24 待ち人
なあオヤジ。うちの山にいるって言われているお侍さんの幽霊の話、覚えている?そうそう。そのお侍さん。
俺さ。
そのお侍さんに会ってきた。
実はさ。この間、山菜採りに行っただろ?その時に。どうだった?んー…誰か待っているような感じがしてさ。それで子供のころから聞かされていた姿のまんま。槍持って、簡易的な防具つけていてさ。槍は凄く綺麗で、本物っぽくて。防具は少し汚れているような感じだった。それで、なんていっても若いのな。多分、10代。俺よりも若い感じがした。そんなお侍さんをじっと見ていると。
目が合ったんだ。
そんなこと初めて?そうなの?まあいいや…それで俺さ。目が合って、そしたらあっちが目を見開いて驚いているような感じがしたからさ。
俺、声をかけてみたんだ。おい。そこのお侍さんって。そしたらさ、手を挙げて返事してきたんだよね。まさか返答が来るとは思ってなかったからさ。それで地中に埋まっている大きな岩のところまで、歩いて行ったんだ。いつもさ、そこの岩に背を預けて待っているだろ?その侍。藪をかき分けてさ、近づいてくのを侍はじっと見ていてさ俺の事。ふと思って侍の方を見ると、俺が何かしたら対応できるようにって感じ。手は刀にかけてなかったけど槍を持っている手が少し力が入っていてさ。それで俺、何もしませんよーって感じで手を挙げたんだ。そしたら、少し手の力が緩めるのが分かったんだ。あ、もしかして少しは警戒解いてくれたのかなって思ってさ。それで、槍の間合いって言うのかな。その範囲に入ったらさ、雰囲気が普通と違うのね。何ていうのかな、重い空気っていうか。そこだけ時が止まっているって感じ。そんな空気の中さ、思いきって聞いてみたんだ。
なんでこんなところにいるんだ?って。
そしたら、こういうんだ少し上を向いて考えた後、侍が俺を見てこういったんだ。
人を待っている。
まっすぐな目で俺を見ながら言われた。あんなまっすぐな目を見るのは初めてだった。昔の侍ってあんな感じなのかな。何ていうか、まっすぐで曲がったことをしません!みたいな。でもどこか穏やかでさ、優しい物の言い方するんだよな。え?生死のやり取りしているから、自然とそうなることもあるって?んーそうなのかな。オヤジみたいに俺、そういう経験ないしな。まあオヤジも猟師だし、そういったものを見るのって初めてじゃないだろ?
…やっぱりあるんだ。でも、うちの山にいる侍さんに話しかけられたのは俺だけなんだ。どうしてなんだろうな。よく分からないんだけど、オヤジ、何か分かるか?…うん。そうか。分からないよな。まあ、たまたまっていう線かもしれないし。それは良いんだけどさ。
それで俺、また聞いてみたんだ。
誰を待ってるんだ?って。
お侍さんはまた、俺から目を逸らして、チラっと俺を見てからこう言ったんだ。
竹馬の友をって。
俺さ、言葉の意味は分からなかったけど何を言いたいかは分かったんだ。だから、親友ってこと?って聞いたらさ。黙って静かに頷いてた。その時、初めて親友を待っているんだ、しかも最低でも100年以上?…え、もっと?まあいいや。そのうちの爺さんが過ごした年月よりも多く待っているんだって思ってさ。律儀だなーって思ってさ。素直にさ、凄いね。良く待てるね。って聞いたんだ。そしたらお侍さんがまたまっすぐな目で俺を見つめてきたんだ。
約束した。故に待つ。
そう言ったんだ。静かに、だけどすごく重くて、絶対にその親友は来るって信じている感じだった。でも口約束じゃん?だから口約束でしょ?来ないかもしれないじゃんって少し、明るく聞こえるように言ったらさ。即座に。
約束は約束だ。
そう言ったんだ。もう何を言ってもダメって感じ。そうかーって思って、待ち合わせしたってこと?って聞いたらさ、そうだって言うんだ。なんで武装して待ち合わせしてるんだろう?一緒に戦場に行く約束をしたのかなって思ってさ。それも聞いてみたのね。
敵同士になった。それで最後に話をしたくてって言う感じの事を言ってた。
