ろを振り返ってみていたら、運転していた先輩から声かけられて。あのトンネル気になる?って聞かれてさ。素直にちょっと気になります。って言ったんだ。その先輩が、これ、噂なんだけどって前置きして話してくれたんだけど。
あのトンネル、人柱が埋まっているっていう話なんだ。
そう言ってきたんだ。その話、しってた?お前。……あ、知ってたんだ。やっぱり。有名なの?それ?うん。うん。へえーそうなんだ。オカルト界隈だと、心霊スポットなんだ。内心、ちょっと納得した。だからかーって感じで。キッシーとかはさ、人柱って何ですか?って聞いてて。ほら、あまり聞きなれない単語じゃん。普通に生きていたら聞かないしさ。そんな言葉。そしたら先輩がさ、説明するんだよ。
トンネルのコンクリに、人を埋めるって。
それを聞いたキッシーはちょっと怖がってたけどな。実は、他にも女性の先輩が乗ってたんだけど、その人はものすごく怖がってて。え、初めて聞いたんだけどって感じで言ってて。ちょっとやめてよー本当に。って言ってたんだけど。その反応が面白かったのか、運転してた先輩がさ、なんか面白がっちゃって。
じゃあ、帰りの時、少しじっくり見てみる?って。
キッシーも女性の先輩も…なんて名前だったかな…忘れちゃったんだけど。その2人は嫌だ―やめようよーって言ってて。それを明るく笑う先輩。そんな車内だったんだ。そんな雰囲気だったから…その時は、冗談で言っているんだなーって感じだった。先輩も面白い人だなーって思ってたんだ。
それで温泉入って、お前らと一緒に温泉終わってからゲーセンで遊んだりしてさ。さあ、帰ろうって時にまた僕、同じ先輩の車に乗ったのね。違う人の車に乗った方が良いかなって思ったんだけど。でも行きの時の雰囲気も良かったし、またあの先輩と話したいなーって思ってたから、先輩の車に乗ったんだ。そしたらさ。キッシーも乗ってきて。車内のメンバーを見ると、行きと同じメンバーでさ。
そしたら、運転手である先輩もそれに気が付いたらしくて。バックミラー越しで少し笑ったのが分かったんだ。ニヤリって感じでさ。あ、これもしかして。って思った瞬間に先輩が言ったんだ。
例のトンネル。入ったらゆっくり走ってみてみるか。
それを聞いたキッシーと女性の先輩が嫌だよーやめてよーって言ってたんだけど。僕は、あ、これ本当にやるなって思ったんだ。なんとなくだけど。それで、僕以外の2人の悲鳴を聞きながら車は出発したんだよね。
それで、あの温泉からトンネルまで1時間ぐらいかかるじゃん?それでその間は他愛ない話しててさ。それで先輩が笑いながら、もう少しで着くぞって言うんだ。車内の会話が楽しかったから、僕、すっかり忘れてて。あ、そういえばって思って。そんなこと言ってたなって。もう、いいじゃん、それって女性の先輩が言ってくれたんだけど。でも、せっかくきたし、車止めることはしないけどゆっくり見てみようってことになったんだ。バックミラーからは先輩の顔を見れなかったんだけど、鼻から下は見えたんだ。その…口がさ、不気味になんか嫌な笑い方をするような感じでさ。そこで僕はちょっと鳥肌がたったんだ。うわって。嫌だな。早く帰りたいなって思ったんだけど。乗せてもらっている以上、なんも言えなくてさ。それで例のトンネルに入ったんだ。
真ん中過ぎるぐらいから少しゆっくり走ってさ。トンネルのライトってなんか淡いオレンジ色みたいないろだろ?その灯りが、とっても冷たく思えてさ。よけい鳥肌がたったのを覚えている。キッシーはなんか恐る恐る外を見てたかな。お前はどうだった?……寝てた?らしいよな。まあ温泉の後って疲れるからな。あ、そういえば他におつまみ頼む?おう、良いよ。それにしようか。あ、2つ頼もう。
それで?ああ。それでさ。僕は…なぜかトンネルの壁から目が離せなくなってさ。逸らしたい気持ちが強いんだけど。でも。
首が無理やり向かされているような感じで、動かせなかったんだ。
経験上、あ、これヤバい。そう思った。でもどうしようもなくてさ。じっと壁を見ていたんだ。もう少しでトンネル抜けるって時だった。女性の先輩が早く出よう、もうー!って声がどこか遠く感じててさ。でも運転している先輩がさ、もう少しだからっていうやりとりを聞いて少し気が緩んだんだよね。ああ、終わる。良かったーって。何も見えないし目もつけられてない。流れ行くトンネルの淡いオレンジ色した灯りで映されている灰色のコンクリを見ながら、そう思った時だった。
