31 幼いころの怪異
怖い話?
なんだ、集めてるの?え?取材?そういった取材しているんだ。へーそんな取材されるの初めてかも。だけどあいにく、怖い体験は俺にはないよ。だって、そんな心霊スポットとか行ったことないし。罰当たりみたいなこともしたことないし。
ただ…不思議な体験だったらあるけど。
それを聞きたい?そうなの?怖い話だけでなく不思議な話も集めているん?なんか…大変だな。取材って。雑誌とかに乗るの?…本に?そういえば叔父さん、記者じゃないもんね。何しているの?仕事。…民俗研究?ふーん。何か面白そうなことしているよね。
でも、叔父さん。分かっているとは思うけど、俺にも家族にも霊感みたいなのはなくて。それは叔父さんもそうだとは思うんだけど。だけど…1回だけ…本当に1回だけ普通じゃないことが起きたんだ。どういったこと?えっとね…なんて言ったら良いのかな。んーそうだな。
僕だけが見えるトラックがあったんだ。
どういうこと?どこで?ちょ、ちょっとまって。そんな前のめりに聞かないでよ。えっとね。あれは…そう、小学生に上がる前。直前だったかな。保育園の帰り道だったんだ。よく覚えている?そうかな?そんなもんじゃない?え、叔父さんは覚えてないの?そうなんだ。どこまで覚えているって聞かれても…笑わないでよ?
実は、うちのお母さんのお腹の中にいた時から覚えている。
まあ、途切れ途切れだけどね。記憶は。ああ。ごめん。話がそれちゃったね。それで…うちの両親って共働きじゃない?叔父さんのとこもそうだけど。それで、朝と夕方はいつもお父さんが送り迎えしてくれてたんだけど。偶に、お母さんが迎えに来てくれた時があったんだ。本当に偶にだけど。ほらお母さん、学校の先生やってるじゃん。それで学校が夏休みとか、冬休みとかそういうお休みの時。保育園もお休みあったけど、お休みが被らない日に来てくれてたと思うんだ。今思えばだけど。
お父さんが送迎してくれる時っていつも車だったんだけど。お母さんが迎えに来てくれた時って歩きなのね。ほらあの坂を上って…そうそう。それで近くに公園があるの、分かる?そう。ブランコと小さなベンチがあるだけの。本当に小さな公園。その公園の近くでね。
大きなトラックが歩道を遮るように止っていたんだ。
うわあ、大きなトラックだなって思ったんだけど。同時にどうやって通るんだろう?って思ったんだ。でもうちのお母さん。
そこに何もないかのように歩くんだよ。
俺の手を引いて。
え?って幼心ながら思って。どうしたんだろう?なんで?って思ってね。びっくりして…その何も言うことが出来なかったんだ。声を上げることも出来なくて。でも…今思えば。なんだけど。なんか、周りが不自然なほど静かだったなって思うんだ。本当だよ?覚えているから。それで少しずつ、トラックが大きくなっていって。それで…なんていうのかな。見た時、ビックリしたんだけど。その…運転席が。
血まみれだったんだ。
内側のフロントガラスも血まみれ。それで運転席は見えないのね。ところどころ黒いところがあったりして。運転手の姿は見えなかった。それでもうちのお母さんは何もないような感じで歩いてて。もう少しでトラックにぶつかるって思ってちょっと立ち止まったんだ。うちのお母さん、俺の方を振り返って不思議そうな顔をしてさ。どうしたの?何かあった?って聞くんだ。でも、俺…何て答えたら良いのか分からなくて。だけど一言だけ言ったんだ。えっと、お母さん、トラック。って。だけど、うちのお母さん、余計少し笑いながら俺の方を見ながら、うん?どうしたの?トラックがどうしたの?なんか買いたい玩具でもあるの?って。まるで…まるで。
目の前のトラックが無いかのように言うんだ。
いや、多分、見えてなかったんだろうなって思う。それを最初は分からなくて。だから…なんでもないって、言ったんだ。そしたら、そうって言ってまた俺の手を引いて歩き出すんだ。トラックに向かって。このままだとぶつかる。ケガする。そう思っても、なんていうのかな。変に抵抗しちゃダメな気がして。そんな雰囲気があって。あ、このままにしないといけないんだって。当時の俺は思ってさ。だから…そのまま。
トラックに向かって歩いたんだ。
大人しく。
それでどんどん、トラックが近づいていて。それで…その、近づくたびに匂いがさ…すごく、鉄っぽい匂いっていうか血の匂いが濃くなってくるんだ。あたりはなんだか、空気が冷たくなってきているような気がしてさ。変な鳥肌たつし。それでもお母さんに声をかけることがダメな気がして。叔父さん。本当んなんだよ?信じしてる?え、信じるのこれ。どうして信じられるの?経験した俺自身が、今でも見たことが信じられないのに。…島?巫女っぽい人?そういう人に出会ったの?へえー聞かせてよ。俺の話が終わったら?分かった。
えっとそれで…あ、ぶつかるって時になって。俺、目をつぶったんだ。力強く。もう俺の力じゃあ、どうにもならないしさ。同時にお母さんの手を少し強くギュッと握って。そして。
トラックの中を歩いたんだ。
どんな感じ?んーそうだな…血の匂いが一番濃かったかな。あと、一番空気が冷たかった。でもね。どんどん歩いていくと少しずつそれらが薄れていくのが分かった。同時に、お母さんの手から伝わる体温の暖かさが俺に伝わっているのが分かってさ。最初は気にしてなかったんだけど。そのお母さんの暖かさっていうのかな。それが手から体中に伝わるみたいな感じがあって。少しずつ、俺を元の世界に戻してくれているみたいで。
少しずつ…何ていうのかな。冷たい空気も血の匂いもなくなってきて。恐る恐る目を開けたんだ。そこにはもうトラックの先の道で、お母さんと一緒にリズムよく歩いていたんだ。それで、俺、トラックが気になって。後ろを振り返ってみてみたんだ。だけど、そこには。
何もなかったんだ。
最初から、道だけだったかのように。あの血の匂いが無くなった時にもしかしたらあのトラックも消えたのかもしれない。それは分からないけど。目を閉じていたから。開けていたら良かったのに?えーそれは無理だよ。怖かったし。もう何が何だか分からなかったし。それ、出来るの叔父さんだけだと思うよ。普通、出来ないんじゃないかな?
その後?あー、んとね。その後は、その道を通って普通に帰った。うちのお母さんに、トラックで欲しいのがあったの?って再度、家でも聞かれたけど。ただ、それだけ。多分、うんとかそうだねとかその時は返事したと思う。あまり覚えてないけど。何度か、その道を通ったけど。それ以降、そういうことはなかった。その一回だけ。それ以外の怪異?んーそういうのないかな。
話してて思い出したんだけど。なんか叔父さんがやっていることって、耳袋みたいだよね。耳袋、知っている?うん。知ってるよねーそれは。叔父さんの部屋ってたくさんの本あるし。まるで本屋さんみたいだなって思ったもん。はー……少し疲れた。
そういえば、さっき言ってた巫女って?なんか島のって言ってたけど。そういえばこの間、出張行ってくるって言ってたやつ?…あーそうなんだ。そこで出会ったの?空港のラウンジで?へえーじゃあたまたまなんだ。
そういうのなんかあるよねー偶然って言うかさ。運命な出会いって。どこに転がっているか分からないよね。
俺が話したトラックも…もしかしたら。
偶然の出会いだったのかなって思うんだ。
でも、そういう出会いって良いよね。
俺、好きだよ。そういうの。




