29 店内の壺
ねえ、店長。
あの壺…どういった経緯でこの店に置いたんです?
いえ、私たち嬢が店のレイアウト言うのちょっと違うと思うんですが。え?怖く感じか?…まあ、はい。その…お客さんも…あの、夜勤の帰りでいらっしゃる警備員の方、くるじゃないですか?偶に。その人が言うんですよ。
この壺から変な雰囲気を感じるって。
それ聞いた時、私…びっくりしちゃって。え、なんでって…店長。もしかして、聞いてないです?
その壺、触った人で…亡くなった人がいるって。
いや、本当ですよ。本当なんですって。オカルトっぽい?話が面白いとかじゃなくて。本当にあったんです。ほらサラちゃんいるじゃないですか。サラちゃんをいつも指名してきた…そうです。その中小企業の役職についているっていう30代の人。ユウキさん。その人がですね。
自宅のマンションから飛び降りて亡くなったらしいんです。
本当なんです。だってサラちゃん。仕事終わって、お店出た時に警察に話しかけられたらしいんです。それがこの間の25日で。亡くなったのは3日前らしいんです。ユウキさん、毎月、20日以降の金曜日にくるじゃないですか。サラちゃんから聞いたんですけど、給与が出てから来るらしいんです、その人。
今月、いつも指名して来てくれるのに来ないなって思ったらしいんです。
それで、サラちゃんが警察に聞かれる前に、私たち雑談していたんです。その時に、ユウキさん来ないねーって会話をしていたんですけど。話をしていたら、サラちゃんがなんか急に挙動不審というか…なんか怖がり出したんです。どうしたんだろうって思うじゃないですか。最初は、ストーカーとかそういうのにあっているのかなって思ったんです。でも、そういう話が出てきたこともなかったですし。まあ普通は、他人に言えることでもないから、話しやすいように話を振ったんです。サラちゃん、もしかして何か怖い事されている?良かったら一緒に警察に相談しに行くよ?って。え?優しい?普段から優しいですしー。
そしたら、サラちゃん。いえ、怖い事というか…何ていうか…って感じで何か言いたいんだけども、言っても良いのか。そんな感じですごく言いづらそうにしていたんです。だから、なんでも話してみて。大丈夫だから!って言ったら少しずつ話してくれたんです。
壺が…うちの店に置いてある壺を…ユウキさんが触ってからなんです。
静かに、だけどもはっきりとそう言ったんです。なにかユウキさん、あったんかな?それとも怪我でもしたのかな?でも店内で何かあったら誰かしらみるだろうし…いったいなんだろう?って思って続きを聞いてみたんです。
うちのお店にトイレの途中にある壺、あるじゃないですか。それをユウキさん、トイレ行く途中にふらついて、触っちゃったんです。お店の備品だから私、慌ててユウキさんのとこにいって大丈夫ですか?て聞いたんですが。そしたら、ユウキさん。
怖い顔をしてじっと壺を見ているんです。
サラちゃんがそしたら少し泣きそうになってて。そんなに怖い顔していたんだ。これはユウキさんが来店した時に言わないと、そんなことを考えていたらサラちゃんが急に私の二の腕あたりを軽くつかんできたんです。そして、続けてこういったんです。
まるで…まるで、誰かが憎くてたまらない。そんな顔で…その時は、言いすぎな感じもするかもしれませんが、まるで鬼のようって思ったんです。なんかあるじゃないですか?人が怒った時の表現で。それよりも…一目見た時なんですが。
私、鳥肌が立ったんです。
怖くて。
私、それを聞いて…私まで鳥肌が一瞬でたちまして。本当ですよ。でも、当時の事を少しずつ話していくうちに思い出させちゃったのか、私の二の腕をつかんでいる手が少しずつ力が強まっていて。痛くはなかったんです。サラちゃんはそんなに力強くなかったですし。でも何ていうか、必死に助けを求めているって感じがして。私、手を覆うようにして握ってから、安心させるように声をかけたんです。気のせいだよ、とは言わなくて。大丈夫、大丈夫だから。私が店長とかに聞いてみるから。って。そしたら、サラちゃん。私の言葉が聞こえてないかのように話し続けるんです。