壁から、顔が出てきたんだ。
コンクリの肌がそのまま顔の形状に変化した、そう言った方が良いかな。そうそう。それを見た時。すべての時間がゆっくりになった。何も周りが聞こえなくなって。早く通り過ぎてほしい。早く早く。そう思ってもすべてがゆっくりだから、その顔も通り過ぎるのがゆっくりで。うわあ、変なの見た。でもその顔は目を閉じていたから、見つかってないなって思ったんだ。でも、そう思った瞬間。
目が開いたんだ。
見つかった。そう思った。
目は…真っ暗だった。コンクリの壁にないはずの暗闇だった。その暗闇に吸い込まれるようなそんな錯覚を覚えた。ただ…多分、一瞬の出来事だったんだとは思う。気が付いたら。
もう僕たちは、トンネルを抜け出していた。トンネルを出ると少しずつ元の速度で走り出す車。僕は動くようになった体でトンネルを振り返ったんだ。そこにはね。
黒い人影が沢山あった。
夜でも分かるぐらい。夜の暗さとは違う暗さ。何ていうのかな。うまい比喩が思いつかないな。ん?あー墨汁?そうだな。薄い黒い背景に墨汁で描かれた墨絵みたいだったな。さすが。あれが…あれが何だったのか。なんとなく分かるだろ?僕は温泉以降、そのトンネルに近づかないようにしたんだけど。実は後悔したことがあるんだ。
運転していた先輩に教えて上げれなかったこと。
実はさ。トンネルを抜けた後、運転していた先輩を見たらなんか変な黒い靄みたいなのがまとわりついていたんだよね。あ、やばいかも?と思ったんだけど…でも、僕が見えることをその時は周りに言ってなかったし。もし言ったら…って思うとさ言えなくて。お前も知っているとは思うけど。その後、運転していた先輩は。
半身不随の怪我をした。
先輩が怪我した時、僕は後悔したね。お祓いとか何にも出来ないけど。少しは教えてあげることが出来たんじゃないかって。だから、僕さ。キッシーと女性の先輩だけは、教えておこうと思ってさ。周りに言わない約束させて、トンネルでのこと話して、一緒にお祓いに行ったんだ。
そこから…そこからなんだけど。少しずつ。見えるものが増えたんだ。僕。どんなのだって?えっとね。その人に降りかかる不幸とか、悪い事かな。
だから今日、お前を今日、久しぶりに声かけて飲みに行こうと言ったのは…ちょっとな。不安?まあ不安になるよな。お祓いは出来ないけど、教えることは出来るから。似たようなこと?ああ。今はあまりしてないけど、今後は見知らぬ人でひどい人には声かけようかなって思う。ナンパ?違うよーって言ってもそう思われる可能性はあるか。でもまあ、声かけ続けるしかないよな。
ん?ああ。そうそう。今後な、お前の。……なんかお前にもな。言いにくいんだけど。
黒い靄が肩についているんだ。
あの半身不随になった先輩のように。
怖い?そうだよな。今回、飲もうと言ったのはこれを伝えるためってのはあった。どうやって切り出そうかと思ったけど、お前から話を聞きにくるとは思ってなかった。反対に助かったよ。あとな、ちょっと見えたんだけど。
お前は、今後、いろんな話を聞く。
多分、僕の予想だけど。山、人形とか、あとは何だろう…なんか色々と人づてで聞くかもしれない。友達から、知り合いから、もしくは旦那から、奥さんから、同僚から、お客さから、そういう人から聞くかもしれない。それがお前にとってどうなるか、そこまでは見えないけど。
その都度、今回だけじゃなく、お祓いしにいきな。念のため。んで、いつ空いている?うん。この週?土曜日で良いか?そうか。分かった。迎えに行く。絶対。ああ。予定しておいてくれ。
自分自身?あー見たことないかな。でも…きっと…例えばだけど。道端で出会った、人にも声をかけれるようにしたいかな。例えば大きな怪我とか亡くなってしまうような事件に巻き込まれそうな人とか。まあ話題にでたけどナンパみたいに見えるかもしれないけど。でも、めげずに声をかけたいよな。
…それが。
それが俺が出来ることだから。
これで完結となります。ありがとうございました。