そこらへんは昔の言葉?っていうのかな。難しい言葉で話していたから正確にそう言ったかは分からないんだけど。それで、そうなんだ。そういうことあるんだねみたいなことを言ってさ、どんな親友なのか気になって聞いてみたんだ。また俺をチラっと見られた時、ちょっと深く聞きすぎたかなって思ったんだけど。話してくれた。
同じ、寺小屋で育った。一番最初の出会いは、席が隣だった。あいつは落ち着かなくてよく先生に怒られているやつだった。そこで寺小屋での授業が終わった後に話しかけたら明るく元気で雰囲気が良いやつだった。帰り道、ずっと話していた。その日から、帰り道は一緒に帰って、山に入ったり、お互いの家に遊びに行ったり、一緒に敵対する集団とケンカしたりした。大立ち回りをしたケンカの帰り道はお互いボロボロで、家に帰った時は大変だった。
そういう話を静かに、だけど楽しそうにしてくれてさ。思ったよりも話すなこの侍って思ってさ。同時に何か今とあんまり変わらんなーって思って、俺もそういうことあるよーって言ったらさ。初めて笑ってくれてさ。そうかって。短い言葉だったけど凄く嬉しそうだった。それでさ、俺、首から下げているお守りあるじゃん?それ、うちの爺さんからオヤジ、オヤジから引き継がれているお守りじゃん?凄く古くてボロボロのやつ。そうそう。それをじっと見ててさ。
そのお守り。
そういって俺の顔を見るんだ。じっと。なんだろうって思ってさ。どうしたん?なんかあった?って聞いたんだ。今まで、穏やかでまっすぐな目だったのがちょっと怖くなっててさ。
そのお守り、どうした?
ちょっと声がさっきよりも低くてさ。なんだろう、圧って言うのかな。気迫っていうのを感じて。それに俺、少し怖くなって。鳥肌が立った。それでいいわけみたいに言っちゃったと思うんだけど…うちのオヤジから引継いで持っていることを伝えたんだ。伝えた後も黙って俺をじっと見ていてさ。すごく怖いのな。もう殺されるんじゃないかって思うぐらい。さっきまでしていた風の音も、鳥の声も何も聞こえなくなるような。そんな感じ。オヤジもそう言った経験ある?…あー熊に会った時か。似たような感じなのかな。それでさ、まるで何時間もいたような気がして。だけどある時、ふと緊張がほぐれれさ。深く息が吸えるようになった時、顔から一気に汗が出た。
そうか。すまん。
そういってまた俺のお守りに目をやるんだ。気になるのかなって思って、汗を拭きながらお侍さんの隣まで歩いてさ。お守りを見せたんだ。見てみる?はるかに昔から持っているお守りだから、何を書いているのか分からないけど。でもこの山に入るときは持っていけって言われているから。そう言ったんだ。
御守りを見ながら、そうかって言ってさ。少しの時間見ていたらお守りから目線を上げて、上目遣いに俺を見てきたんだ。
名前は?
あ、俺の名前?って思ってさ。言ったんだ。素直に。そういうと。
そうか。
また、短い返答だけ帰ってきた。お侍は岩に背を預けて上を見て、また待つ体勢になったんだけど。でも…顔がさ、どこか満足げな顔をしていたと思うんだ。俺の気のせいじゃなかったら良いんだけど。
それでもう少しで夕方になりそうだったから、帰ることにしたんだけどさ。帰ろうと思って、じゃあ帰るわってお侍に行って帰ろうとしたらさ。
ああ、また。
そう言って槍を持っていない手を挙げたんだ。
俺も返答してくれたことがなんか嬉しくてさ。無性に楽しくなってさ。なんでかって?分からないんだけど。でも楽しくてさ。笑って俺も、手を挙げたんだ。そしたらまたお侍さんは目を見開いてさ。でも、それは一瞬で。またいつもの穏やかなまっすぐな目になっていた。
また、来るわ。
そう言って別れたんだけどさ。一瞬だけ、本当に一瞬だけ。
あのお侍さん、笑ったんだ。
そんな感じ。まあ大した話をしたかというとそんなことないんだけどさ。でもなんだろう。俺もさ久しぶりにあった友達にあったような気がしたんだよね。
え、今度、山行くときも気を付けて行けよ?分かっているよ。
また明後日、ちょっと友達に会いに行ってくるわ。
今度はどんな話をしようか。




