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日常怪異禄 あなたの隣に怪異を  作者: ま〜ち


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26 都会で出会った怪異

 旅行した感想?そうだなー…ちょっと笑わないで聞いてほしいんだけど。


 私、鯨を見たの。


 …うん。そう。私が旅行先に行ったのは東京のど真ん中。山も川も、海もないところ。彼氏と一緒に行って回ったの。水族館?違うんだなーこれが。だって、私が鯨をみたのは。


 渋谷で見たの。


 あ、渋谷のセンター街だと思った?実は違うんですー。行って見て思ったんだけど、渋谷区って結構広いのね。騒がしいのは駅周辺だけ。ちょっと歩いたら、地方の街並みとあまり変わらない感じなの。え、自慢?フフフ。自慢しても良い?冗談よ、冗談。あ、小突かないでよ。もう。


 えっとなんだったけ?…ああ、そうそう。東京の旅行って3日間を予定していたの。それで、2日目だったかな。渋谷にいってスクランブル交差点に行ってさ。あの交差点、凄いよね。人がさ入り乱れてて、それを誰にもぶつからずに渡る人がいるの。私たちみたいな地方に住んでいる人にとっては、お祭りかなって思うぐらい。最初はさ、動画撮ったり、写真撮ったりしたんだけどね。やっぱり慣れてないからさ。ちょっと、疲れてきてね。五月蠅いところじゃなくて、静かなところに行きたいねって話になったの。


 それで、調べたら、なんか神社が歩いて15分ぐらいだったかな?少し駅から遠いんだけどあってさ。え、ホテル?行かないよーもう。だってホテルなら泊まっているところあるし。それで、ここなら休憩がてら良いんじゃないかって話になったの。ついでに行き方調べたら、近くに大学があってそこのバス停で降りたら良いっていうのが分かってね。それでバスで行ったの。ねえ、ミキちゃん。知ってた?東京のバスって、最初お金払ってから乗るんだよ。そう、定額なの。どこまで行っても180円。最初、それ知らなくて乗ったら。運転手さんにお客さん、乗車賃。って言われちゃってさ。あれは恥ずかしかったー。え、知ってたの!えー言って教えてよーもう。


 それで、バスでその神社の近くまで行ってね。これは後で知ったんだけど。そこの神社って縁結びで有名らいしいのね。私たち、知らなくて。地元の神社しか知らないしさ。神社めぐりのための、旅行でもなかったしね。それで、神社に入った瞬間なんだけど。


 あったかい風が吹いたの。


 なんていうのかな。こう、体の奥底から温めてくれているような。そんな感じがしてさ。風に乗って、木の香りと土の香りも漂ってきて。まるで私たちの地元に帰ってきた。そんな気がしたの。それで、その神社に参拝してさ。その後は、なんかまったりしちゃってさ。でも座るところがなかなか、見つからなくて。そしたら近くに公園があったの。ブランコとすべり台ぐらいしかない、そんな小さな公園。子供たちも誰もいなくてさ。まあ私たちが旅行したのって平日だったし、子供たちは学校だしね。


 それでね。その公園のところにベンチがあったの。小さなベンチ。3人が座れるぐらいの。木製でね。ちょっと古くなっているみたいでいたるところに傷があるような、そんなベンチ。少し離れているところに自販機があってさ。うちの彼氏がなんか買ってくるって言うから私、座って待ってたの。うちの彼氏、こういう時、選ぶの時間がかかるからさ。座って、ぼーとしてさ。春だったし、凄く良い天気でね。あーこんな時間がずっと続いたら良いのに。そんなことを考えていた時にね。


 急に、周りの声と音が消えたの。


 何だろう?今までしていた、風の音も、遠くから聞こえていた車の音、歩いている人が話している声、それらが消えてね。あれ?急に私、おかしくなったかな?って思ったの。病気になった?でも、そんな前兆もなかったんだけどね。急にちょっと怖くなってさ。慌てて、うちの彼氏を呼ぼうと思った時だった。


 地面から、鯨が飛び出してきたの。


 凄く大きくてね。どれくらい?んー比較するものが思いつかないけど…トラックあるじゃない?大型のコンテナと一緒によく道路で走っているやつ。そうそう。それぐらいかな。それが、私の目の前を飛んでてさ。それで、体が太陽の明かりを浴びてすごく綺麗に光ってて。でも水しぶきとか、音はなくて。もう…何ていったら良いのかな。海で見たらこんな光景なんだろうな、そんな感じ。