それで…それで、ですよ。その初めて触ったのが、今から3ヵ月前ぐらいでして。その次の月にも来店された時。
もう目がおかしかったんです。
どういう風におかしかったの?なんか怒っているとか?それともお酒飲みすぎとか?って聞いてみたんです。もう話の流れ的に、その壺が触った所為かなっておもったんですけど。でも信じられないじゃないですか。だってそういう事が身近に起こるなんてなかったですし。そしたらなんかサラちゃん。少し黙っちゃって。何か口を開けては閉じてを繰り返してて。言いにくいけど、ここまで言って良いのかって感じで。それを見て、私、良いんだよ。私だったら大丈夫だからって言ったんです。そして少しうつむいて黙った後、静かに、でもはっきりと言ったんです。
本当に鬼のような顔だったって。
目が血走っているし、なんか雰囲気が暗かったらしいんですよ。サラちゃんが言うには。私、ちょっと気になって、仲の良いボーイの人にも聞いてみたんです。ほら、アツトさん。そうです。あの坊主頭にしている。その人、サラちゃんと良く話していますし。シフトもよく被るじゃないですかサラちゃんと。だから、聞いてみたんです。何か、サラちゃん、変なお客さんに絡まれてる?って。そしたら、ユウキさんが来た時もアツトさんもいたらしくて。壺を触った時も、その次も見てみたらしいんですが。アツトさんから見ても変な雰囲気だったらしいんです。でも…これ、多分サラちゃんは知らないらしいんですが。店内に案内するときにユウキさんがボソッと言ったらしいんです。
ああ、誰か。一緒にいってくれる人はいないかなって。
え?いかがいたしましたか?ってアツトさんはユウキさんに尋ねたらしいんですけど。でもユウキさんはなんでもないですって言ったらしいんです。でも目は笑ってなくて。口だけは笑っていて。アツトさんはその顔をみて。
すごく気持ち悪い。
そう思ったらしいんです。
確かにって思ったんです。ユウキさんには悪いですけど。それで?ああ。そのあとです?その後は普通に飲んでいたらしいんです。サラちゃんと話しながら。アツトさんもサラちゃんも、気のせいだったのかなってぐらい普通で。でもトイレに行くってまた壺の前を通った時にですね。まっすぐトイレに行くと思っていたら、壺の前でユウキさんが立ち止まってじっと壺を見るらしいんですよ。どうしたんだろう?って怖いなって思いつつもそう思ってたらしいんです。サラちゃん。そしたらいきなり、手を壺の中にいれて何かを取り出そうとしたらしいんです。え、って思うじゃないですか。サラちゃんはどうしたら良いのか分からなくてとりあえず、ボーイの人に声をかけてどうしたのか聞いてもらうように言ったらしいんですけど。私はその場面を見てないので、分からなくて、サラちゃんから聞いただけなんですけど。
取り上げないと。絶対にって。
壺に手を入れながらユウキさんが静かに、でもいつもよりも低い声で呟いていたらしいんです。
静かに、だけどもサラちゃんのとこまで聞こえるぐらいの声の大きさだったって。周りのお客さんもなんか少し怖がっていたって聞きました。そういう事があって、あの壺に触ろうとか、むしろ近寄りたくないっていう人が出たらしいじゃないですか。正直…私も怖いです。
すいません。ここからが本題なんですけど。
あの壺、お店からどかしてもらえませんか?
なんかそういう事もありましたし。すごく怖いです。現に、掃除しているボーイがあの壺からなんか声が聞こえるって言う話も聞きますし。
あ、ちょっと話変えないでくださいよ。え?サラちゃん?
…そういえば、今日、シフトですよね?まだ来てないんですか?
ねえ、店長。
なんで…言っちゃ悪いかもしれないんですけど。
なんでそんな顔をしているんですか。




