25 川釣りで出合った怪異
そういえばさ、この間、川で釣りしていたら。
変な子供3人に絡まれたんだけど。
いやいや。ヤンキーとかそういった子供じゃなくて。何ていうのかな。高井さんも釣りすると思うけど、こういった経験あるかどうか教えてほしいんだけどさ。
なんていうか、戦国時代とか江戸時代の時のような恰好をした子供3人だったんだよね。どんな格好?そうだなー何て表現したら良いのかな。ほら、時代劇とかで見る農家の子供いるの分かる?…そう、そんな感じ。それで、俺さ釣りをしていて。え、時間帯?ああ、朝方。朝からやってたのね。それでなかなか釣れなくて。もう、今日はダメかなーって思っていたんだ。それでも昼頃までは粘るかなって考えててさ。あれは…昼前。だいたい11時頃だったと思うんだけど。
急に子供の笑い声があたりに響いたんだ。
最初は家族で遊びに来ている人がいるんだなーって単純に思ったんだ。こんな川に朝早くから、元気だなとかさ思ってて釣りをしているとその笑い声が一人だけじゃなくて複数いることに気が付いてさ。ひたすら笑っているの。なんか底抜けに明るくてさ。本当に…楽しそうに。釣られて俺も笑っちゃいそうになってきてさ。もう釣果が無くても、今日は良いかなって思えてさ。心が少し…軽くなったような気もしたんだ。
でもちょっとおかしいなーって思えてさ。どこが?えっと…ふつうそんな風に笑っていたりしているとさ。
大人の声も混じると思うんだけど。
それが一切なかったんだ。あれ?子供だけできたのかな?って思ったんだけど。どう聞いても小学生ぐらいの声だしさ。しかも、近くに住宅もない、山の中の川だし、車でこないと来れないような場所。他の場所にいるのかな?って思っていたらさ。
急に太鼓の音も鳴りだしたんだ。
なんだろう?なんかこの地方のお祭りか?それとも今日、何かあったのか?そんなことも聞いてなかったし、あとで調べても出てこなかった。なんかその太鼓も、陽気なんだよ。静かな空気を壊すよう…壊すというのは違うかな?何ていうのかな。…そうそう。明るくするような感じ。場違いなほど。それでその太鼓の音と共に子供たちの楽しそうな笑い声がどんどん近づいて来てて。
少ししたら、俺のすぐ後ろまで来たのが分かった。
なんだろう?って思って後ろを振り向いたら、前髪がない、子供たち3人が楽しそうに歩きながら太鼓を叩いていてさ。その太鼓?ああ、大きなお祭りの太鼓を想像した?ちょっと違くてさ。こう、チンドン屋さんが持っているような。前にこう…太鼓を持っている?感じ?分かるかな。左右にたたく所があってさ。ま、いいや。それで、さっきも言ったけど古い服?なんかちょっと色がなくて、土で汚れたような感じ。それを着ててさ。何しているのかな?って思って気になって。楽しそうにやっているし、他に人はいないけど3人だけで何でやっているのかなって。それで釣り竿を地面に置いて声をかけてみたんだ。
おーい、何しているの?って。
そしたら一斉にこっちを見てきてさ。
その3人の顔から一気に笑顔が無くなって無表情。それを見た瞬間、ちょっと背筋がゾクってして。周りにあった川の音、匂い、それらが一斉に無くなったような気がした。少しの時間、じっと固まって俺を見てきたんだけど、3人が顔を見合わせて、なんかアイコンタクトしているんだよ。何も話さずに。ちょっとその時…子供に対して思っちゃいけないんだけどさ。
不気味で怖い。
そう思ったんだ。
少しのあいだ、3人がちらちらこっちを見ながら何かアイコンタクトしてて。どれくらいかな、だいたい多分5分ぐらい、そうしていたのかな。その間、俺さ、どうしたら良いんだろうって思って。とりあえずずっと眺めていたんだけど、見れば見るほど時代劇に出てきそうな子たちだなって思ってさ。何度も言うようだけど、前髪がなくて頭頂部は青白く剃られてて。そうそう。お侍さんの頭頂部みたいな。そのなりかけ?っていうのかな。そういう頭にしててさ。なんかこう…すごく綺麗なんだよ。その頭が。作られているような、そんな感じがして。そしたらある一人の子が俺に近づいてきたんだ。
おいちゃんは釣りをしとるのか?って。
おいちゃんて…もう昔の言い方だなって思ってさ。まあいいやって感じでさ、とりあえずそうだ。って答えたんだ。それで少し会話してさ。なんだやっぱり普通の子たちだなって考えたんだ。少し安堵していたらさ、少し距離がある2人のうち一人が俺に聞いてきたんだ。
釣れているの?って。
今目の目の前で話している、子と同じ声で聞いてきたんだ。最初は聞き間違いかなって思った。でもいや、全然と言ったら。
そうか。
やっぱり同じ声だったんだ。聞き間違いじゃなかった。絶対に。え?って顔をしたら俺に一番近い子を見たら、今まで無表情だったのがニコって笑ったんだ。その時。
背筋がゾッとしたんだ。
それで話題を変えようと思ってさ。ところでなんで太鼓を叩きながら来たんだ?って聞いたんだ。そしたら目の前の子がじっと俺を見てきたんだ。その目が…すべてを見られているような気がしてさ。ちょっと圧というか、力を感じるような。そんな感じだった。それでゆっくりと、後ろ2人を振り返って、アイコンタクトしててさ。3人がゆっくり頷いた後、再び俺を見てきて、こういったんだ。
かやしていたんだ。
そう言われてさ。かやしていた?なんだろう?そう思ったんだけど。何それ?って聞ける感じでもなかったし、聞いたらダメなような気がして。あと、大人である俺が知らないって言うのもちょっとなんか言いたくなかったっていうのもあってさ。そうなんだー大変なんだな。っていう感じで言ったんだ。
そろそろ。行く。魚釣れるとようござんすな。
古風に言うもんだなって思いつつ、ついお辞儀してどうもって言うと、また太鼓を叩きながら山に入って行ったんだ。え?凄く大人びてそう?そうなんだよ。なんていうか、今の子供って感じではなくて、大人と話している感じがしてて。見た目と話の内容が合致していない。そんな感じ。山に入って行く姿を見送ったんだけど…その子たちが通った道というか山が少しずつ鮮やかに色づいているような気がしたんだ。目が悪くなった?違うよ。多分。自信ないけど。んで、太鼓の音が少しずつ遠くになるにつれて、現実に戻っていくような感じがしてさ。もしかして、今のことは夢だったんじゃないか、そう思って自分の腕をつねったりしたんだけど。しっかりと痛かった。
ところで、高井さん。かやせって何か分かる?まだ、その言葉、言ってて気づいたんだけど何のことだったんだろう?って今思ってさ。なにか知っていることある?え、調べてくれてたの?ありがとう。それで、どうだった?…うん。うん。え、そうなんだ。返す?返せってこと?
…なにを返すの?それで、何を返していたんだろうね。あの子たち。
もしかして、俺がその日、魚釣っていたらそれも川に返さないといけなかったのかな。でも、釣った魚を無駄にするわけじゃないし…良いよね?多分、大丈夫?そうかなー。むしろ良いものに出会った?本当にそう?っていうか、あの子たちって怪異だったのかな。もう分からないや。実は、なんか、今でも太鼓の音が聞こえてきそうで、ちょっと怖いんだよね。
あ、あのさ。何度もあるから今更なんだけど。
…今度、一緒に釣りに行ってくれない?