 その時だけ、すべてがゆっくりと時が流れているようだった。

 

 ゆっくり。ゆっくり鯨が飛んでいてね。綺麗だって思うことも出来なくて。私。圧倒されたって言ったら良いのかな。うわあーって思うぐらいしか出来なかったかな。それで、じっと見ていたら。

 

 鯨と目があったの。


 いままで前を向いていた目がゆっくり私を捉えた。そう思ってね。私…その目から話せなくて。でも、普段、テレビとかで見る鯨の目じゃなくて。


 綺麗な青色だったの。

 

 目が。


 その青い目とあった瞬間、周りがモノクロ世界になって、まるでゴーグルをつけた海中にいるようになってさ。息も苦しくないし、水の感触も何もないんだけど。体が、少し冷たくて、でも心地いい感じ。夏の海に入っているようでね。相手は飛んでいるのに私は水の中にいる。そんな不思議な感じで。少しして、鯨が目を私からまた前に戻して少しずつ、地面に近づいていったの。ああ、この時間が終わるんだって思ったら、とても残念に思えてね。だから、私この光景を記憶に刻みたい。写真を撮りたい。そう思って携帯で写真を撮ろうとしたんだけど。


 金縛りにあったみたいに腕が動かないの。


 腕だけじゃなくて体全体が。動けるのは目だけ。初めて金縛りにあって、驚いちゃった。私。動かしたくてもなんだろう、周りから圧をかけられているような。変に力が入って動かない。そんな感じ。


 それで頭から石畳の地面に少しずつ入って行って、尻尾まで消えたと思った瞬間。


 また暖かい風が私を包んだの。


 え?表現が小説みたい?そうでしょ?こう見えて私、文学少女だったんだ。

 それでね、今まで自分が息していなかったことに気が付いて、急いで息すって。息吸った瞬間、もう汗が出っぱなし。せっかく気合入れて化粧したのに、それが落ちそうなぐらい。学校でマラソンをした時みたいに汗出ちゃってさ。……でもなんか満足感があってね。良い物みた。うーん…なんか違うな。良い光景を見たって言った方が良いかな。それを感じてね。ベンチの背もたれに背中を預けて、上を見てさ。背中から感じるベンチの少し冷たい感触が体の熱を逃してくれるような気がしてね。すごく心地よかったのを今でも覚えているの。それで、上を見ながらため息をついて、少しゆっくりしていたら彼氏が両手に缶ジュースを持って帰ってきたの。


 彼氏が目を見開いてじっと私を見ているの。あ、彼氏も見たのかなって最初は思ったんだけど。違くてさ。


 どうしたの?足、濡れているよ?


 それ言われて私、足元を見たの。そしたらお気に入りのブーツが水に浸したみたいに濡れててさ。あーさっきのはやっぱり私が本当に体験したことなんだ。そう思ったの。彼氏にさ、聞いてみたんだけど、さっき変なこと起きなかった?って。さすがに現実離れしているし、なんかおかしくなったと思われるかなって思ったからさ。鯨の事は言わなかったの、私。そしたら、ちょっと首傾げてさ。


 何の事?


 そう言われたの。あー私だけだったんだ。ちなみにどれくらいで戻ってきた?って聞いたんだけど、3分とかそれぐらいだって。それで私、携帯をさ、出して、時間を確認してみたの。


 ここに来て15分ぐらいしか経ってなかった。


 私の体感なんだけど……20分とかそれぐらい見ていたような気がしたから。それに少し驚いちゃった。

 それで、その後はベンチで二人でゆっくりしていったあと、また渋谷駅に戻って夕飯食べてホテルに戻ったの。


 その日の夜、なんか変に興奮しちゃって。私、なかなか眠れなくて。誰かに言いたいけど、でも現実離れしているし。そこで思いついたのがミキちゃん、あなた。笑わないで静かに聞いてくれるし。……いやいや、お礼は私が言いたいよ。聞いてくれてありがとうね。この興奮を誰かに伝えたくて。本当に。


 その後?変わったこと?

 んー特にないかな。

 あ。


 携帯の壁紙は鯨にしたの。


 また会いたいからね。


 もう一度、あの鯨に…あの光景を見てみたいの、私。


 

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